【51話】闘技大会予選(4)


 Bグループの試合だが、その後の展開は化け物森妖精エルフとサーニャの、弓と魔法の打ち合いになった。


 大量の弓矢が空を舞ったかと思えば、高速詠唱された魔法により氷の壁が出現してそれを防ぐ。

かと思うとお返しとばかりに、大量の氷槍が空から降り注いだと思ったら今度は矢で貫かれる。

そんな弾幕の張り合いになったのだ。


 自力が違い過ぎる戦士系の参加者は早々に流れ弾に被弾して脱落していき、アザミさんも二人の意地の張り合いから逃げるので精一杯だった。

彼女は何度も転がりながら参加者を盾にして耐え凌ぎ、本当に窮地に陥った時などは一時的に聖剣の力で加速し、事なきを得ていた感じである。


 消耗具合で言えば、あと何本あるか分からない弓矢の本数よりも、魔法の弾幕を張っていたサーニャの分が悪いように見えたが、気づけば闘技台に残っていた人影は三つだけ。

終始圧倒的だった弓兵の番狂わせと、見た目がド派手な魔法で対抗し続けたサーニャ、そして見事逃げ切った泥だらけのアザミさんという結果に終わったようだ。


「なんとまぁ、よく耐えきったねサーニャは」

「確かに。参加者を殺さねぇように、威力を抑えながらだったからな。俺があいつだったら、間違いなくブチ切れて大魔法をぶっ放してたぜ」


 サーニャが不利だったのは、何も相性の問題だけではない。

急所に当たっても大会参加者が即死しないよう、範囲魔法の威力を調整していた事が一番の足枷だったのだ。


 どうやら、あの森妖精エルフの長弓は魔剣と同じような性能を持つ魔弓のようで、自動的に矢の軌道を急所から外すように調整できるみたいだが、魔法はそうもいかない。

攻撃を受けた所から凍っていくし、元々敵を殺すために代々研鑽を積んできた、汎用の水魔法式が元になっているからだ。


 込める魔力の加減で微調整は出来ても、いきなりオリジナル魔法みたいに魔法式そのものを弄るなんて事はいくらサーニャでも無理、という訳である。


 ただ、今回はその微調整のおかげでかなり見た目は派手だったし、いくらあの番狂わせが強かったとしてもサーニャには傷一つついていない。

予選突破の成績を考えれば、十分にお偉いさんにアピールできたのではないだろうか。


 そんな事を考えながら選手控え室に戻ると、少し疲れた表情のサーニャと物凄く疲れた表情のアザミさんがベンチに座っていた。

どうやら二人の決着は本選へと持ち越しのようである。


「お疲れ二人とも、凄い試合だったね?」

「なんなのあの森妖精エルフ族ー、さすがに強すぎたー。ルーくん慰めてー」

「ふぅぉぁあああああ!? ルーケイドさん、私もっ! 私もお願いしますっ! あの弓矢と氷槍が無限に降り注ぐ地獄の中、生還したんですよっ!? もう心労がたたって、私の尻尾も毛がパサパサになっちゃいました。なので慰謝料として頭を撫でてください、頭をっ! さあさあっ!」


 なぜか見た感じ一番疲れてそうなアザミさんが、一番元気になってまくし立てて来た。

というか頭を撫でたくらいで尻尾の毛が艶々になるのだろうか?

どうせなら尻尾を撫でた方が良い気がするが、まあ頭を撫でてくれというのだから、そうしてあげよう。


 ちなみに、サーニャは例のごとくマーキングである。


「むふーっ! 一仕事終えた後のマーキングはたまらないわー。この時のために生きて帰ったと言っても過言じゃないー」

「うわへへっ。む、村人さんは、い、意外に撫でるのが上手いじゃないですか。中々センスありますよ、あっ、そこをもっと強くっ! あぁぁぁ~~」


 選手控え室の中には俺達しか居ないとはいえ、中々カオスな状況だ。

それにしばらくすればディーの方にもマーキングが行くと思うので、恥ずかしがったディーとの押し問答が始まり、さらに混沌とした場になっていくことだろう。


 すると、そんな状況に助け船を出すような形で新たな人影が現れた。


「あらあら、凄い状況ね。予選勝ち抜けの勝者同士で、もう仲良くなっちゃったの? それにしては仲が良すぎるようにも見えるけど……、私はお邪魔だったかしら?」

「いや、問題ないよ森妖精エルフ族のお姉さん。どうかお気になさらず。それにお姉さんはBグループの番狂わせでしょ? 大会の有力者を蔑ろにするつもりはないし、むしろこっちから会いに行こうかと思っていたくらいだ」


 現れたのは勇者の元仲間であろう化け物弓兵。

向こうから出てこなかったらこちらから会いに行くつもりだったので、このカオスな現場を落ち着かせる意味でもとても助かった。


「ふーん。なんだかあの馬鹿と同じ匂いを感じる少年ね? 瞳の色も黒だし、色々と雰囲気が似てるわ。でも今回は少年に用があって来たわけじゃないのよ、ごめんね?」


 彼女はそういって軽く首を傾げ謝罪する。

目線の先にはサーニャが居るので、用件というのは今回の試合の事なんだろうけど、一体何が目的なのだろうか。


 まさか手加減していた事がバレたのかな?


「ぶーっ。ルーくんとのスキンシップを邪魔しに来るとは良い度胸ー。ちょっと魔法を防いだくらいで良い気にならないでー。次当たったら本気で攻撃しちゃうんだからー」

「そうそう、それなのよ私が来た用件は。あの氷槍の魔法は見た目が派手だったけど、参加者達が重傷を負わないように配慮してくれてたわね? 言動とは裏腹に優しいのね、ありがとうね大魔導士さん? それに見事な魔法の練度だったわ、今後の成長が楽しみよ」


 そう言って称賛を贈る化け物弓兵さん。

やはり手加減していた事がバレていたらしい。


「むぅ。あれは個人的な目的があっての威力調整なのー。お礼を言われる筋合いはないけどー、一応受け取っておくわー」

「あら、素直じゃないのね大魔導士さんは。でもいいわ、もし魔法の修行がしたいと思ったら良い友人を紹介してあげるから、私に連絡をとりなさい。これでも私は元勇者のパーティーメンバー、色々と伝手には自信があるのよ。あなたの事は気に入ったわ」


 それだけ言うと、話は済んだとばかりに踵を返して去って行く森妖精エルフさん。

どうやら親友の魔法の腕を見込んで、一種のスカウトとやらに来たみたいだな。

これはこれで良いコネクションになるし、気持ちはありがたく受け取っておこう。


 ……しかしあの人、最後まで自分の名前を言わずに去って行っちゃったな。

もしかしたら、人付き合いが苦手な森妖精エルフさんなのかもしれない。


「連絡をよこせっていう割には名前を言わずに去って行くとかー、カッコつけて登場しただけに間抜けねー」


 言うなサーニャ。

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