【55話】ルーケイドvs本気ディー


 準決勝となる第二試合目、予想通りアザミさんは棄権した。

体力の回復が間に合っておらず、聖剣の力も今のところ枯渇してしている今、出ても何も出来ないかららしい。

一度様子を見に行ったが、確かに酷い疲れようだったので納得といった感じだ。


 本人曰く、あの聖剣を使うには大量の魔力が必要とか言っていたけど、足りない分の魔力は生命力で補われているらしいので、恐らくその影響だろう。


 で、もう一つの準決勝である騎士団長とディーの試合だが、こちらに関してはディーの圧勝で終わった。

最初はあの怪しげな魔族と同様に実力は拮抗していたのだが、魔族と打ち合う前に降参され体力が温存されているディーと、なにやら因縁の対決だったらしい宮廷魔術師長を下した騎士団長では、前提が違い過ぎたのだ。


 最初からフルパワーで全力が出せる親友に対し、団長側は装備も体力もボロボロ。

素の実力がだいぶ拮抗しているだけに、これでは勝負にならないだろう。


 結局、魔族戦で見せようとしていた切り札についても確認できなかった。


 ちなみに、間違いなく魔族の偵察であろうあの男に関してだけど、降参して試合を降りて以降、消息が全く掴めていない。

試合中に焦った感じが出ていたし、もしかしなくても逃げた線が濃厚だろう。


「と、言う訳で。色々あったけど、決勝の相手はやっぱりディーって訳だね」

「…………ああ」


 現在、両者共に決勝の舞台にあがり、あとは審判の合図を待つだけの状態となっている。

ただ、やけにディーが静かというか、いつもと違う様子で佇んでいるのが気になる。


 こう、嵐の前の静けさというか、なんというかね。


 しかしそうこう考えている内に時間は過ぎていき、審判による試合開始の合図が行われようとしていた。


「よし、準備はできているようだな。それでは決勝戦、試合──、開始っ!!」

「「おおぉぉぉおっ!!」」


 ついに決勝という事もあり、会場内はかつてない程にヒートアップする。

親友がどんな切り札を用意しているかは分からないが、まあ油断せずにいつもの調子で戦っていこう。


 戦士の対決は見た目の派手さに欠けるが、その分一瞬の攻防のやり取りなどの緊張感がアピールに繋がる。

あとは親友がこちらの意図を理解してくれているかだが、たぶん大丈夫だろう。


 そして【身体強化】をかけ、そろそろ踏み込もうかと思った所でディーの口が開いた。


「……先に言っておくが、すまねぇルー。色々考えたけどよ、俺は今回、お前の意図を無視して全力で戦う事にした。まあお前にも予定があるんだろうし、遠慮して攻撃するのは勝手だが、仮にそんな事をして俺と戦った場合、──確実に死ぬぞ、お前」

「……ほぅ」


 いや、ほぅじゃないから。

なんか適当にカッコつけたけど、内心超ビビってるから。


 いったい彼に何があったのだろうか、いつもと雰囲気が違う。

【感知】の反応的には、こうして喋っている間にも全力の【身体強化】を使っているみたいだし、若干闇属性の力も混ざっているように思える。


 一切の余裕を感じられ無いし、まさか、本気で殺し合う気なのだろうか。


「どうせルーだって気づいてんだろ? 俺が全力でお前と戦えるこの日、この機会を待ちわびていたって事くらいな」

「ま、まあな。当然じゃないか」


 いや、全然知りませんでした。

よく訓練で悔しそうにしていたから、もっと戦いたいんだろうなとは思ってはいたけども。


 ぶっちゃけ、ただ暴れたいだけなのかと思っていたよ。


「だよな、さすがにお前に隠し通せると思うほど、俺も愚かじゃねぇよ。……しかしまあ、これ以上は頭の悪い俺が口で何を言っても伝わらないだろうし、時間の無駄だ。だから話はこの辺にして、そろそろ勝負といこうか」

「と、当然だ。こちらも全力で相手になるつもりだぞ。……うん」

「はははっ! それじゃさっそく切り札のお披露目だ俺の目標ヒーローっ! 簡単にくたばるんじゃねぇぞ! なにせ俺はもう、──お前より強いかもしれねぇんだからな」


 その会話の直後、突如としてディーの力が膨れ上がり、闇属性の魔力が彼の体に纏わりついた。

纏わりついている魔力はあまりにも高密度で、俺と同じ銀髪だったディーの髪の毛が黒紫色に輝いていく。


 まるで無属性で行っているはずの【身体強化】を、闇属性と一緒に混ぜて発動させているかのようだ。

でなければ、魔法を使えないはずの彼にこんな芸当ができる訳がない。


 いや、そもそも魔法使いだってこんな芸当はできないけどね。

なんで【身体強化】の技術で髪の毛が発光するんだ。


 もしかして闇妖精ダークエルフ特殊技能エクストラスキルか何かなのだろうか。

体の周囲を黒紫の魔力が覆っているし、さしずめ【闇の衣】といったところだな。


「なんだよそれ。まるで大昔に俺が話した、超闇妖精スーパーダークエルフそのまんまじゃないか」

「当り前だろ。それを目指して今まで修行してきたんだからなぁ」


 マジかよ、まだ諦めてなかったのかよ。


 その執念に一瞬呆れたその直後、今までの訓練では見た事もない速度で急接近してきたディーが、闇の衣を纏った大剣を振るう。

何度も彼の大剣を【念力】の派生技術で回避してきたけど、さすがにこのスピードが相手だと【回避】スキルが間に合わない。


 結構距離があったはずなのに、予想以上の速度が出ていたために完全に不意を突かれた感じだ。

なるべくパワー対決はしたくないのだけど、一度あの大剣を受け止めるしかないだろう。


「チッ、【反撃】一の型ッ!」

「甘ぇ!!! 俺の前でガードなんてのは無意味なんだよっ!」

「なっ!? ……ガハァッ!」


 【反撃】の発動により反射速度の強化を行ったが、ガードが間に合ったにも関わらず謎の魔力ダメージが入った。

確実に大剣の一撃を防いだはずなのだが、親友の体に纏わりついている【闇の衣】がそのまま衝撃波となり、俺の肉体を侵食したのだ。


 このスピードでガード不能って本気で言ってるのか。

これはちょっと、こちらも全力でやならなきゃ勝てないかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る