【36話】きな臭い話


 ヨルン町にやって来てから二ヶ月後、日々の雑用依頼の成果もあり、俺達は全員Cランクへと昇格していた。

二人がEランクだった頃の雑用の中には子供をあやしてくれとか、害虫を駆除してくれとかいう些細な依頼もあったようで、むしろ昇格する前の雑用依頼の方が難しかったと苦笑いしている。


 ちなみにこの町に来てから知った事だが、この町には迷宮なる物が近くに存在するらしく、普通の冒険者はそこで魔物を倒したりお宝を得たりして成果を上げているらしい。

ただ特にこれといってギルドの依頼がある訳でもないし、ランク上げにはほとんど影響がないので、俺達は完全にスルーだ。


 もし行くのなら息抜きを含んだ趣味みたいな物になるだろうけど、まあそれは気が向いたらって事で。

迷宮といっても、大きな魔力溜まりから発生した魔物を生み出すようなものから、過去の遺跡などにお宝が隠されている例まで様々だ。


 ヨルンの近くの迷宮にはドラゴンが住み着いているなんていう噂もあるみたいだけど、本当かどうかは怪しい。

なにせドラゴンと言えば龍族の親戚で、その力は魔物の中でも最上位に分類される上に、魔大陸基準でもかなり危険な存在なのだ。


 まあ龍とドラゴンじゃあ人間とサルくらいには違いがあるけど、それでも魔物にしてはかなり知能が高く、力だけを見るならそう大差はない。

さらにその中でも上級のドラゴンともなれば、俺でも一対一で勝てるかは怪しいくらいの化物だったりする。


 そんな魔物の頂点がこの町の近くにいて、まだ被害の一つもないのだ。

嘘くさいと思ったって仕方のないことだろう。


「しかし、この町でのランク上げもそろそろ限界だなぁ。まあアザミさんとの約束もあるし、あと二ヶ月くらいはここに居なきゃいけない訳だけど、暇だ」

「そうか? 俺は結構この町が好きになってきたぜ。酒場のオヤジは面白れぇ事話すし、依頼で面倒をみてやったチビ共も懐いてくるしな。この大陸の奴らも案外悪くねぇ」


 ディーがこの二ヶ月を振り返って呟く。

ずいぶん昔の話になるが、8歳の頃に自分の目でヒト族達を見極めてみればと言った手前、そういう感想を抱いてくれる事は嬉しい限りだ。


「あらー、それは良かったわねディー。私も友人がルーくんの期待に応えてくれた事がうれしいわー。おかげで、あなたとオハナシをせずに済みそうよー」


 サーニャの言うオハナシとは何なのだろうか。

ちょっと俺には聞く勇気がない。


「そ、そうなんだ。俺も二人が仲良くしてくれて嬉しいよ。ところでディー、酒場のオヤジさんの話で何か面白い依頼の情報でもないかな? あそこは冒険者達の交流の場だからね、情報の新鮮さはこの町随一だと思うんだけど」

「ああ、あるぜ。というか、聞かれるのを待ってた。ルーと同じで、俺もそろそろ町でのランク上げには限界を感じてたからな、なんか暴れられそうな話が転がってないか探りを入れてたんだ」


 どうやらまたディーの世話になってしまったらしい。

魔大陸の頃の根回しもそうだけど、情報収集から戦闘まで、本当に頼りになる親友だ。


「で、どんな依頼なのさ」

「信ぴょう性はそこまでじゃないんだが、なんでも最近、迷宮でドラゴンを見たっていう冒険者が居たらしい。魔物の動きも普段と違うみてぇだし、いよいよ怪しいって事でギルドの方も対策を練り始めたって噂だ。そろそろ緊急依頼が張り出されるんじゃないか?」


 なんだそれ。

ドラゴン見たってマジかよそいつ、良く生きて帰れたな。

まあ好戦的ではあるが理性もあるのがドラゴンの特徴だし、その冒険者が取るに足らない程弱いと判断されたのなら、逃がされたっていう線もあるけどね。


「だけどそれが本当なら、さらにランクを上げるチャンスにもなるね。さすがに上級のドラゴン相手とかだとこの町のレベルじゃ抵抗は無理だろうから、その場合も考えたらあくまで偵察がメインになるだろうけど」

「偵察だけってマジかよ。俺は戦いたいから、上級だった場合でも特攻したいんだけどなぁ」

「あらディー、それは許さないわー。そんな勝手な事をして降格になりでもしたらどうするのー? もしそうなったら、毎晩寝ている間に闇魔法フィアーをかけてあげなきゃいけなくなるじゃないー」

「待て、それだけはヤメテクレ」


 怖過ぎだろっ!?

なんて拷問だそれは、もしかしてオハナシってそういう事なのか。

サーニャの手口にドン引きせざるを得ない。


 でも正直、偵察だけじゃランク上げにはまだちょっと足りないし、ディーじゃないけど戦って討伐したいのは俺の望む所でもある。

俺一人じゃ危険でも、俺達というパーティー単位でみるなら確実に狩れる相手だしね。

是非にこちらに害を成すドラゴンであって欲しい。


 ──そしてそんな俺の願いが叶ったのかなんなのか、数日後、ついに冒険者側に死傷者が現れた。

それも自らの力を誇示し恐怖させるかのように、パーティーの中でたった一人だけを生かして逃がし、残りの人間を食い殺すという形で。


 正直あまりにも都合が良すぎるというか、少しきな臭い。

まさかまた魔族崇拝みたいなのが絡んでるんじゃないだろうな。


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