【閑話】それぞれの思惑
闘技大会の予選終了後、ガイオン王国第一王女であるラルファレーナは、予想以上の成果に喜びを隠せずにいた。
「まさか剣聖達があれほどまでの強者だったとは、これは良い意味で期待を裏切ってくれましたね。いくら勘が囁いていたとはいえ、所詮はまだAランクと、少しでも思っていた自分が恨めしいですわ」
彼女は溢れ出る喜びを隠しきれずに口元が緩み、少しにやついた表情になる。
だが、それもそのはず。
いくら本人に戦闘能力が無いとはいえ、幼い頃からツキミの訓練を間近で見る事が多く、そこそこに観察眼のついている彼女は彼らの力量を大雑把に把握していた。
故に今回の予選で剣聖達がまともに戦えば、予選突破は確実ではあるが少しくらいは手古摺り、殲滅するのに時間がかかるはずだと踏んでいたのだ。
なにせ剣聖と竜殺しは戦士型の達人、範囲攻撃が可能な魔法使いなどとは違い、基本的には多対一での戦闘には向いていないからである。
しかし
謎の闇魔法を発生させる
魔剣とは言え魔法は魔法、魔法的な適正が無くとも起動だけは誰にでもできるとはいえ、消費する魔力量が変わる訳ではない。
つまり、彼らは数十名の猛者を一度に殲滅するあの大規模な闇魔法を使い、瞬時に起動するばかりでなく、長時間維持するだけの魔力を兼ね備えている事になる。
これが戦士にとってどれだけのアドバンテージになるか、分からない彼女ではない。
戦士型の奥義である【身体強化】の発動時間はもとより、その攻撃範囲や魔法耐性といった弱点を補うだけの魔道具、さらには宝剣や聖剣などといった、燃費の悪い兵器の運用が可能になるという事なのである。
「欲しい。どうしても欲しいですねあの者達は。魔族襲撃への備えとしては勿論の事、それ以外の用途にもいくらだって応用できるはず。それにあれだけの魔剣を発動させておいて、息すら切らさないなんて、尋常ではない魔力量です」
彼女の視線はもはや彼らに釘付けとなっており、頬も少し上気しているように見受けられる。
ただ、Aグループの試合で気になった点は、なにも剣聖達だけという訳でもなかった。
「しかし、あの魔法を受けてなお涼しい顔をしていたあの男は、一体何者なのでしょうか。闇魔法に耐性がある人族など稀ですし、まさかとは思いますが……」
これは少し、情報屋にアドバイスを貰うべきだろうかと思案するラルファレーナ。
さすがに賢姫と言われるだけはあり、自分の興味だけで視野を狭めるような事は無かったようだ。
そしてしばらく熟考していた彼女は決断し、前大会優勝者でありエキシビジョンマッチの担当者でもある、最強勇者の子孫ツキミ・サガワに指示を出した。
「……そうですね、それがいいでしょう。ツキミ様、申し訳ないのですが情報屋と連絡を取って下さらないかしら。どうやら、この大会に怪しい者が紛れ込んでいるようなのです」
緊急性の高い案件とはいえ、婚約者である彼を雑用として使う事に申し訳なさを覚えるラルファレーナだが、今はそうも言っていられない。
なにせ魔族の中規模侵略の件は、いずれ絶対に起こりうる事だからだ。
それが情報屋の予想に反して今なのか、もしくはそのしばらく後なのかの違いというだけであって。
「何をいまさら畏まっているんだレーナ。俺が君の頼みを断るなど、ある訳がないだろう。まだ決勝までには時間がたっぷりある、今から情報屋と連絡を取って来る事など容易いぞ」
「ありがとうございます、ツキミ様。小間使いのような雑用を申し出てしまい心苦しいですが、どうかお願い致します」
そういって快く承諾したツキミに対し、ニッコリと微笑みを浮かべるラルファレーナ。
ツキミは彼女の婚約者である事から、大会中は傍で護衛する事が多いために動かしやすい人物の一人だ。
そして急ぎ足で駆けていったツキミを見送り、彼が居てくれて良かったと安心する賢姫なのであった。
──☆☆☆──
時を同じくして予選終了後、闘技大会での出来事を見守っていた観客の一人が酒を片手に放浪し、コロッセオを出て裏路地へと入り込んでいく。
服の下には特殊な魔道具が取り付けられており、どうやらネックレス型の魔道具として機能しているようだ。
「で、どうだったよお前さん。剣聖やら竜殺しやらと相まみえた感想は。ああ、それと予選突破おめでとさん」
「チッ。こんな下らない大会で世辞を言われても、嫌味にしか聞こえんぞ。で、奴らの感想だったか。確かに近接戦闘能力は組織幹部の魔族並みか、下手したらそれよりやや強いくらいの力はあるようだな。ただ装備があまりにもおざなりだ。魔族討伐専門の冒険者と聞いていたが、なぜ奴らは俺達に効果の薄い闇魔法の魔剣を所持しているんだ? まるで狙いがわからん」
観客の質問に答えるのは、Aグループを勝ち抜けた最後の一人である謎の魔族。
彼の目的の一つは偵察であり、裏切り者であるグラヴを圧倒したと言われる者達の情報収集だ。
その他にも目的はあるが、最終的にこの国の戦力を推し量りに来た以上、情報があまりにも不足している剣聖達に焦点を当てるのは当然の事でもある。
「まあ、そう言ってやるなよ。あいつらは意外と良い奴らだぜぇ? なにせ俺に酒代を奢ってくれたんだからなぁ」
「……貴様はいつも酒だな、クズ魔族め。まあいい、奴らをこの目で見れた以上、長居は無用だ。勇者関係の化け物と遭遇して怪我でもしないうちに、適当なところで降参でもするさ」
「ああ、それがいいだろうよ」
そう連絡を取り合った二人の魔族は何事も無かったように別れ、それぞれ別の目的地へと向かって行く。
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