【47話】サーニャのストライキ


 翌日、深夜に行われたお芝居の一件についての詳細を、宿で待つ二人に語った。

ディーは俺から伝えられた勇者の子孫に強い関心を持ったのか、早く戦ってみたいとかそういう事を話していたが、問題はサーニャの方だ。


 朝一緒に帰って来たアザミさんに物凄い敵愾心を燃やし、パンツ丸見えの変態女だのなんだのと、言いたい放題言って部屋に閉じこもってしまったのだ。

服がボロボロだったために、そのまま歩かせるのも問題だったのでお姫様抱っこで運んだのだが、どうもそれが気に障ったらしい。

なんでも、ついに犬っころが本性を現しやがったとかなんとか言っている。


 ただ重要な話だけはしっかり聞いてくれていたので、王女の件に関しては納得しているらしい。


「おいルー、どうすんだこれ。サーニャがこれ以上ないくらい拗ねてるぞ」

「と言われても、俺がどうこうした訳じゃないからなぁ……。状況的に仕方が無かったし」

「まあ、そうなんだけどよ」

「「はぁ-」」


 二人で深いため息をつく。

今日はアザミさんの案内で腕の良い鍛冶師を紹介してもらい、魔剣を作ろうと思っていたのだが、予定が狂ってしまった。


 まあ剣を作る訳だからアザミさんと俺とディーだけで事足りるのだが、この状況で彼女を一人にするほど俺も愚かではない。

闘技大会の予選は数日後だし、魔剣作りは最悪明日とかでもいいのだが、それまでに問題が解決している保証もまた無いのだ。


 それに、大切な親友の機嫌は早めに直してあげたい。


「うーん、困った。どうしようアザミさん」

「わ、私ですか!? いや、どうしようと言われましても……、その、なんというか。敵ながら気持ちは分かると言うか」


 分かるんかーい。


「なら、なんとか説得する方法とかない? せめてサーニャの要求だけでも聞いておきたいんだけど」

「うう-ん、そうですねぇ……。まあ、しばらく時間を頂けるなら不可能ではないかもしれませんが。彼女の要求もそう大した物ではないハズですし」


 なんと、アザミさんはサーニャの機嫌が直る方法を既に把握済みらしい。

まさか彼女は天才だったのだろうか、いまならアザミさんに焼き土下座したって構わないくらいだ。

ギルドで空気を読んでくれた時といい今回といい、もはや焼き土下座くらいでは足りないかもしれない。


「ホント!? ならお願いします、アザミ大先生っ! やっぱりあんた最高だよ!」

「なっ、私が最高!? ……く、くふっ。……くふふふふふっ! そ、そうですか、私はルーケイドさんの最高ですか。いいでしょう、この件はこの私にどーんと任せてくださいっ! 必ずやサーニャさんの機嫌を直してきて差し上げましょう」


 宣言通りドーンと胸を張ったアザミさんが自信満々に言ってのける。

これだけの事を満面の笑みで言うんだから、成功は間違いないだろう。

俺達の問題を無償で引き受けてくれた彼女には、あとで何かお礼をしないといけないな。



──☆☆☆──



 そしてアザミ大先生に問題解決を任せてから数時間後、宣言通りサーニャの機嫌はすっかり直り、今は四人で魔剣制作が可能な腕の良い鍛冶師の下へ向かっていた。

約束通り解決してくれた大先生には感謝の念が堪えない。

堪えないのだが……。


「どうしてこうなった」

「むふーっ、今日のルーくんは私のものー。犬っころもたまには良い事をするー、少しは見直したかもー」


 現在ご機嫌のサーニャをお姫様抱っこし、無限にマーキングをされながら王都の街並みを移動している。

あの、そろそろ魔力が底をつきそうなんで手加減してくれませんかサーニャさん。

あっ、無理ですか。

そうですか分かりました、ではこのままで。


「おい大丈夫かルー、顔色悪いぞ」

「だ、だだだだ、大丈夫だディー。魔力の事なら心配しなくていい」

「そうよー、ディーはルーくんの魔力が空になったらマーキングしてあげるからー、もう少し待ってなさいー」

「いや、そういう意味じゃねぇよっ!? ってか俺にもそれやる気か!?」


 当然といった感じで不敵に笑うサーニャ。

大先生の話じゃそんな大した事ではないって言ってたけど、体力的にはかなりキツい。


「もう。分かっていた事ですけど、サーニャさんは少し甘えん坊さんですね。まさか本当にお姫様抱っこで先を越されたのが原因だったなんて、普通は分かりませんよ?」

「……チッ。この場を提供した事には感謝するが、和解したつもりはない。いずれ決着をつけてやるから首を洗って待っていろ。せいぜい余生を楽しんでおくんだな」

「ふふふっ、素直じゃないですねー」


 いや、長い付き合いだから分かるが、いまの発言はだいぶ本気の時の声色だ。

ただその事を言っても信じてもらえそうにないので、どうかサーニャがまた引き籠りませんようにと祈りつつ、空気を読んで黙っておく。


 まあ、二人とも悪い娘じゃないからなるようになるだろう。


 ──そしてそんな事がありつつも時間は過ぎていき、注文した魔剣が届いた段階でついに、ガイオン王国闘技大会予選の日となった。


 魔剣のギミックはドラゴンの臨時収入のおかげでだいぶ凝った物が出来たので、俺とディーはいつも以上に気合が入っている。

勇者の子孫とかその辺りの上位者達は本選からの出場なので、仮に戦うとしたらもう少し後になるだろう。


 情報屋龍人のグラヴからも魔族の動向について色々聞いているが、まだその兆候が見られないと言う事なので安心して全力が出せる。

一応自分自身の修行も兼ねたこの大会には期待しているので、消耗を気にしなくても良いのは願っても無い事だ。



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