【52話】伝説への下克上


 予選が終了し、しばらくの休憩を取った後に本選の組み合わせが発表された。

一組目は俺こと剣聖ルーケイド対、この大陸における伝説的パーティーの一人である森妖精エルフ、化け物弓兵の組み合わせだ。


 合計で組み合わせは四組あり、二組目がサーニャとアザミさん、三組目がこの国の騎士団長と宮廷魔術師長、四組目がディーと怪しい男の組み合わせとなっている。

本選に出場する人数が以外に少なかったが、まあ毎年やっている大会みたいなので、その年によって増減したりもするんだろう。


 最後にはエキシビジョンマッチとしてツキミ・サガワとの戦いが待ち受けているようだが、これは優勝した者との試合であり、国のパフォーマンス的な意味合いも強いため、そこまで勝ちに拘る必要はないらしい。


 まあ、ないらしいというだけであって、俺は勝ちを狙うけどね。


 そして、さっそく第一組目の選手である俺と伝説の森妖精エルフが闘技台に呼ばれ、お互いに顔を見合わせる。

観客は当然彼女の方が勝つと思っているだろうし、ヒートアップしていく声援の中にも俺を応援する声は少ない。


「悪いわね少年。アウェーな中で戦わせちゃって」

「まあ、この程度どうって事はないよ。それにこちらこそ悪い。この勝負、まず間違いなく俺の勝ちだ」


 それも圧勝で、だ。

俺の発言に対し顔をしかめ、少し不機嫌な様子になる彼女だが、まあ理由を知っていなければそういう反応になるだろうね。


 なにせ相手は伝説の存在だし、俺はぽっと出のしがないAランク冒険者。

普通に考えれば、一方的に蹂躙されて負けるのは俺の方だ。


「自信家なのは良いけど、あまり大口叩いていると後で恥をかくわよ。あまり勇者の仲間を舐めないほうが良いわ。とある馬鹿から聞いた限りでは、あなたは剣の固有技能を使うみたいだけど……、そんなスキル一つだけで勝てるほど勝負は甘くないのよ」

「ははははっ」


 確かに純粋な実力という意味では俺のほうがやや不利だし、そう思うのは間違っていない。

それに、今回の試合で俺が頼りにしているのも固有技能である以上、あながち的外れな見解でもないのだ。


 ただし、そのスキルの効果が【剣技】ではなく、【感知】であるという事を除いてはだけどね。


 まあ勝った時に俺の強大さを意識させる演出も済んだし、これ以上情報を与えてやる必要もない。

あとは審判の合図があるまで黙って待つだけだ。


「両者準備は整ったな? それでは本選第一試合、勝負、──開始!!」

「悪いけど、あんな挑発を受けた以上は全力で攻撃させてもらうわっ!! 一撃で這いつくばりなさい、──、──スターダストショット!!」


 化け物弓兵が予選で魅せたお得意の魔弓技、数多の魔法矢による弾幕攻撃を放った。

まあ、そりゃあ当然こういう攻撃をするよね。

だって俺の基本武器は剣だもの、弾けないほど多く、そして正確な攻撃を行えば大ダメージは必至。


 距離というアドバンテージがある今ならば、そういう選択肢を取ってくるとは思っていた。


 ただ、俺に対してだけは無意味なんだよなぁこれが。


「ははははははっ! どこを狙っているんだいお姉さん。伝説の弓兵の手元が狂ったのかな?」

「…………嘘、でしょ」


 雨あられと降り注ぐ魔法矢の中を、まるで散歩でもするかのように歩き続ける。

特に急いだ感じでもないその歩みには攻撃の一掠りもなく、俺を避けるかのように全ての弾幕が後方へと過ぎ去っていくのだ。


 まあ、ネタばらしをすれば、なんてことはない。

ただ彼女の魔法矢の軌道を【感知】で把握し、事前に攻撃が来ないと分かっているルートを散歩しているだけなのだ。


 そもそもあの魔弓技とやらの技の本質は、詠唱による威力の増加と、魔弓に組み込まれた魔法陣によるの確保。

魔弓の効果で魔力の道路を作り、その道路の軌道に沿って弓矢が飛んできているに過ぎないのだ。


 普通の人にはそんな軌道は見切れないし、ありえないくらい正確な矢が飛んでくる回避不可能な攻撃となるだろう。

道路の作り方次第では曲がった攻撃も可能だしね。


 ただ、それさえ【感知】できてしまえば、むしろ飛んでくる方向が分かっているだけ親切というものだ。

あの魔弓を使っている以上、たとえどんな奥儀を持っていたとしても俺には届かない。


 この固有技能を持つ者と伝説の弓兵では、絶望的に相性が悪いのだ。

覆しようがないくらいにね。


「さて、距離もつめた事だし。そろそろパフォーマンスは終わりにするよ」

「パフォーマンス、ですって……?」

「ああ。今から全力を出すって言っているんだよ、お姉さん。──【連撃】五の型」


 そう言って現時点での最大火力である【連撃】の多段攻撃を放つ。

【反撃】では少しアシストが足りないかなって思ったので、逃げられないくらいの速度を持つこの型で勝負を決めにかかった。


 あの身のこなしから察するに、そうとう体術は高いのだろうから死にはしないだろうけど、この至近距離で唐突に【連撃】を浴びれば、戦闘不能はまず間違いないだろう。


「──なっ、疾過ぎる!!! グ、ァァァアアアアッ!?」


 流石というべきか、とっさに魔弓で二発ほどの連撃を反らしたようだけど、それでも三発は命中した。

脇腹と両足の三か所に、だ。

ただ部位の切断は出来ておらず、グラヴの時と同じようにまだやろうと思えば戦えそうな状態ではあるので、追撃を行う。


「もうちょっと追い詰めたほうが良いかな? 続いて【連撃】二の型」

「ア、ガアァァアアアアッ!!!」


 トドメとばかりに両腕を斬り刻み、大ダメージを加える。

うーん、腕の方でも部位切断はできないか。


 やっぱり【身体強化】の練度が高いね、強いよ。


「だけど勝負あり、だね。傷は大きいけど、この大会の回復班も優秀みたいだから、まあ心配する事はないと思うよ。なにせサーニャの氷ですらすぐに癒せたみたいだし」

「ァ、……ガァ」

「それじゃ審判さん、お願いします」


 どうみても完全決着なので審判の方をみやるが、肝心の審判が固まってて機能していない。

会場も完全に静まり返っているようだし、どうやらこの事態についていけてないようだ。


 だがあまり放置しておくと危険だし、彼を再起動させるために軽く肩を叩いてあげる。


「──はっ!!? あ、ああえっと、そこまでっ!! だ、第一試合勝者、剣聖ルーケイドッ!!」

「どうもー。勝ちました」


 軽く手を振り観客に挨拶する。

これで、俺の準決勝進出が決まった。


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