【46話】秘密の話し合い
衝撃の事実に絶望し、蹲ってしまったアザミさんをよそに俺は質問を投げかける。
「それで、なぜこんな芝居を? 正直あとちょっと気づくのが遅かったら、本当に戦いになっていたかもしれないんだけど」
「……なるほど。そう言うという事は、戦いになっても勝てる見込みがあったと言う訳ですね。最初から使えそうな存在だとは認識していましたが、これは予想以上ですね。いいでしょう、巻き込んでしまったお詫びにといっては少し傲慢かもしれませんが、質問には答えさせていただきます」
俺の言葉に反応したのは王女と思わしき女性。
佇まいやらなんやらで気品を感じるし、彼女が王女じゃない理由も見つからないので、たぶん本物の王女だろうとは思う。
でも質問には答えてくれそうだし、彼女と接点が持てるのは予想以上の収穫だ。
このお芝居に付き合ってあげた程度でこの成果なら、労力的にはボロ儲けだな。
「ありがとう王女様。それと申し遅れたけど、俺はルーケイドっていうんだ。姓はない、ただのルーケイドだね」
アマイモンの名は四天王として有名かもしれないので、一旦伏せておく。
「私の名はラルファレーナ・ガイオン。そこに居る情報屋の今回の雇い主です。そしてあなたが警戒しているヒト族の方は、私の婚約者であるツキミ・サガワ様。万が一の時のための護衛ですね」
「…………ッ!!!」
え、サガワ!?
っていう事は勇者の子孫なのか!?
まさかいくらなんでも、サガワさんの関係者まで接触してくるとは思わなかった。
しかしこれはヤバイな、予想以上に重要人物との繋がりが出来てしまったせいで、父さん達に勇者訪問の事を伝える前に目標を達成してしまうかもしれない。
ヴラド伯父さんからの定期連絡はまだ途絶えたままだし、知り合いになれたからといって直ぐにどうこうっていう訳じゃないけど、運悪く遭遇する事になった時のために逃げ道くらいは確保しておくべきかも。
「それで、確かお芝居の件でしたね。言ってしまえば単純な話なのですが、王宮では直接会って話す事が出来ないからです。剣聖であるあなたには伝えたい事があったのですが、どこに敵がいるか分からないあの場では情報の漏洩が心配ですし、もしかしたらメイドが盗み聞ぎしている、なんて事もあるかもしれませんので。ほら、私がいきなり貴方を呼び出したら、敵対勢力が何か勘繰るかもしれないでしょう?」
つまり、信頼のおける者達しかいない場で話しを進めたかったって事か。
王女と言うのも楽な仕事ではないみたいだ。
確かに勇者の子孫であり婚約者であるツキミ・サワガなら、武力においても信頼と言う面においても適任だし、龍人の方は王女に匿われる以上裏切りの心配はないだろう。
というかそもそも、その話したい情報とやらの出どころがこの龍人からの可能性が高い。
こいつが持ち得る情報は魔族や人間の裏組織といった、今までの立場を利用した物が資本なのだろうし、王女様が俺に話したい内容っていうのもそれに関係する事だろう。
パトロンに王族をつけてしまうくらいだし、そのくらい重い情報じゃないと匿ってもらう事なんて出来ないはずだ。
さすがに王女様はこいつが魔族だっていう事は知らないだろうけど、情報の裏さえ取れれば怪しくても戦力にはなると踏んだのだろう。
背に腹は代えられないというか、なんとも思い切りの良い人のようだ。
「敵対勢力か、なるほど事情はだいたい察したよ。多分だけど、貴女が匿っているそこの情報屋から魔族関係の動きを察して、俺達を味方につけようとしていたんだよね。人間にも裏切り者が居る以上は信頼できそうな人は少ないし、魔族討伐で功績をあげた俺やアザミさんを狙った理由がよく分かったよ」
「ええ、その通りです。理解が早くて助かります。ツキミ様とは違って、だいぶ思慮深い方のようですね」
そう言って王女ラルファレーナが微笑む。
だがそのせいで、横にいる勇者の子孫が物凄い形相でこちらを睨んでいるし、あんまり持ち上げるのは止して頂きたいんだが。
とばっちりも良い所だ。
「剣聖……、いやルーケイドとか言ったな。闘技大会では覚えていろ、叩きのめしてやる」
「あらあら、嫉妬ですかツキミ様? ですがご安心ください、私が愛しているのは今も昔もあなた様だけですとも。ですが、そういうムキになったツキミ様も可愛いので、全力を出すのはお止めしませんが」
ええっ、止めないのっ!?
お道化た感じに「やっちゃぇツキミ様っ!」見たいに言われても困るんだけど。
俺が困惑しているのが分からないハズはないし、絶対ドSでしょこの人。
すると対抗するかのように、先ほどまでいじけて居たアザミさんが再稼働し、突如として俺の応援を始めた。
「むむっ! ルーケイドさんは絶対に負けませんよっ!? 誰が相手であろうと、必ず勝利をもぎ取ってしまうのが良い匂いのする村人さんなんです! そうですよね、ルーケイドさん!?」
「いや、もう良い匂いのするなんとやらから離れませんか、アザミさん」
なぜここまでの信頼を置いているのかは謎だが、誰だろうと勝つ時は勝つし、負ける時は負けるよ。
「ふふっ、仲が宜しいんですねお二人は。これは私も燃えてきました。……しかし残念ながら、あまり油を売っている時間はないので、今回の件について単刀直入に伝えさせて頂きますね。──闘技大会の途中かそのしばらく後、中規模な魔族の襲撃があります。こちらも可能な限りの手を打っていますが、正直万全とは言えません。ですから魔族討伐専門の剣聖である貴方には、この情報屋と結託して王都を守って欲しいのです」
一息に言い終えた後、真剣な顔をした王女が俺に頭を下げる。
なるほど魔族の襲撃かぁ、面倒くさいねそれ。
というか、そもそも俺はこの大陸の味方という訳でもないし、どちらかと言えば大切な友人や家族のいる魔大陸側の人間だ。
力を貸してやる必要なんて、どこにもないのが正直な所だけど……。
「でもまぁ、目標達成にはもってこいの美味しい依頼だね。今回の魔族は俺の家族の敵でもあるだろうし、乗ったよその話」
闘技大会での活躍と、王女からの依頼。
俺達の地位向上にはもってこいだ。
ヴラド伯父さんにはしばらく気をつけろと言われてるんだけど、言い訳なら後で考えればいい。
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