【26話】冒険者ギルド


 話し合いが終了し、三人で冒険者ギルドにやって来ると、見覚えのある人物が待ち構えていた。

門の前で腕を組み仁王立ちをしているので、邪魔な事この上ない。


「待ってましたよ、良い匂いの村人さん」

「何やってるんだ、アザミさん。腕を組んでないで通してくれ、他の人に迷惑だよ」

「いえいえ、もちろんルーケイドさんが来るタイミングを狙って通せん坊をしているので、まだ誰の邪魔にもなっていませんよ。朝も早いですしね」


 あ、通せん坊をしている自覚はあるのか。

となると、向こうの話に応じる態度を見せないと状況が前に進まなさそうだな。

黒装束の事で聞きたい事もあるし、丁度いいと言えば丁度いいが。


「はぁ。用事があるならあとで聞くから、とりあえず中に入れさせてくれ。こちらもアザミさんに聞きたい事があるし、時間は取るからさ」

「くすくすっ。なら良し、ですっ!」


 頬を上気させ、満面の笑みで通行止めを解除するが、何か嬉しい事でもあったのだろうか。

もしかして魔族崇拝者の事で進展でもあったのかな?

それはそれで、正体がバレる可能性にも奴らを探る手がかりにもなる、諸刃の剣な訳だが。


 まあ悪意は感じないので、たぶん後者だろう。


 そんな事を考えながら建物内に入ろうとすると、入口で道を空けたアザミさんに、過ぎ去りざまサーニャが何事かを耳打ちした。


「(メス犬がルーくんに馴れ馴れしくしてんじゃねぇよ)」

「……………………」


 ……ちょっと今、聞こえちゃいけない何かが聞こえた気がするが、きっと空耳だろう。

俺は何も聞いてないし、何も見ていない。

そう、ディーがそっぽを向いて口笛を吹いているのも、アザミさんの顔が引きつっているのも、何かの間違いだろう。


「あ、あーっ! 今日はいい天気だなーっ! そうだっ、後で剣術の模擬戦でもやりませんか!? せっかく知り合った仲だし、で協力関係を結べるかもしれないしっ」

「あ、あは、あははは……。そうですねルーケイドさん、せっかくですしお相手になりましょうっ! この聖剣を見せるって約束もしましたし、模擬戦で力を引き出せたら褒めてあげます」


 良かった、この無茶ぶりについてきてくれた。

空気読める人でよかったよ、ホントによかった、いまなら彼女に焼き土下座したっていい。

……あれ、目から汗が。


 それから数分後、謎のそら耳以降、特にこれといった問題も発生せずにギルドへの登録は完了した。

登録料がかかったが、それも三人合わせて銀貨三枚程度、激安である。

話を聞いてみると、どうやらEランク冒険者になるような人の中には、ロクに装備も整えらずに死んでしまう人も多いとの事で、Dランクへの昇格試験の時に受験料を払う代わりに安くしているのだとか。


 まあ表向きには年齢制限なしだもんね、親の居ない子供だって登録できるんだから、最初が安いのは当たり前か。


「まさか本当に登録していないなんて驚きました。もしかすると盗賊組合などの高ランカーとかだったりするのかも、なんて思ってましたが、それも無かったみたいですし。……やはり大貴族のご子息説が濃厚という訳ですね」


 アザミさんが一人でうんうんと頷く。

まあ、ここらへんは相手にすると藪蛇になりそうなので放っておく。

とりあえず向こうの要件を聞いてみよう。


「それで、結局のところ何の用だったのかな? まさか本当に聖剣の力を見せつけるとか、そういう理由じゃないよね」

「あ、はい。それもありますが、別件も勿論あります。……しかし此処ではなんですので、一旦ギルド長室に向かいましょうか。ただ、同行はルーケイドさんだけでお願いします」


 ふむ。

ようするに情報の漏洩を防ぐために俺だけを同行させると。

これはあれだな、十中八九、魔族崇拝者についての話だな。


 アレの関係者である俺だけってのも理由の一つだし、彼女がこちらの実力を知っているのも俺だけ、その上でギルド長が絡むほどの大事ってなると、そういう事なのだろう。

しかし理由は分かるが、納得はできない。


 でもって、相手はテコでも動かないだろうから、ディーとサーニャには裏で動いてもらうとしよう。

正直、この程度の事は予想の範疇である。


「分かった。じゃあ、ディーとサーニャは自由にしててくれ。彼女は俺に用事があるみたいだからね」

「任せろ、そんじゃにやらせてもらうぜ」

「ルーくん、あとは任せてー」


 うん、自由にね。

宜しく頼んだよ。



──☆☆☆──



 アザミさんの案内でギルド長室へ向かう。

時折素通りする職員さんが彼女に頭を下げているが、いったい何者なのだろうか。

冒険者とは聞いていたけど、もしかしたら結構な高ランカーなのかもしれない。


「ギルド長、私です。例の凄腕さんを連れて来ましたよ」

「……ああ、聖剣の嬢ちゃんか。おう、まぁ中に入れや」


 中から野太い声が聞こえ、入室の許可が下りる。

【感知】の反応的には大柄の男である事が分かるが、魔力が以外と丁寧に制御されている所を見るに、もしかして魔術師かな?

いや、この高まりは……。


 



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