【34話】迷推理発動!!


 結局二人の睨み合いは数分続いた後、何事もなかったかのように急に終わりを迎え、殺気が四散した。

……ようやく終わったか。


「もういいのかな、二人共」

「ええ、そちらの女性が矛を収めたようですので。そもそも私は彼女に攻撃された側ですよルーケイドさん、まるで喧嘩してたみたいに言わないで下さい。心外です」

「……ふわぁー」


 彼女は頬を膨らませて俺を睨み、先ほどまでの出来事を糾弾するが、肝心のサーニャはというとどこ吹く風と言った感じで、既に終わった事だと言わんばかりに呑気に欠伸を漏らし始めた。

恐らく、これ以上続けると衛兵やらなんやらで町での面倒事が発生すると思ったのだろう。

個人的な思惑はともかく、引き際を弁えているあたりさすがだ。


「……と、言ってやりたいけど、アザミさんの言う通りさっきの攻撃はやり過ぎだ。ちゃんと謝れサーニャ」

「むぅー」

「唇を尖らせたってダメだよ」


 もちろん攻撃した側としては、アザミさんの猛烈な特攻に危険を感じて動いたのだろうし、それを止めた事について攻められるのは不服かもしれないが、ここは俺も妥協しない。

少なくともあの突進に悪意がない事は彼女にも分かっていたはずなので、それを止めるという意味では過剰攻撃過ぎるからだ。


 するとしばらくして、おずおずと言った感じでサーニャが謝った。


「……ごめんー」

「ふふんっ、さすがルーケイドさんです、状況がよく分かっていらっしゃる。ええ、いいですとも。ルーケイドさんに免じて、謝罪なら心よく受け入れましょう。ルーケイドさんに、め・ん・じ・てっ!」

「マジで覚えてろよ」

「君ら和解する気ある!?」


 ダメだこりゃ、しばらくほっとこう。


 その後、かなり不安の残る仲直りの後、あのまま彼女を放っておく事もできないので、とりあえず安めの宿屋で部屋を4部屋借りる事になった。

そして一旦、アザミさんを含めた俺達四人は個室に集まり、なぜこうまでして追って来たのかの説明を求める事にした。


「で、結局なんでルーの奴を追って来たんだよアンタ。俺達にも色々と個人的な事情ってもんがあるからよ、悪いがその理由を聞けねぇと、こっちもハイそうですかって訳にはいかねぇんだ」

「うっ、……それはそうですよね。こちらこそ突然押しかけてしまい申し訳ありません。そのあたりはしっかりと説明させて頂きます」


 ディーが手の離せない俺に代わって肝心な事を聞く。

ちなみに現在俺が何をしているかというと、いつまたぶつかるか分からない女性陣二人の間に割り込み、時々俺を跨いで微妙なちょっかいを出すサーニャとアザミさんの攻撃を【感知】して、未然に防いでいる。

固有技能ユニークスキルをこんな事に使う日が来るなんて思わなかったよ。


 というかどさくさに紛れてサーニャもマーキングしてくるし、それを見て何かを勘違いしたアザミさんも真似をしてくるしで、案外この二人は仲が良い。

さっきまでの険悪な雰囲気はどこにいったんだという感じだ。


 一種の友情でも芽生えたのだろうか。


「分かった、その説明ってやつを聞いてやる。話してみな」

「はい、話し合いの場を設けてくれた事に感謝します。ですが、本題の前に少し確認させて頂きます。単刀直入に聞きますがルーケイドさん、あなたのその剣術や体術はから教わったモノではありませんね?」

「…………え?」


 ……今、なんて言った?

人間──つまり、この大陸の人間から教わったものではないって言ったのか?


 おいおいマジか、まさか俺の正体に気づいたんじゃないだろうね。

どうするんだよこれ、もしかしてヤバいんじゃないのか。


 彼女一人が気づいているというだけならまだしも、既に彼女を通じてギルドマスターやその他の人に情報が行き渡ったとするなら、もはや手遅れだ。

ここで口封じをしても、何の意味もないぞ。


 二人もその一言を聞いた瞬間、一瞬だけど動揺を隠しきれなかった。

……これはもう、腹をくくるしかないかもしれない。

とりあえずいつでも動き出せるようにだけはしておこう。


「……返答なし、ですか。いえ、でもある程度は予測がついているんです。最初は物凄い動きのキレを見て、どこかの王族か貴族か、または武芸者の子息が恵まれた環境で訓練を積み、その力を得たのだと思っていました。ですが最後に見た一戦、あの魔族を追い詰めた時に放った剣技を見て確信したんです。最初から少しだけ違和感がありましたが、間近で見てわかりました。ルーケイドさんの剣技には、致命的にタメがないっていう事に!!」

「…………ん? ……は?」


 タメってなに?

あれ、何言っているんだこの子。

俺の剣技が人間特有の物じゃないとか、魔族っぽいとかそういう話じゃないの?


 なぜか変な方向に話が進んでいってるんだけど。


「その剣技、おそらく剣の固有技能ユニークスキルを以てして発動したものですよね。いえおそらくもなにも、そうじゃないとおかしいんです。普通なら全力で剣を振りぬいた後には必ず隙が出来ますし、次の動作に繋げるにしたって重心の移動を考えなくてはいけません。なのに、ルーケイドさんは何か別の力に外部から操られているかのように無理やり方向転換して、その動きのロスをほぼゼロにしているんですよ!? こんな意味不明な剣技を教えられる人間なんて、この世界にいません!」

「あ、あぁー。そうか、そこに引っかかってたのか」


 なんだそういう事か、ビビらせやがって。

そりゃ【念力】で自分の体を操ってますからね、当然色々と無茶も可能になりますよ。

それにしてもよく気づいたなアザミさん、身体能力的な意味で実力はそこまでじゃないのかもしれないけど、技術は相当にハイレベルな人なのかもしれない。


「という訳で、ルーケイドさんは剣の固有技能故に、どこかの国かそれに相応する組織に匿われているイレギュラーさんってことで、説明がつくんです。その証拠に、村から出て来たにしては不自然なほどに高価な装備をした護衛が二人もいるんです、バレバレですよ。まあ、今の沈黙でだいたいの事は察したので、私の質問は以上で終わりです。それに追ってきた理由もその固有技能に付随する事ですので、説明は簡単に済むと思いますよ」


 彼女はそう言って首をかしげ、こちらにウインクをする。


 いやー、バレてなくて良かった!

というか、思い込みの激しい人でよかった!

さすがに今回はヒヤヒヤしたよ。


「お、おう。そうだな、まあ俺達はルーの付き添いみたいなもんだから、あながち間違っちゃいねぇかもな。そんじゃまあ早速だが、その理由っていうのを教えてもらおうか?」

「ふふんっ! 素直に認めちゃっていいんですか? まあ、これだけバレバレなのですから、あまり隠す気も無いのかもしれないですけどね。それと私の理由なんて簡単です。──ルーケイドさん、一度父に会ってくれませんか?」

「ごめん無理」


 速攻で断った。

なんでいきなりアザミさんのお父さんに会わなきゃいけないんだ。

お見合いじゃあるまいし。

というか固有技能関連の話、あなたのお父さんと何の関係もないだろう。


 いや、そんなぐぬぬって顔されても困りますって。

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