【17話】もうすぐ成人します


 ヴラー開拓村から徒歩で半日ほど離れた場所にある、とある空き地。

その未開の地では豚鼻の巨人、オークと呼ばれる魔物が徒党を組んで集落を形成していた。


 いったいどこから集まったのか、その数は既に二百匹程にも上るようだ。

しかし本来、このオーク達には文化という物がほとんど存在しておらず、本能のままに人を襲い食い散らかし、本能のままに犯す、放っておけば次々に繁殖していく厄介な存在として知られている。

であるならば、今回はその徒党を統括する存在が出て来たという事だろう。


 またオークは基本的に力が強く、耐久力も高い。

中にはオークキングやオーククイーンとよばれる上位個体や、オークメイジとよばれる特殊個体なども確認されており、その戦闘力はただのオークとは比べ物にもならない程だ。


 そして、そんな魔物達が二百匹もあつまれば、それはもうかなりの脅威度。

ヒト族などの抵抗力の弱い村であれば、一晩にして滅んでしまうだろう事が容易に想像できる。

……ヒト族などの村であれば、だが。



──☆☆☆──



 どうも、ルーケイドです。

既に成人間近の12歳、そろそろ家族に他大陸へ渡る事をカミングアウトしようかと考えている今日この頃。

ディーなんかはもう成人しちゃっているので、そこらへんの準備も踏まえて自由奔放に動き回っているみたいだ。

親友冥利に尽きるね。


 ちなみに、最初の三年くらいは父さんたちの付き添いがないと村の外にも出れずに、魔物討伐パトロールすら勝手にはさせてもらえなかったんだけど、ちょうど一年前くらいに実力を認めてもらってからはやりたい放題。

毎日のように強敵を求めて魔物討伐パトロールしている。


 ただ開拓村付近の強い個体は父さんや兄さんが完璧に間引きしちゃっているので、もう俺達の相手になるような魔物が存在していないのが悲しい所だ。


 しかし、たまに元の魔物から進化した上位個体なんていうのも出て来たりして、集落を形成したりしはじめる時期がある。

ゴブリンキングとか、オークキングとか、そういう集団を統治する奴が出て来るのだ。

まあ、それでも意思疎通はできないし、向こうはこちらを食料としてみているから討伐するんだけどね。


 でもってそういう時こそが狙い目で、父さん達が討伐に向かう前にこちらで殲滅作戦を決行するのが今回の目的。

俺としては程よい刺激程度にはなっているので嬉しい限りだ。


「ヴォオオオッ! ヴォ!」

「ゥヴォオオオ!!」

「ディー! そっちに七匹、誘導漏れのオークが向かった! 特殊個体っぽいから気をつけろ!」


 今回のオークは数が多いため、作戦的にはサーニャの範囲魔法での殲滅がベストだ。

俺は【感知】で全体の流れを把握できるために、敵全体の誘導と仲間への指示担当。

ディーはその誘導漏れへの対処と言ったところだ。


「おう、任せろ! 今日は焼肉パーティーだぜ!」


 鎧袖一触。

急接近したディーの魔法銀ミスリルの大剣がオークたちを両断し、七匹のオークメイジ達は魔法を使う暇もなく、上半身と下半身が泣き別れになった。


 子供の頃から圧倒的な攻撃力を誇っていたディーの大剣だが、あれから体格もぐんぐん良くなり、既に村の大人と大差ない。

その体格故、今では剣など使わずとも、父さんのように拳で岩を爆砕できるレベルにまで達しているのだ。


 なぜわざわざ拳を鍛えているのかは俺にはわからない。

おそらく聞いても超闇妖精スーパーダークエルフの夢が語られるだけだと思うので、そっとしておくことにする。


「ルーくん、ディー! 範囲魔法いくよー!」

「「げっ!?」」


 サーニャが叫ぶと同時に、オークと接敵していた俺とディーは一気にその場から離れる。

俺がチマチマ数を削りながらオークの集団を誘導し、ディーがその誘導漏れを討っていたのだが、範囲魔法に巻き込まれればかなり痛い。


 幸い、【身体強化】を身にまとっていると魔法への抵抗力も上がるので死ぬような事は無いが、それでも怪我くらいはするのだ。

その事を知っていてなお範囲魔法を使うという彼女の判断は、俺達二人への信頼によるもの……、だったらいいなぁ。

実は性格がドSとか、そういうのは怖いからやめてね。


「えーい! ──、────、──アイスレイン!」


 魔法の詠唱を終えたサーニャから、凶悪な速度で氷の槍が降り注いだ。

誘導していたオークの大半はその氷槍の雨に貫かれ即死し、ただの肉へと変わっていく。

……さっきまでこの魔法の射程圏内にいたかと思うと、ちょっとチビりそうだよ。


「おいサーニャ!! 今のマジでギリギリだったぞ、危ないじゃねぇか!」

「まあ落ち着けディー。結果的には成功したし、おかげでキング種を守るオークは居なくなったじゃないか。……っと、それじゃボスは俺が貰うよ!」


 そう判断するや否や一目散に駆け出し、今回のボスであるキング種へと接近する。

12歳となった俺は規格外の体格をもつディーには及ばないものの、それでも年相応以上の成長を遂げていた。

もう大人用の魔法銀ミスリルの双剣を十分に振り回せるくらいだ。

チート種族万歳。


 そして部下が居なくなり唖然としていたオークキングだが、俺の接近に気づくと慌てた様子でこん棒を振ってくる。

あの威力だとサーニャはちょっと危険かなって感じだけど、まあ前衛であるディーや俺なら、仮に当たっても大したダメージじゃない。


「グルォオオオッ!!!」

「甘い甘い、甘いよキング殿。連撃、四の型」


 とはいえ、当たるという前提がそもそもありえないんだけどね。


 俺のもつ固有技能ユニークスキル、【感知】から派生した【念力】にインプットされた様々な型の一つ、連撃を放った。

連撃の型はその数字に応じて攻撃回数が多くなり、その回数に応じて最もベストだと思う動きを登録している。


 ただ連撃中は体が勝手に動くので急に止まれないし、自由を失った分、ある意味隙を作る事になる。

なので無駄に十連撃とかやるくらいなら、五連撃を二回繰り返した方がいい。

と言う訳で、現在は五の型くらいまでしか作っていなかったりする。

まあ普通に剣を振り回すのに比べて、超速度で尚且つ超精密に双剣を振れるし、めったな事じゃ隙なんて出ないんだけどね。


 正直、たった今バラバラにしたオークキングくらいなら【念力】のアシストがない攻撃で十分だし、四連撃はやり過ぎなくらいだ。


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