【18話】成人ついでにまたカミングアウト
ヴラー村周辺に現れたオークの徒党を殲滅してから数ヶ月、俺はついに成人を迎えることになった。
ちなみにあの時のオークに関しては、殲滅したすぐ後に父さん達が駆けつけてきてヴラー村の食料へと早変わり。
成人もしてない子供を魔物の群れにぶつけるのはどうかと思われるかもしれないが、あの規模の集団なら万が一にも俺達三人に大けがを負わせるような存在はおらず、仕事を早く終わらせてくれた事で褒められたくらいだ。
「ではルーケイドの成人を祝して、──乾杯!!」
「「「かんぱーい!!」」」
そして現在、アマイモン家では次男の俺が成人するとあって、ヴラー村の従士や使用人、その他集められるだけの人を集めて祝賀会が開かれていた。
まあようするに、大きい飲み会である。
お馴染みのメンバーであるディーやサーニャも参加していて、サーニャに関しては俺より数日早く成人を迎えていたので、旅の話を切り出すにはもってこいのシチュエーションだ。
「とは言うものの……、村長の息子が村から出るなんて、言い出しにくいよなぁ」
お祭りが終わった夜にでも、こっそり両親に伝えればいいと思いもするが、しかし村長──いや、英雄の次男というだけあって、みんなには村の発展に期待されている。
それゆえに、こっそり家族にだけ伝えて内緒で出ていくっていうのはどうも無責任だ。
するとそんな俺の思惑を悟ってか、ディーとサーニャが近寄ってきた。
親友にも色々と旅の準備で世話になっていて、今回できるだけ大勢の村人を集めてくれたのもディーだ。
中々切り出さない俺に思うところがあるんだろう。
「ほら飲めよルー、辛気臭ぇ顔してんじゃねえ。……まぁ、お前の気持ちも分かるけどな。なんなら俺から話を切り出そうか」
「あらー、いつも無神経のディーにしては気が利くじゃないー。見直したわー」
「そんなんじゃねぇよ。ただ、ルーの奴が背負っている周りからの期待ってやつは大きいからな。成人を境にいきなり村を出ていきますじゃ、空気ワリィだろ。なにせルーの親父は英雄だからな」
「……そうねぇ」
俺の心情を代弁したディーの発言にサーニャも頷き、二人がこちらを見据えた。
……判断は俺に任せるってことか。
やはり、ここで逃げるのは無しだな。
「いや、いい。このくらい自分から切り出すよ。こんな事で尻込みするようじゃ、親友として二人に合わせる顔がない。行くと決めたのは俺だ、まあ見とけ」
「へへっ、そうかよ」
「はぁ、やっぱりルーくんカッコ良すぎ……」
「俺はそんな大した奴じゃないよ」
それだけ言うと、この件はもうは終わったとばかりに席を立つ。
ここまで友に信頼されてるんだ、その信頼にはちゃんと答えなければならないだろう。
それじゃあ、この魔族大陸を離れる前に、いっちょケジメをつけてやるとしますか。
「────皆、聞いてくれ! 俺は、いや俺達は他大陸に渡り見聞を広めたい。そして、機会があればソウ・サガワと接触するつもりでいる」
──☆☆☆──
祝賀会での演説は、とある条件込みで殆どの村人に受け入れられた。
いや、本当に受け入れられたかは分からない。
中にはいつまでも反対する者もいたしね。
まあ、それも当然の事だ。
なにせ俺はこの大陸の侵略者筆頭である、「ソウ・サガワ」を調査しに行くって言い出したんだからね。
他大陸で旅するだけならともかく、敵側の英雄に接触しにいくなど、普通なら死にに行くようなものだ。
しかも当事者である父さんや物知りな行商人から聞いた情報だと、向こうじゃ勇者だなんだと呼ばれる大英雄様だ。
ヒト種とは思えないその戦闘力は魔族の頂点である魔王にも匹敵し、危険性は天井知らずで魔族をみたら即バッサリ。
少なからず俺たちを慕ってくれている皆からすれば、それはもう我慢ならないような話だ。
ではなぜ大多数の人が賛同してくれたかというと、それは勇者を撃退せしめた英雄、その一人である父さんが放った一言が大きかった。
ウルベルト父さんは言った「──本当に、彼らは敵なのだろうか。彼らを下等だと侮った私たち魔族に、何も問題がなかったと言えるのか……。私達は、私達が思っている以上に何も知らない」と。
父さんは危険性が分かってない訳じゃない。
何度も悩み、悩みに悩み抜いたその証拠に、顔をしわくちゃにしながら言葉を捻り出したのだ。
その葛藤に、村の皆は黙るしかなかった。
だが全ての話ががすんなりと通った訳ではない、条件があるのだ。
条件1:旅は認めるが絶対に魔族だとはバレるな。
条件2:ソウ・サガワと接触するまえに一度連絡をとり、魔大陸からの反応があるまで待て。
条件3:もし否応なしにソウ・サガワと接触する事があれば、全力で逃げろ。
条件2に関しては、魔族だとバレているならまだしも、こちらは向こうの種族として会いに行くのだ。
向こうのお偉いさんである勇者様とは簡単に会えるはずもない。
故に会うような事があればそれ相応の信頼を他大陸で勝ち取ったという事であり、魔大陸側もアクションを起こすから父さんへ連絡しろという事である。
条件1と条件3は簡単だ、ようするに死ぬなってことだね。
大っぴらに旅してるやつが魔族だってバレたら色々危ないし。
魔族である事を隠す魔道具があるみたいだから、その魔道具を使って潜入するにせよ、気を付けろって事だろう。
そんな感じで、色々と報告や話合いが行われた祝賀会は終わりを迎えた。
しかし父さんはともかく、母さんと兄さんが黙っていたのが不気味だったな。
何も無ければいいんだけど。
だが、そんな俺の予感をなぞるかのように、この日の深夜、俺はグレイグ兄さんに決闘を申し込まれた。
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