【16話】マイソードをゲット


 私は考えていた。

我が息子、ルーケイドの行動の意味を。


 確かに過去の戦争で私の父や母を殺した奴らは憎いし、許せる事ではない。

実際に奴らは私達を討伐対象としてみている者も多いし、血も通っていないような残酷な事をする。

さらにはあの奴隷商のように同族を裏切り、金などのために外道へと落ちる者を見ていると腹が煮えくり返る想いだ。


 だが宿屋に戻ってから聞こえて来た息子たちの会話と、奴隷商での息子の行動を考えると、どうも自分が冷静でなかった事だけは分かる。

両親を亡くした事による私怨に、囚われ過ぎていたのだ。

ルーケイド達を奴隷商に連れて来たのも、ある意味では私の感情の押し付けだったのかもしれない。

このような矮小な男が社会見学をさせてやるなどと、片腹痛いとはこの事だな。


 いまならグレイグがルーケイドの意志を常に尊重している理由がわかる。

あの子は私達が思っている以上に聡明で、私の常識など軽く飛び越えた子なのだと。


 あのヒト族達にしても、弱い種族だからなんだというのか。

見るべきところは強さだけではない、彼らにだってこの国にはない高い技術力があるではないか。

そうだと言うのに、魔族はあまりにも彼らを侮りすぎている。

そういった驕りの一つ一つが、彼らとの戦いに繋がったのではないのか。


 そう考えると、目が覚めるかのような思いだった。

……まったく、ルーケイドにしろグレイグにしろ、息子たちは私などにはもったいない、奇跡のような子供達だな。


 しかし成人したらあの大陸に行く、か。

これも息子の意志だというのなら、私も止めはしない。

向こうにだって活動している魔族はいるし、多少の危険はあるが旅をするくらいわけはない。


 ならばいっそのこと、子供達にはその旅に耐えうる装備を贈ってあげようではないか。

この話を伝えた時の妻の態度がいささか不安ではあるが、その怒りも甘んじて受け入れよう。


 そして父として、せめて息子の前だけでもあのような態度をとらぬように気をつけねばなるまい。



──☆☆☆──



 初日になんやかんやあってから翌日、凄腕の土妖精ドワーフが営んでいる鍛冶屋へと赴き、子供用の鉄剣とは別に、魔法銀ミスリルで出来たちょっと大きめの双剣と、大剣、杖を注文した。

この土精霊ドワーフさん、なんと長年街の建設や武器防具の作成で貢献した事で奴隷から解放され、正式に国から店を給わされているらしい。


 まあ解放といっても、主人から解放されて好きに鍛冶ができるってだけで、立場は低いんだけども。


 だが奴隷からの出世が出来る事には驚いた。

というかこの大陸の魔族は、色んな意味で実力主義な所があるのかもしれないね。

優秀な奴は認められて、そうじゃないやつはどこまでも下に見られる。

弱肉強食の色合いが濃い。


 それでも父さんはちょっと微妙な顔をしていたけど、まあこれはしょうがない。

そういえば父さんに関してだけど、初日に見せたような態度は日に日になりを潜めてきている。

俺達がずっと普通に接しているからかもしれないけど、少しづつでもヒト族への認識を改めてくれると嬉しいな。


 2日目の朝なんて、個人的な感情はともかく、父として息子に見せる態度ではなかったと言っていたくらいだ。

もしかしたらディー達と話していた会話が漏れ聞こえていたのかもしれない。

だとしたら、俺が向こうの大陸に行くことはもう認めてもらえたって事になるのかな……?

いや、そもそも会話を聞いていたかどうかすらまだ仮定なんだけどね。


そうして色々と準備が整いつつも、無事に二週間が過ぎていき、注文していた武器防具も届いた所で帰宅となった。


 ちなみに届いた魔法銀ミスリルの武器だけど、鉄製の武器より軽く丈夫で、後々魔法陣を付与する事で人工的な魔剣とする事も可能らしい。

そこらへんは鍛冶屋の専門外らしいので後回しになったけど、なかなか良い情報が聞けた。


 魔法が付与できる程魔力に精通した剣なら、魔力の伝導率も鉄剣とは比べ物にもならないだろうし、実践で【念力】が十分に生かせる武器となるだろう。

いやぁ、用意してくれた父さんと職人さんには頭が上がらないね。

これなら成人するまで、いや成人しても使って行けそうだ。


「……ふむ。ふむふむ。ふむふむふむ」

「おい、いつまで剣みてんだよルー、ニヤニヤして気持ち悪いぞ」


 おい、気持ち悪いとはなんだ、気持ち悪いとは。

マイソードになんか文句でもあるってのかディーよ。

おおん?


「えー? ルーくんはどんな表情でもカッコいいよ?」

「だそうだぞ」

「オレがおかしいのかっ!?」


 そうだ、お前がおかしい。

なぜなら新調したマイソードはどこまでもカッコよく、故にニヤニヤするのは当然であり、罪はないからだ。

完璧な理論だな。


「それにディーだってずっと剣をなでなで磨いてるじゃないー」

「なっ! これはアレだ、剣の整備というやつで……」

「まだ使ってもないのに整備なんておかしいと思うのー」

「ぐはぁっ!」


 サーニャに完全論破されたディーが床に崩れ落ちた。

ざまぁ。


 道中で出て来る弱い魔物など、馬車の馬が轢き殺していくので剣の出番などないのだ。

これを使うのは、森へ魔物討伐パトロールへ向かう時になるだろう。

それはまではマイソードは温存だ。


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