【25話】ある結論に至る


 アザミさんから黒装束の件について情報を貰ってから数時間後の朝、少しだけ睡眠不足を感じながらも目が覚めた。

吸血鬼ヴァンパイアは朝が弱いっていうのはファンタジーの定番な訳だけど、なんのことはない、単に夜更かししていただけだ。


 それもこれも、魔族崇拝者とかいう迷惑組織への対策を延々と考えていたせいなので、このツケはキッチリと支払わせるつもりである。


「ふわぁ、おはよ」

「おはよぅルーくん。昨日は騒がしかったねー」

「全くだぜ。ルーの意識がやけに外へ向いてたから、気になって寝るのも一苦労だった」


 やはりディーやサーニャも気づいていたようだ。

さすがに、【感知】を持たない二人では彼女の居場所を突き止められないけど、俺の気配や視線から何かを感じ取っていたらしい。


 これはちょっと悪い事をしたな。


「それについては済まない。別に敵という訳では無さそうだったから、後回しにしていたんだよ。あとは万が一の事を考えて、なるべく人目の多い昼間に戦闘になる事も避けたかった」


 昼間に俺達の正体がバレる、もしくは戦闘へ発展すると大多数の人間に情報が伝わってしまう。

なので出来るだけ一対一の状況を選びたかったのだ。

例えばそう、深夜とかね。


 黒装束みたいに勝手に襲ってきたら話は別だけど、そうじゃないなら手を出さない方がいい。


「まあいいけどな。聞き耳を立てた限りじゃ、向こうさんも此方を信用したみたいだし」

「えー? 私はー、ちょっと危険な臭いを感じたかなー」

「……いや、ルーが今は敵じゃねぇって言ってんだから大丈夫だろ。こいつが重要な判断を間違えるハズがない」

「むー。そうじゃなくてー、女のカンってやつー?」

「はぁ? なんだそりゃ」


 全くもってディーに同感だ、何を言い出すんだサーニャは。

怪しまれているならまだしも、内容的に女の勘が働くような場面シーンじゃないと思うのだが。


「まぁー、さすがのルーくんと言えども、男子には分からないかなー。私もカンでうっすら危険を感じる程度だしー」

「そうか、分かった。だがその話はまた後だ。とりあえず、今日は早速ギルドへの登録と、深夜の会話にもあった黒装束への対策を取る事にする」


 問題解決の重要度的には、1位が魔族だとバレた原因の把握、そしてそれへの対策。

2位がアザミさんとその上層部、さらに言えば魔族崇拝者たちの背後関係の把握。

3位が身分証の獲得だ。


 だが、行動の優先度的にはその順位が逆転する。

身分証を獲得し、背後関係を洗い出し、原因への対策を講じるって具合にね。


 中でも面倒くさいのは背後関係の把握。

現時点で俺達の危険となりえる人物を全員リストアップし、今回の事を切っ掛けにして正体がバレないようにするのは、かなり骨が折れそうだ。


 一息でここまでの説明を終えると、ディーから質問があった。


「だいたいの方針は分かった、行動の順番にも文句はねぇ。身分証の獲得が終わらなきゃ何にしても動けねぇし、問題に関わってる人物を洗い出さなきゃ対策も講じられないからな。……ただよく分からねぇのが、なんで奴らはルーだけを使徒とかいう奴と勘違したんだってことだ。ここはオリュンから来る魔族がそれなりに居るはずだし、同族は他にも居るはずだぞ」


 もっともな疑問だ。

魔道具の効果で誰が魔族かなんて俺にも分からないが、それでも長い年月をかけて秘密裏に交流しているのだから、その最初の港町であるレビエーラにはそれなりの魔族がいるはず。


 であるのに、奴らが俺一人を接触対象としたのには色々と疑問が残る。


「ああ、それは俺も気になっていた。だから必ず目印になるものが存在しているはずなんだ、奴らが理解できて、尚且つ今回の勘違いに繋がるような何かが」

「と、言われてもなぁ」

「そうねぇー。私もー、特に思い当たる節は無いかなー」


 そうなんだよなぁ、そう言われても手掛かりなんてない。

そもそも俺達が魔族だと知っているのは船長さんと船員さんだけのハズだし、現地の魔族にだって、明らかに魔族だって分かるのはその船の事、……だけ、……で。


「あぁ、そうか。なんだそういう事か。というかそんな理由で俺に近づくって、なんて不用心な奴らなんだ」

「どうした? なんか分かったか?」

「ああ、だいたい事情は把握した」


 あいつら、魔族船のをターゲットにしてたんだな、きっと。

それで、船長さんと仲間である二人の中心に立って行動していた俺が使徒だと思ったのだろう。

なんて傍迷惑な組織だ、こんな方法で接触してたんじゃいつボロが出てもおかしくない。


 魔族船の事を知っている以上、裏で糸を引いているのも同じ魔族なんだろうけど、いくら何でも間抜け過ぎる。

それに黒装束は奴隷の手配とかなんとかいってたけど、正規の奴隷かどうかも怪しい。

なにせ俺が使徒じゃないと分かったら殺そうとしてきた奴らだからね。


 もし犯罪や借金が原因ではなく、無理やり拉致している人間を対象としているんだとしたら、やはり潰さなければならないだろう。

こんな腐った組織のせいで勇者訪問の目標が遠のくなんて、全くもって我慢ならない。


「よし。ディー、サーニャ、ギルドで身分証を獲得したら威力偵察にいくぞ。おそらく黒装束のような組織はいくつかあるんだろうけど、今回の馬鹿を放っておけば魔族全体に被害がでる。情報の流出的な意味で」

「お、おう。分かった、ようするに暴れ時って事だな?」

「ふふふっ、ルーくんが怒るなんてー、初めてみたかもー。レア表情ゲットぉー」


 それから数分後、俺の部屋で二人に事情を説明して行動開始となった。

いくつかあるだろう魔族側の組織の中でも、ダントツでアホなこの黒装束は絶対に叩いておかないとね。


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