【40話】釣り返し


「なっ!? 火属性魔法を吸収しただと!」


 自分の魔法を吸収した事が想定外だったのか、驚いた魔族が声をあげる。

まあ普通は魔法の吸収など不可能だし、詠唱魔法にはそんな技術はない。

魔法陣と固有技能がかみ合わさって初めて可能となる、俺だけの技術なのだから知らないのは当然だ。


 しかし驚いているからといって攻撃の手を緩めるはずもなく、相手の隙に乗じて【反撃】の型を発動させ双剣を振るう。

攻撃力重視であれば【連撃】が一番いいのだが、まだ相手の手の内が見えてな以上、うかつに動きの調整が効かない型を発動すれば、隙に繋がる。


 するとやはりというべきか、【念力】を使った事で俺の動きが変わったのを理解したのか、それに対応して向こうもアクションを起こした。


「シッ!!」

「くっ、召喚サモン黒龍の大剣グラビティソード】」


 ──ガィイイインッ!!


 何事かを呟き魔力が高まった瞬間、突如として漆黒の大剣が現れ双剣の斬撃を防いだ。

まるで盾みたいに馬鹿でかい剣のようだが、いったいどこから現れたんだこれ。


「なんだそりゃ」

「ク、クククッ……。い、今のは少し焦りましたよ。下等種族とは思えない、凄まじい剣の切れ味でした。しかし実力は実力、認めなければならないでしょう。私も少し頭に血が上っていたようです。しかし──」

「…………ッ」

 

 鍔迫り合いの最中、出現した武器から多少の危険を感じた俺は、一旦距離を取るためにその場を飛びのく。


 剣から高い魔力を感じるので恐らく魔剣の類なのだろうが、肝心なその効果が分からない。

ただ、今更探りを入れた所で、先ほどの奇襲と今の攻撃で完全に警戒されている。

恐らく聞き出すのは不可能だろう。


 とりあえず【感知】は全開で使用し、周囲の魔力に探りを入れる事で一時しのぎを図るしかない。


 そしてその数舜の後、予想通り俺を中心とした広範囲に魔力が収束した。

なるほど範囲魔法系の効果か、それならば対処は容易い。


「──グラビティプレス」

「場所が分かればどうという事はないよ。【反撃】一の型」


 攻撃力と同時に速力を強化し、一目散に敵めがけて突進する。

効果範囲から抜け出すと同時に後ろの地面が陥没するが、既に抜け出している俺には何の影響もない。


 そしてどうやら、あの魔剣は闇属性の攻撃魔法系統を自由に操作できる能力があるらしい。

それも詠唱の短縮機能付きで。


 いや、というよりも、あの魔剣自体がオリジナルの闇属性魔法なのか。

だが仮にアレが相手に切り札だとしたなら、この勝負は俺の勝ちだな。


 そもそも、こちらにはガンマがあるのだ。

攻撃魔法の醍醐味である範囲系の攻撃ならどうしようもないが、あの剣が魔法の核だと理解できているのなら、それを消せばいいだけの話である。


「甘いですねぇ。──グラビティシールド」

「なっ!? 重っ!!」

「ハハハハハハッ!! 上位の闇魔法を自在に制御する我が剣に突進するとは、愚かですねぇ! そのまま潰れなさい」

「ぐぁあああああっ!!」


 とかなんとか言いつつ、頭上にという立体魔法陣を展開していく。

ぶっちゃけ先ほどの攻撃魔法に比べ、こちらの方は防御に比重を置いた魔法のようなので、大したダメージはない。

魔族の中でも頑丈な肉体を持つウルベルト父さんの血と、再生力の高いベルニーニ母さんの血を受け継ぐ俺が、こんなしょっぱい圧力でどうこうなるなどあり得ないのだ。


「良い、良いですよっ! 私はその悲鳴が聞きたかったのです! そらそらそら、もう降参ですか下等種族っ!」

「くそぉおおお!! ま、参っ……」

「ハハハハハハハハァッ!!」


 よし、魔法陣が完成した。


「なんて、参る訳ねーだろ馬鹿笑いしやがって。【連撃】五の型」

「──ハハハ、ハ?」


 こちらの術式が完成した瞬間、いままで俺の剣を遮っていた漆黒の大剣が消滅し、現時点での最大攻撃である五の型を放つ事に成功する。

いやー、こいつが油断しかしない奴で助かった。


 たぶん戦闘とか得意じゃないんだろうね、見るからに経験不足だし。


「グァァアアアッ!? 痛い、痛い痛い痛いっ!! 血が、高貴なる私の体から大量の血がっ」

「おお、五連撃でも体のパーツは繋がってるのか。さすが龍人族、タフだね」

「血がぁあああっ!!」


 一太刀ごとに大ダメージを受けて大量の出血を起こしたようだが、それでも骨が見える程度で済んでいる。

やはり【感知】で感じた通り、肉体スペックはかなり高いようだ。


 でももう勝負は決まったな、どうみても心がポッキリ折れちゃってるみたいだし。

もうちょっと経験があって勝負強ければ、どちらが勝つかは分からなかったんだけどね。

体力的にはまだ余裕がある見たいだし。


 すると相手も今の状況では俺にかなわない事を悟ったのか、降参の姿勢を見せ始めた。


「おっと、もう降参かい。自称高貴なる種族の魔族様」

「ヒ、ヒト族、ヒト族こわひっ!! ひぃいいいいぅっ!! うわぁぁあああっ!!!」


 あっ、やべっ!!

あいつ空に浮かび上がりやがったっ!

まさか飛んで逃げる気かよ、というか逃げる時の判断だけめちゃくちゃ素早いなっ!?


「あ、でも逃げるなら丁度いいや」

「うわぁぁあぁぁああっ!!」


 どんどん遠ざかっていく龍人族だが、あいつをここで殺すよりも逃がした方が後々町の安全に繋がる。

そもそもあいつが組織に戻れないという事は、それ相応の脅威がこの町に潜んでいるという事であり、その結果より強い魔族が送り込まれ来て、それを倒せばそれよりもっと強い魔族だ。


 まさかそのループを延々とやる訳にもいかないし、後二ヶ月でこの町を離れる俺としては、面倒くさい事この上ない。

よって、ここはワザと本部に帰還させ、俺が別の場所で奴らを潰す算段を建てるつもりである事を伝え、今後この町に手出しする余裕を無くさせるのがベストだ。


 最悪、目を背けさせるだけでもいい。


「おい頭でっかち! 本部に戻ったら伝えておけ、次はもっと重要な拠点を叩きに行くとなっ!!」

「──、────」


 うーん、ちゃんと聞こえたかな。

というかもっと重要な拠点ってどこにあるんだろ。


 ……ま、いっか。

どこかで勝手に勘違いして、このデカい釣り針が功を奏してくれるだろう。

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