【38話】中級ドラゴンとの遭遇
作戦会議が終わった後、偵察組はすぐに迷宮へ出立する事になった。
迷宮がある場所へは駆け足でも半日程度かかるが、今回は一応Cランクの冒険者が集まっているだけあって、その移動速度も速い。
ほとんど休むことなく走り続ける事で時間を短縮し、昼頃にはその入り口まで辿り着けたくらいだ。
道案内をしてくれている第一組の班はぜえぜえと息をきらしているが、よく体力もったな。
もちろん俺達は全員余裕なんだけど、この大陸の人間にしてはかなり頑張った方だと思う。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……。あ、あんたら何でそんな余裕なんだ。同じCランクとして自信無くすぜ。まさか魔法使いの嬢ちゃんにまで体力があるとは思わなかった」
「お気になさらずにー。私は微弱な回復魔法をかけ続けていただけなのでー」
「何? あんた魔法使いじゃなくて治癒士なのか? 光魔法は魔力消費が大きいと聞くが、大丈夫か?」
ギルド調査の時に知った事だが、この大陸の治癒魔法は光属性が基本とされており、それが使える魔法使いを治癒士と呼ぶらしい。
治癒院なんていう、前世で言うところの病院みたいなギルドもあり、組合としては珍しく国からの援助金も出ているようだ。
ただ実際のところ光属性で回復するかどうかは種族によるし、たまにヒト族なんかでも闇属性じゃないと回復しない人も出て来る。
そんなその他大勢から外れたイレギュラーな人達は、治癒院や教会から差別的な目を向けられる事も多いらしい。
冒険者とかになると実力が全てなので、そんな差別意識は犬にでも食わせろという認識が強いが、そういった事情もあり、世間一般で闇属性は毛嫌いされる事がある。
サーニャは親友を回復させる事の出来る闇属性を誇りに思っているらしく、隠す気はさらさら無いみたいなんだけどね。
「治癒士ではないんだけどー、まあ魔力は大丈夫よー。心配しないでー」
「そうか、分かった。だがこれ程の魔法使いや前衛が同じ偵察組にいるってだけで、これ以上ない程に心強く感じるぜ。頼りにしてるぞ第二組」
「ふふーん。このサーニャさんにドンと任せなさいなー」
和気あいあいと言った感じで話しながら迷宮を進んでいく。
ヨルン近くにある迷宮は魔力溜まりが原因で生まれたものらしく、特にこれといって建造物などは見当たらないが、それでも【感知】で周囲の空間が淀んでいる事がよく分かる。
場所はただの森なのだが、この森に入る前と後では別世界に感じられる程だ。
木々は異様な進化を遂げ巨大化し、真っすぐに生えるのではなくグチャグチャな造形をしていたり、時々いる昆虫なんかにも、他の生物と合体したような謎の進化を遂げた者達までいる。
そんな魔境みたいな空間が森に入る前と後でキッパリ分かれているのだから、これは確かに
「にしても、ひっきりなし魔物が出てくるなあ。雑魚ばっかだけどさ」
「ああ、ルーに同感だ。確かにこれじゃ戦っている気分にはなれねぇ」
ディーが応答するが、俺は別に戦っている気分に浸りたいわけではない。
面倒くさいのは確かだけども。
出て来る魔物は蜂を巨大化させた集団や、巨大な角が生えてる狼だったりと様々だ。
あまりにも弱いので【念力】すら使わずに剣で適当に薙ぎ払っている。
これで本当に活性化しているのだろうか、ただ数が多いだけなんじゃと思わずにはいられない。
しかし意外な事に、これくらいの魔物でも第一組はかなり手古摺っているようで、ところどころ危なげな時が多々ある。
まあ、その都度助けてあげるんだけどね。
「クソッ! 今度はポイズンソルジャーアントかっ! こんなのCランクの手に負えるような相手じゃ……」
「オラァ! 死ねやアリンコォ!!」
「……ない、はずなんだけどな。
紫色をした毒々しい巨大アリを、ディーの大剣が一振りで両断する。
戦っている気がしないといいつつ一番張り切っているディーに、冒険者の一人が尊敬の眼差しを向けているが、ただの毒虫相手に大げさじゃないか。
こんなの、ヴラー村じゃ馬車用に繋がれている馬が走行ついでにミンチにする魔物だぞ。
尊敬の眼差しを向けられている本人も微妙な顔しているし、大丈夫かこの斥候冒険者。
しかし俺のそんな不安をよそにさらに数時間ほど迷宮を探索し、誰一人として欠ける事なく目撃証言のあった場所へと辿り着いた。
確かここらへんでドラゴンが出たって話だったけど、特に気配は……。
「どうかなルーくん? 何か引っかかる?」
「うーん、大物が感知できた様子はないね。もしかすると他の場所に移動したのかもしれないし、一晩様子を……ん? ああ、なるほど。確かにここで合っていたみたいだ」
【感知】には引っかからなかったが、ここが正解であることはその後すぐに分かった。
なにせ遠くから、中級サイズのドラゴンが空を滑空してやってきたんだからね。
そりゃああれだけ遠かったらスキルで気づかないわ。
「な、なんだあれは……。まさか上級、いや、竜王クラスのドラゴンなのか!?」
「ええ? いや、そんな訳ない。どう見てもあれは中級くらいの……」
「全員逃げろ、勝てるわけがない! 今すぐ逃げないと情報すら持ち帰る事ができずに死ぬぞっ!」
「分かってんだよそんな事はぁ!! ああ、くそっ! 足が、恐怖で足が動かないんだよぉ!」
「いや、だから……」
ダメだこりゃ、完全にパニックになってる。
だが震えて動けないようなので、これはこれで都合がいい。
勝手に逃げ回られて、向こうにドラゴンが向かって行ったら町に被害が出るからね。
ここは見学でもしていてもらうとしよう。
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