【35話】交渉成立


 当然の如くアザミ父との面会を断ると、向こうはまさか断れるとは予想していなかったのか、急に焦り始めた。


「な、ななな! なぜですか!? 理由をお願いします!」

「いやいや。むしろ理由が必要なのかなって感じだけど、そもそも固有技能ユニークスキルとどう関係があるのさ」


 一番の問題はそこだ、全く話が繋がらない。


「それは、私のお父さんに会えば分かりますっ! 私達にはルーケイドさんのような方の力が必要なんですよ!」

「ふむ」


 どうやら何らかの理由で固有技能持ちの力が必要であり、その理由についてもアザミ父とやらに会えば説明してもらえるという事なのだろう。

しかしそれでは話が不透明すぎるし、こちらに何のメリットもない。


 それ以前に、なぜ俺が力を貸さなければならないのだろうか。


「まぁ、とりあえずそれは置いておいて。そこまでアザミさんが言うお父さんとやらは、いったいどんな人なの?」

「そ、それは……。いえ、それも会えば分かりますし、会わないのであれば私から言う事はできません」

「うーん」


 ダメだな、さすがにこれは交渉決裂だ。

お話にならない。


「結論から言うと、やっぱり無理かな。俺達にも目的があり、色々とやりたい事があるんだ。ディーとサーニャはどう? 二人が行きたいなら話に乗ってあげてもいいけど」

「私も当然パスかなー。ちょっとは見どころがあると思ってたんだけどー、見込み違いだったみたいー。これじゃライバルにもならないわー」


 サーニャの言うことは少し辛辣だが、確かに交渉にすらなってない現状では何にもならない。

もちろん彼女が交渉ではなくお願いをしているのは分かるし、何か事情があるのかもしれないが、その事情すらも分からないのだからどうしようもないのだ。


 すると、ディーが彼女を諭すように話を進め始めた。


「なあアンタ、それで本当に話がつくと思ってるのか? もしそうだとしたなら、俺達の事を舐め過ぎだ。どれだけ温室育ちのお嬢様なのかは知らないが、一度相手の立場になって考えてみてくれ」

「う、うぅ……。確かにそうですが、でも……」


 アザミさんが縋るように俺を見つめる。

……参ったな。

このまま追い出したんじゃ、まるで弱いものイジメをしているみたいだ。

というか涙目は卑怯だ、ズル過ぎる。


 ……ああもう、仕方ないなぁっ!


「あー分かった、分かったよもう。頼むからそんな目をしないでくれ、これじゃ俺達が悪者みたいだ」

「……っ、ならっ!」

「ああ、そのお願いは聞いてあげるさ。ただし、一つだけ条件付きでだけどね」

「条件くらいお安い御用ですともっ! この私にドンと任せてくださいっ」


 おいおい、まだ条件が何かすら言ってないんだが。

なぜもう満面の笑みなんだ。

復活が早すぎる。


「決断を急ぎすぎだよ、俺が無茶な条件を出したらどうするつもりなのさ」

「ふふふ、そちらこそ私を舐めないでください。ルーケイドさんがそんな事をするような人じゃない事は、今までのあなたを見ていれば分かりますともっ! なにせ、良い匂いのする村人さんですからね、そこらへんは信頼していますとも!」


 なんだその理屈は、どれだけ嗅覚に自信があるんだよ。

っていうか、嗅覚関係ないじゃん。


 ちなみに俺が出そうと思っている条件は至極簡単で、彼女言う通り無茶な要求とかでは決してない。

そもそも親友の前でそんなクズみたいな要求を押し付けたら、俺が見切りをつけられそうで怖いし出来ないよ。


 ただ、もしそれすら計算して信頼するとか言っているのだとしたら、こちらの完敗な訳だけども。

本能で状況を悟ってそうで怖い物がある。


「分かった、じゃあ条件はアザミさんのお父さんに、あなたが自分で話しを通してくること、だ。どうせまだ俺達の事も報告してないんでしょ? 俺に固有技能があるっていうのも、そちらの勝手な推測でしかないし、向こうも行き成り来られたって困ると思うよ。だから、一度自分で話を通してきてくれ。俺達はしばらくこの町で活動してるから、連絡はとれるはずだ」


 まあ、本当の狙いは時間を置くことで彼女の頭を冷やすのが狙いなんだけど、それは黙っておく。

それに固有技能に関しても剣にまつわるものじゃないし、スキルの正体をさらけ出す気もない。

故に、ここら辺が落とし所だろうと考える。


「なるほど、確かにお父さんの判断を仰ぐのは重要な事かもしれません。……うん、分かりました! では一度連絡を取ってきますので、楽しみにしていてください! きっとルーケイドさんもビックリしますから。同じ志を持つもの同士、絶対に後悔はさせないと誓えます! でも本当に、私が帰ってくるまで逃げないでくださいね?」

「ああ、約束は守るよ」

「……はい!」


 今まで以上の花の咲いたような笑顔でアザミさんが頷く。

あと志とかは特に持ってないので、そこはあまり期待しないでおくことにする。

まあでも、急ぐ旅ではないんだし、たまにはこういうのもアリかな。

息抜きは重要だ。


 そして俺が頷き了承したのを確認すると、やるべき事は決まったとばかりに一目散に駆け出して行ってしまった。

……嵐のような人だったな。


「ふぅ、これで一件落着かな。それにしても、なんで俺達にあそこまで拘るのかなぁ」

「いや、さすがにあの子が拘ってるのはルーに対してだろ」


 いや、そうかもしれないけどさ。

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