【閑話】賢姫と王


 王宮での王の一室、一芝居を終え帰還したラルファレーナは、今回の件についてガイオン王に呼び出されていた。


「お父様、ただいま戻りました。ラルファレーナです」

「来たか。今回の件ではご苦労だったなレーナ、剣聖の囲い込みに奔走していたのだろう?」


 彼女がとある冒険者に注目しており、その者達を手に入れるために秘密裏に行動していた事は王も知っていた。

今回の誘拐事件が表沙汰にならずに済んだのも、王が全てを承知していたという事も大きい要素だ。


 ましてや、あの最強勇者の子孫であるツキミ・サガワを護衛につけていたのだ、万が一などあろうはずもない。


「はい。とりあえずパーティーのリーダー格であろう剣聖には話をつけました。後は情報屋がどれだけ彼に力を貸すかですが、何やら情報屋は剣聖に肩入れしている様子でしたので、まず問題なく協力してくれるでしょう」

「そうか、それは僥倖。しかし、たかがAランク冒険者にそこまでする必要があったのか? 強力な手駒というのなら、他にも大勢いるだろう。確かに敵が魔族である以上、数を揃えなければならぬのは道理だが……」


 そう言って王は自慢の髭を一撫でし、娘に剣聖達を特別視する理由を問う。

確かにランクだけで見るならばSランクの者や、他のギルドの最上位の者達、果ては勇者の仲間といった者達の囲い込みに力を入れるべきだろう。


 故に王の質問は至極真っ当であり、ある意味当然の事であった。

救国の賢姫とまで言われる自分の娘を疑う訳ではないが、いかに彼女の発案であっても到底納得できるものではない。


「お父様、それについてはこの前も申したではありませんか。彼らは実力では測りきれない何らかのを抱えていると。でなければ、竜王クラスのドラゴンと上級魔族を同時に相手して狩れる訳がありませんし、この僅かな期間でレビエーラとヨルンで二度も魔族に遭遇するなど、それこそ天文学的確率です。それになにより、私のが囁いているのですから、まず間違いないかと」


 改めてその理由を聞いた王は一度だけ大きく頷き、成程、と今まで娘が解決してきた数々の問題を思い浮かべた。


 そして、しばらく目をつぶり思考していた王は、ふとある事を思い出す。

確かにラルファレーナは昔から聡明な子供ではあったが、普段から重曹石鹸や船乗り達の病に対し興味を持っていた訳でもなければ、それに対し思考を巡らせていた訳ではないと。


 何故なのかは知らないが、娘は自らに致命傷となる問題が降りかかるその直前、ある一瞬を境にその解決策を模索しだしてきた。


 その前兆となる物が今回の言うところのであり、娘が勘を持ちだす時だけは何か重大な答えに辿り着く時だったのだ。

故に勘が働いたという時こそ、問題や事件が解決するためのピースが揃った事を意味しているのだと、王は気づく。


 そう、何故ならばその勘こそが娘であるラルファレーナの……。


「成程、固有技能ユニークスキル【天啓】か。実際にお前の起こした数々の奇跡を目の当たりにしなければ、全く信ずるに値しない物ではあるが、それでもその奇跡を見てきてしまったのだからどうしようもない。どうやら、今回も神は私達人間をお救いになられるようだ」


 王は幾度となく国の窮地を救ってくれた愛娘の顔を見やり、そうであるならば話は早いと破顔する。

彼とて神を盲目的に信じている訳ではないが、まさにその神の啓示としか思えない奇跡の数々を目の当たりにしてしまえば、否定する気も起きないというものだ。


 ……しかし当のラルファレーナは困惑した表情をしており、まるでその答えが見当外れだと言わんばかりに首を振った。


「嫌ですわお父様。固有技能である事は否定しませんが、この力は天啓などではなく、ただの【好奇心】なのですよ? 誰が天啓などというふざけた名をつけたのかは知りませんが、この固有技能は私が興味を持った事に力を貸し、その中にある解決策の一つに焦点を当てると言うだけの単純な物なのです」


 それも決して望んだ答えなどではなく、星の数ほどある解答の一つを掴み取るだけの力だと、賢姫ラルファレーナは語る。


「構わぬ。神の啓示だろうと【好奇心】だろうと、お前とお前の持つ固有技能がこの国を救ってきたのだ。であるならば、今回も賭けてみようではないか。我が娘ラルファレーナが切り札と称した、魔族関係専門の剣聖とやらにな」

「ありがとうございますお父様」

「いや、良い。それにツキミ君から話を聞く限り、剣聖殿は相当の手練れのようではないか。あの最強の子孫を前にして一歩も引かぬどころか、絶対に敵に回したくは無いと言わせる男など、確かにタダ者ではないわっ! はっはっはっは!」


 王は豪快に笑い、一足先に報告を受けていたツキミ・サガワとの会話を語る。

勇者の子孫の中でも最強と謳われる彼を怖気させる程の強者、そんな存在の登場に年甲斐もなく興奮してしまったのだ。


 外交のためとはいえ、ガイオン王国は闘技大会を開く程の国家。

当然の事ながら王もそういった力には理解があり、大会で優勝する程の強者には王自ら褒美を授けるほどに熱狂的なバトルマニアでもあるのだ。


「ただ力が強いというだけでは無いようでしたね。武力という点では、歳の差もあってツキミ様に一日の長があるように見受けられますが、頭の回転という面では剣聖が圧倒しています」

「ならば闘技大会の終了後、我が国にでも囲うか? レーナが気に入ったというのであれば、お前の側近としてもいいかもしれぬ。それほどの者ならば他の国も放っては置かぬだろうが、主催は我が国。他で融通を利かせれば、三名程度を引き抜くくらいならどうとでもなるだろう」


 魔族の件はとりあえず終わったとばかりに、二人の会話は剣聖や竜殺し、大魔導士などの猛者達による引き抜きの話に代わっていった。

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