【50話】闘技大会予選(3)


 俺達Aグループの試合が終わり、会場の興奮さめやらぬ中、すぐにBグループの予選試合開始となった。

観客席からざっと見た感じでは、出場選手の質はAグループと変わらず、基本的にBランクやAランク程度の者達の集まりで構成されているようだ。


 まあ、いくら大国が行う闘技大会とはいえ、このガイオン王国は辺境の中の辺境という位置にある国。

遠くの地方からわざわざ足を運ぶ冒険者も少ないだろうし、Sランク冒険者もまた緊急性の高い依頼で引っ張りだこだ。

本選も含めればそういった英雄級の者達も出て来るのだろうけど、予選から勝ち上がらなければならない者達の中に、そんなヤバイ奴らがゾロゾロ居る訳がない。


 ……と、俺も思っていたんだけどね。

どうやらその予想は少しだけ外れたようだ。


「うーん。あの長弓もってる森妖精エルフのお姉さん、もしかして滅茶苦茶強いんじゃない?」

「おいおいおいマジかよ! なんであんな身のこなしの奴が予選にいるんだ!? こりゃサーニャじゃやばいんじゃねぇの!? 弓と魔法じゃ手数が違いすぎるぞっ」


 そう、Bグループの中にたった一人だけ尋常じゃない身のこなしの森妖精エルフが居たのだ。

弓や魔法や剣などの相性関係もあって、俺達の中の誰々より強いとは言い切れないが、その佇まいだけなら間違いなく勇者の子孫であるツキミよりハイレベルだ。


 あの最強子孫ですら俺と同格だというのに、それ以上となると正直判断がつかない。

それこそ、勇者の元パーティーメンバーとかじゃないと納得できないくらいだ。


 すると俺達の会話を聞いていたのか、観客席の隣の席に座っていた中年男性が声をかけてきた。


「おーっ! 誰かと思えば、予選で大活躍していた兄ちゃん達じゃねぇか。見ていたぜぇ、ありゃぁスゲェ魔剣だったなぁ。まあ、装備も実力の内。勝てばよかろうってやつだなっ! はっはっはっは!」

「あ、これはどうも」


 酒を片手に陽気な顔で話しかけてくるおっちゃんだが、正直今はそれどころじゃない。

どう考えてもあの森妖精エルフ女性はサーニャの天敵だ。


「でぇ、なんだっけか? あの森妖精エルフの嬢ちゃんの話だったかなぁ。まあ、兄ちゃん達は知らねぇだろうけどよ、ありゃこの国の大会じゃ有名な、番狂わせっていう公式イベントだぜ。本来本選から出場予定の選手から一人だけ、予選組との実力差を理解させるために混ざってくるのさ。まぁようするに、この国はこんなスゲェ武人を囲うだけの力があるんだぞっていう、国外アピールってぇ訳だぁ」


 特に話をせがんだ訳ではないが、俺達の会話で疑問点だった部分を次々と話していくおっちゃん。

だがなるほど、本選組からの出場って事か、納得した。


 確かに予選組と本選組では実力に大きな開きがあるだろうし、予選組に発破をかける意味でも、国外に自国の力をアピールする意味でも有用なイベントだ。

番狂わせとはよく言ったものである。


「なるほど、そんなイベントが存在していたんだね。勉強になったよおじさん。情報料としては安いけど、酒代くらいは奢らせて欲しい」

「カァーッ! いいねぇ分かってるじゃねぇか兄ちゃんよぉ! 本選に出場する武力だけじゃなく、人間までできてやがるっ! これだから闘技大会は楽しみなんだよ」


 俺から銀貨を受け取ると嬉しそうに破顔し、追加で酒を買いに行く観客。

こちらとしても銀貨で重要な情報がもらえるなら安い物だし、何より向こうの厚意で教えてくれたのだから、悪い気分でもない。


 しかし、となるとあの森妖精エルフ女性は実力通り勇者の元パーティーメンバーって線が濃厚だな。

この観客が番狂わせってわかるくらいには知名度が高い訳だし、まず間違いないだろう。


「まあ、公式のイベントという事なら負けても問題はない、か。サーニャが派手に暴れてくれれば目的は果たせるね」

「だな。なにせ相手はマジでヤベェ奴だし、追い詰めるだけでも儲けものだぜ」


 あれほどの強者に一矢報いる、それだけでパフォーマンスとしては十分だ。


 そしてそんな事をディーと会話しながら見守っていると、それぞれの選手が闘技台の配置につき、審判から試合開始の合図が言い渡された。


「闘技大会Bグループ予選、試合──、開始!!!」

「「うぉぉおおおお!!!」」


 審判の合図と共に観客席が沸き、会場を震わせる。


 ある者は傍にいる手ごろな敵を狙い、ある者は一発逆転を狙って番狂わせの森妖精エルフめがけて突撃していく。

そしてそんな中奮闘するサーニャはというと……。


「ここはガキの来る所じゃねぇぜお嬢ちゃんっ! 悪く思うなよぉ!」

「魔法使いが単騎で参加とは、舐められたものだ。詠唱する暇など与えんぞっ!」


 魔法使いという事で倒しやすいと判断されたのか、次から次へと選手達が群がっているようだ。

しかし当然の事ながら、そんな舐め切った彼らの攻撃ではサーニャには掠りもせず、魔法詠唱の時間が悠々と過ぎ去っていく。


「ふわぁぁ……。レビエーラの魔族に、多少毛が生えた程度の攻撃ねぇー。──、────、──アイスレイン!」


 悠長に欠伸をしていたサーニャの魔法詠唱が終わり、闘技台全体に美しい氷の槍が雨あられと降り注いだ。 

その槍の一つ一つは幻想的なまでの美しさを讃えており、どれほど暇だったのかは知らないが、氷槍の装飾にまで凝った作りになっている。


 まあそりゃあこれだけ舐められたらね。

魔法使いという事で、攻撃を回避する事を念頭に訓練してきたサーニャなら、詠唱の時間を稼ぐ事など容易いだろう。


 槍の威力的には見かけ倒しのようで、一撃では死なないように調整はなされているらしいが、それでも直撃すれば氷漬けくらいにはなる。

聖剣持ちのアザミさんならともかく、予選組程度では間違いなく戦闘不能になるだろう。


 ……と、そう思っていたのだが、今度もまた予想外の事が起きた。

なんとサーニャの魔法に反応して、あの化け物が動き出したのだ。


「美しい魔法ではあるけど、甘いわね。──、───魔弓技、スターダストショットッ!!!」


 彼女が長弓に魔力を込め大量の矢を一度に打ち出した瞬間、それぞれの矢がサーニャの氷槍に向かって行き、森妖精エルフの周囲にある全ての槍が矢に貫かれ消失した。


 彼女から離れていた参加者にはちゃんと命中したようだけど、その半数はこの反撃で助かった事になる。


「……おい、嘘だろルー。あの森妖精エルフ族とんでもねぇ」

「…………」


 恐らく今のは弓技と魔法の合体技なんだろうけど、それにしたってノーダメージってマジかよ。

これは本当に相性が悪いな、あの化け物に集中狙いされたら、サーニャでは成す術が無いかもしれない。


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