【27話】ギルド長との交渉
妙な魔力の高まりを感じた俺は、用心のためにこっそりと剣に手をかけ、【身体強化】を発動する。
「それじゃ、お邪魔します。さぁどうぞルーケイドさん、入ってくださ──」
「──オラァッ!! 穿岩拳ッ!」
やっぱり【身体強化】の高まりだったか。
扉を開けた瞬間、中から筋肉モリモリの中年男性が飛び出し、捻りを込めた拳を放った。
そもそもなんだ穿岩拳って、ただのストレートパンチじゃないか。
しかも対して威力もない、酷く遅いパンチだ。
奇襲を狙って慢心しているのだろうが、舐められたものである。
「【反撃】一の型」
「グボォッ!?」
【念力】に設定された【反撃】の型で相手の攻撃を反らし、鞘に入れたままのミスリルソードで一撃を打ち込む。
【反撃】はカウンターに特化した動きに設定されている、【回避】と【連撃】を重ねた性能を持つ近接戦闘のメインスキルだ。
ただ、連撃と違って隙を狙う事に特化し調整しているので、【念力】によるサポートの度合いが弱い。
あまり強くサポートさせてしまうと、ミリ単位で決まった動きしかできずに相手に合わせたカウンターを決めずらいからだ。
攻撃だけすれば良い単純な【連撃】とは性質が違うのである。
「気は済んだかな、ギルド長さんとやら」
「これは一体何の真似ですかっ!? いくら冒険者として登録済みとはいえ、私が連れて来た人にいきなり攻撃を加えるなんて、事と次第によっては……」
本当にな。
ガイオン王国の法律は知らないけど、いきなり暴力を振るっていい法律なんてあるはずがない。
事と次第によっては裁判沙汰だろう。
「グォォォオオ……、痛ぇ、マジ痛ぇ。そしてこのボウズめちゃくちゃ強ぇ……」
「そんな事は聞いていませんっ! いや、確かにちょっと強すぎかなって思いましたけど……、じゃなくて!」
「分かってる、わぁーってるよ聖剣の嬢ちゃん。もちろん寸止め前提だし、ちょっと試験しただけじゃねぇか。大げさだぜ、なぁボウズ?」
ああ、だから手加減してたのか、なるほどね。
どうやら戦力になるかどうか試していたらしい。
ちょっとイラっとしたけど、まあそれなら納得。
武器も装備せずに襲ってきた時は舐めてるのかと思ったけど、中々面白いおっさんだ。
肝試しみたいな物だろう。
「ああ、俺は別に構わないよ。痛い思いをしたのはギルド長さんとやらみたいだしね」
「ハッハッハッハッ! 確かにそうだ、手痛いしっぺ返しをくらっちまったぜ。……クククッ」
「何が面白いんですか? んん? なんなら私が相手になりましょうか? 一回斬られてみますか? ええ?」
ギルド長の全く反省していない態度に、アザミさんがキレかける。
まあ気持ちは分かる。
「……わ、悪かったって嬢ちゃん。すまん、この通り。ていうかマジで痛ぇ、鞘に入ってるのになんて威力だよボウズ。まるでオーガに殴られたみたいだぜ」
「まぁ、そこらへんは修行の賜物ってやつかな? でもオーガはないよ、さすがに例えが悪い」
オーガとはゴブリンの上位種の魔物だが、筋力がそこそこある物理型の魔物で、スピードと知性がまるでない。
そこそこといってもディーや俺の【身体強化】と比べたら脆弱も良い所だし、相手にならないレベルだ。
まだオークキングの方がパワーがあるくらいである。
こんな雑魚と比べられるなんて、心外も良い所だ。
「そうですよ! いくらなんでもオーガといっしょにしないで下さい。あの一瞬で【身体強化】なんて出来るはずないですし、返り討ちにされたからって大げさすぎです」
「い、いやいや、本当にオーガかそれ以上の……」
「問答無用です。さあ、さっさと中に入ってしまいましょうルーケイドさん。このギルド長はあなたに負けたのがよほど悔しいみたいです」
……ん?
なぜか話がかみ合わないぞ。
もしかしてこっちのオーガは向こうよりかなり強力なのかな。
それなら少しは修行になりそうだ。
それからアザミさんは打ち身で動きの悪いギルド長を担ぎ、無理やり向かいの席に座らせた。
反撃した俺もなんだけど、扱いがかなり雑だな。
それでいいのかお偉いさん。
「ふぅ。ようやく話し合いの準備が整いましたね」
「そうだね。まあ凡その察しはついてるけど、あえて聞くよ。俺を呼んだ要件はなにかな、ギルド長」
俺がそう問うと、彼が大きく頷いた。
「うむ、まぁ実力も問題ねぇ──どころか、かなり予想の斜め上だし、聖剣の嬢ちゃんのお墨付きだ。人柄も問題ねぇんだろう。さっさと要件を話した方が良さそうだな」
「ああ、頼むよ」
「まあお前も分かっている通り、魔族崇拝者達に関係する事だ。本来こんな事はEランクの新人に頼むような事じゃねぇんだが、もう巻き込まれちまっているみたいだしな。だから単刀直入に言うぜ、お前さん、とりあえず囮になって奴らをおびき出してくれ」
まあ、そう来るよね。
奴らが俺を狙っているのはもう分かっている事だし、そこらへんうろついていれば接触があるだろう。
たぶん俺が囮になっている間にアザミさんや他の冒険者を使い、やつらの居場所を突き止めたりするんだろうが……、それではこちらに都合が悪い。
なぜなら、あのアホ組織がどんな情報をポロリしてしまうか分からないからだ。
俺の見てない所で勝手な事をされても困る。
……という訳で。
「ちょっとダメかなぁ、その依頼は引き受けかねるよ」
「…………っ。そう、ですよね。やっぱり囮なんて、虫が良すぎますよね」
俺がの発言にアザミさんが俯き、暗い表情になっていく。
まあ、手に入れた情報をEランク冒険者に公開できないのは分かるけどさ。
だが、こればっかりは譲れないんだよね。
「なっ!? おいおい、勘違いしているかもしれないが、ちゃんと報酬は払うし、ランク上げにも反映させてもらうぞ? 確かに危険だが、十分お前の実力で対応できると睨んでいるんだがな」
「いや、そうじゃなくて。単に条件が足りないというだけだよ。囮になるのはもちろん構わないけど、俺も突入作戦に同行させてくれ。でもって、今把握しているだけの情報を俺にも教えて欲しい」
「なんだと?」
この条件さえ飲んでもらえれば、あとはどうとでもなるだろう。
敵にいるだろう魔族の実力だけが気がかりだが、それでも放っておく事はできない。
すると、俯いていたアザミさんが顔を上げてこちらを凝視していた。
なにやら酷く驚いているようだ。
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