【58話】エキシビジョンマッチ


 さて、本選トーナメントを勝ち抜き優勝者となった俺だが、まだ最後のイベントが残っている。

エキシビジョンマッチに出場する勇者の子孫、ツキミ・サガワとの一戦だ。


これについては今すぐに始まるのか、それとも何らかの小休憩を挟むのかは知らないが、とりあえず決勝戦で受けた傷はサーニャに癒してもらう他ないだろう。


「あらー。ルーくんと互角に渡り合うなんて、ディーもやるときにはやるのねー」

「まあ、それでも勝てなかったけどな。やっぱルーは強ぇよ、いつか絶対に追いついてやる」

「はははっ、その時までにこっちも腕を磨いておくさ」


 二人してサーニャの闇魔法で癒してもらいながら軽口を叩くが、正直決勝戦はヒヤヒヤした。

これは今後、なにか俺も切り札を用意しとかないとまずいかもしれないな。


 固有技能の新しい使い道でも良いし、基礎能力の底上げでも良いし、その他の何かでも良い。

なんらかの強さを身に着けておかないと、親友に足元を掬われそうだ。


 今度定期連絡があったら、ヴラド伯父さんに吸血鬼ヴァンパイア特殊技能エクストラスキルのいくつかを教えてもらおうかな。

伯父さんなら母さんよりも多くの特殊技能を揃えてそうだし、何より吸血鬼はスキルの宝庫だ。


 一つ一つの力は必ずしも戦闘向きな物ではないらしいが、それは力任せに強くなるスキルではないというだけであって、運用法次第では化ける物も沢山あるだろう。

一度魔大陸に戻った時が楽しみだ。


 そんな今後の事を考えながらしばらく治療を受けていると、ようやく最後の相手であるツキミ・サガワとの決戦の準備が整ったとの知らせが入る。

体力はまだ全快とは言い難いけど、傷は癒えた。


 これなら十分、あの猛者との対戦にも力を入れる事ができるだろう。


 正直、圧倒的な戦闘力を以て俺に挑んできたディー戦の後だと、あの相手ぐらいでは負ける気もしない。

せいぜい最強の子孫とやらのお力を拝見させて頂くとしよう。



──☆☆☆──



 大勢の観客が見守る中、前大会優勝者と今大会優勝者の頂上決戦が行われようとしている。

俺の武器はミスリルボール三つに、魔法銀の双剣。

対する向こうは背中に弓を背負い、拳にはナックルダスター、腰には刀のような物を装備しているようだ。


 ずいぶん色々と武器を装備しているな、全身武装兵器か何かなのだろうか。


「来たか剣聖。本選はとある事情で見学できる時間が取れなかったが、あのバケモノ親父の冒険仲間パーティーメンバーであるヴェーラ様を下すとは思わなかったぞ。この場にはあの人が来ると思っていた」

「それはどうも。まあ、楽勝だったよ」

「ハッタリは止せ、楽勝であるはずがない」


 いやいや、本当に楽勝だったんだけどね。

それにしても本選をまるまる見逃していたのかこの人は、これは俺の手の内が知られていないっていう意味で、かなり大きいな。


 もしかしたら奇襲の一発で倒せるかもしれない。


「よし、両者準備は出来たな? それでは、ガイオン王国闘技大会、前大会優勝者と今大会優勝者によるエキシビジョンマッチを開始する! 試合──、開始っ!!」

「まずは先手を打たせてもらうぞ剣聖っ! 飛び道具が無い己の戦い方を恨むんだなっ!」


 合図の直後、あの伝説弓兵と似たり寄ったりの魔弓を所持したツキミが、遠距離から先制攻撃をしかけてくる。

やっぱりあの試合を見てなかったんだなこいつ、その戦法は俺には全く効果がないって事を知らないようだ。


 ただもうこの弓に対するパフォーマンスは十分に行って来たし、前回のように舐めてかかる必要はどこにもない。

さっくりと接近してしまおう。


「ははははっ!」

「なっ!? 魔弓の攻撃が当たらない、だと!? ──ガッ!?」

「甘すぎるぞ猿真似子孫、【連撃】五の型」

「アガ、ァッ!?」


 すかさず間合いに入った俺は、弓とかいう近接では防御にも攻撃にも不向きな獲物を持ったツキミ相手に、全力で連撃を放つ。


 確かに弓の技術や連射速度は伝説の弓兵に匹敵する物を感じるが、彼女と違って魔弓技の必殺技ですらない攻撃で牽制しにかかるなど、愚の骨頂。

勇者の子孫という事で英才教育を受け、もしかしたら仲間であった伝説の弓兵から指導を受けていたのかもしれないが、それが逆に仇になったな。


 他人の技術に信頼を置きすぎなのだ、こいつは。

その弓術は確かに強力だろうが、それでもそれは相手による。


 師匠の一人であろう弓兵を倒した俺を目の前にして、同じ手が通用するなどと考えるその頭から鍛えなおしたほうが良いぞ。

そもそも、遠距離だから有利に攻撃できるなどという、思考停止まっしぐらの戦法が通用するならば、俺は一回戦で敗北しているだろうからね。


「相手を舐めたツケは大きいぞ最強子孫、実力差云々の前に覚悟の差で散るといい」

「ク、クッソ! アガァアアアアッ!!?」


 さすがに前衛としての修行も積んでいるのか、思いっきり攻撃しても一回戦の森妖精エルフ以上にダメージの通りが悪い。

しかしそれでもディーに比べれば赤子同然、このまま押し切れるっ!


「五の型、五の型、五の型ァッ!!!! そしてトドメの、五の型ァッ!!」

「ァ……、ガ…………」


 全身に双剣の猛攻撃を浴びせられ、一瞬で瀕死の状態になるツキミ。

どうやら彼の実力を発揮させる前に倒す事ができたようだ。


 会場は何が起きたか分からずに静まり返ってしまったが、何にせよこれで闘技大会のミッションは終了だね。


 結局のところ全勝できだし、最善の結果と言えるんじゃないかなこれは。

いやー、良かった良かった。

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