【37話】作戦会議


 ドラゴンという脅威が明確になった翌日、冒険者組合では緊急依頼が出された。

参加する冒険者はEランク以外の戦力になる全てが対象で、当然その中には俺達も含まれている。

この依頼には強制力があり、断った場合はランクの降格か最悪除名との事なので、当然受けないという選択肢はありえない。


 むしろランク上げにはちょうどいい依頼ではあるし、尻込みする他のパーティーには目もくれず、一目散に手続きを済ましたくらいだ。


「聞け、集まった全ての冒険者達よ! 時間がないので単刀直入に言うが、緊急依頼が出た事でも分かる通り、迷宮に住み着いているとされたドラゴンの脅威が明確になった! 生還したCランク冒険者の証言によると──」


 声を上げているのはこの町の冒険者組合、ヨルン支部のギルドマスター。

辺境とは言え、そこそこの規模だった港町レビエーラよりも小さいこの町故に、長としての権限はさほど高くはないが、それでも冒険者をまとめ上げるだけのカリスマはあるようだ。


 その証拠に、次々と語られる現地の状況やドラゴンの特徴を冒険者達は素直に聞き入れ、少しざわつきながらも自棄になる気配はない。

そこまで強そうには見えないが、責任者としては優秀な人材なのだろう。


 緊急依頼になった理由も攻撃をしかける為と言うより、知能を持つ存在故にその行動理由を確認する為という、偵察と応援が来るまでの時間稼ぎの意味合いが強いと言っている。

恐怖に怯えて一目散に総力戦をしかけないあたり、さすがだ。


 ちなみに作戦内容は偵察用の人員として精鋭を若干名、他の町への報告はDランク程度の冒険者に任せ、その他は町の防衛に努める。

ヨルンにはBランク以上の冒険者が常駐していないので、精鋭には俺、ディー、サーニャも組み込まれるとの事。


 そしてその後、しばらく演説が続くと、次は依頼を受けた者達からの質問タイムとなった。


「──以上だ。何か質問がある者はいるか?」


 場が静まり返る。

まあ、迷宮のどの辺で現れたとか、緊急依頼になった理由とか、作戦系統も全部まとまってたもんね。

ドラゴンなんて脅威がそうそうあるとは思えないし、これ以上の作戦が立てられない以上、あんまり質問する事がないのはしょうがない。


 まあ、俺はそれでも質問するんだけどね。

どうもきな臭いんだ、このドラゴン出現って奴は。


「じゃあ、俺から少し質問が」

「むっ、ルーケイドか。お前達のパーティーには今回危険を冒してもらう事になる、話を聞こう」

「それじゃあ一つだけ。今回生還した冒険者が居たじゃないですか、あの人、なんで生きてるんです? 彼は恐怖を植え付けるためって言ってましたけど、魔物であるドラゴンにそんな趣向があるとは思えません」


 俺が気になっていたのはここだ。

好戦的で知能があるとはいっても、所詮ドラゴンは野生。

向こう側に人間を恐慌させる理由なんて無いし、そもそもなんで生還したやつはそんな発想に至ったんだろう。


 まるで誰かがそう伝えろと、生還した者に命令したとしか思えない。


 すると、俺の発言の意図に気づいたのか、周りがざわつき始めた。


「……どういう事だ? それじゃああいつは俺達をおびき寄せるためのエサって事か?」

「いや、ドラゴンがわざわざ人間をエサにする理由なんて無いだろ」

「じゃあ何故だ……、まさか使役している者が居るとでもいうのか? いや、ありえない」

「ああ、人間にそんな事が可能な訳がない。出来たとして、最下級種のワイバーンだろうよ」

「確かに。だがそれではここまでの脅威にはならん……」


 色々と議論が交わされる中、だんだんと不安が募り、場が混沌としていく。

正直まとまりかけていた空気を乱すようで申し訳ないんだけど、もし黒幕が居た場合は余計な犠牲者が出るので、事前に話しておく必要あったのだ。


「鎮まれ! 騒いだ所で何にもならん! ……それでルーケイド、気づいたのはそれだけか?」

「いえ、まだあります。正直ここからは推測の域を出ないのですが、それでも良ければ」

「構わない、何でも良いから話してくれ。今回の場合、偵察に必要な情報がほとんどないからな。それに突入組になるお前が不安に思った事ならば、聞かねばらならないだろう」


 全員の視線が俺に集中し、再び静寂が訪れる。


「ありがとうございます。単刀直入に言うと、相手は魔族の可能性が高いです。魔族には龍人族といったドラゴンと親和性の高い種族も居ますし、連携を取る事も不可能という程ではありません」


 さらに言えば、レビエーラの件も含め魔族崇拝の奴らはこの町周辺が邪魔なハズだ。

いくつもあるであろう魔族組織の中でも、人間も魔族も敵に回す奴らからすれば、魔大陸から魔族がやって来る、ある意味二つの大陸が交わるこの地を放っておく事などはできないのだろう。


 組織の拠点の一つを犠牲にして、こちら側にダメージを与えるハズだった作戦も失敗に終わったしね。

いつか強力な駒を動かす事もありえるだろうとは思っていた。


「随分と博識だな。……だがなるほど、魔族か。それならば確かに、生還者を生かす理由足りえるな。よし、ならば偵察組は二手に分かれ、情報を確認でき次第帰還する第一組と、戦闘を考慮した第二組に分ける事にする。それで戦闘のほうは……」

「もちろん、俺達がやります」

「……すまんな」


 いやいや、こちらこそ願っても無い配置だ。

ディーなんか嬉しそうにニヤニヤしはじめてるし、暴れたくてしょうがないと見た。


 こんなきな臭い話が舞い込んでくるなんて、なんてラッキーなんだろう。

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