【14話】なんと魔族に転生していた


 奴隷商では小太りなおっさんがニコニコ顔で俺達を出迎えてくれた。

おっさんは金髪碧眼の、人型という以外になんの特徴もない種族で、いったいどこの部族の方なんだろうかとちょっと疑問に思う。


 俺がいままで見て来た人間達はどこからしら前世とは特徴が違っていて、見分けがつかないのは吸血鬼の母の血筋くらいだ。

それ以外でここまで人間っぽい人間を見たのは、今回が始めだと思う。


 奴隷商の人はちょうど父に見せる奴隷を見繕いに行ってしまったし、どこの部族なのか、ちょっと聞いてみようかな。


「父さん、あのおじさんはどこの部族の人なんですか?」

「……む? おじさんとは、ここの奴隷商の事か?」

「そうだよ、あの小太りの人」

「私も気になりますー」

「オレもオレも」


 父さんが何を言っているんだこの子達は、という感じで呆けている。

あれ、何かマズい事言ったかな?


「そうか、ルーケイド達はまだ知らないか。いいか、あれは人間ではない、あれは先ほど話した──」

「お待たせしました。ただいま旦那様方を案内する準備が整いました……、ひぃっ!!」


 父さんが話そうとしたタイミングで、ちょうど奴隷商に雇われているであろう使用人の女性が現れた。

あ、この人もめちゃくちゃ人間っぽいな。

茶髪で黒目だ。


 しかしそう思っていると突然、父さんからいままで感じた事の無いような怒気が膨れ上がる。


「──キサマ」

「ひっ、ひぃいぃっ! も、申し訳けありません旦那様、申し訳ありませんっ!」


 あ、あれ?

どうしたんだ父さん、何でそんなに怒っているんだ。

ただタイミング悪く使用人の人が来ちゃっただけじゃないか。

ていうか、ディーもサーニャも父さんの怒気にビビって震えちゃってるよ。


 使用人の人なんて土下座の態勢で縮こまっちゃったし、いくらなんでもやり過ぎだろ。

普通じゃない。


「ちょっと、父さん怒気を抑えて。二人が震えてるよ、やり過ぎだ」

「む? ……う、うむ。ゴホンッ、あー、済まなかったな三人とも。もう大丈夫だ。──それよりも」


 怒気が収まったのを確認すると、父さんが何かを言うよりも早く、土下座の態勢のお姉さんの下に駆けつける。


「ほら、お姉さん大丈夫? さっきは父さんがごめんね。もう大丈夫だから」

「……へ?」

「何っ!? ルーケイド、お前……」


 お姉さんが駆けつけて来た俺を見て放心し、信じられない何かを見るように固まってしまった。

もう、なんなんだいったい。

父さんも見てないで、ちゃんと謝ってくれないと収集がつかないよ。


 そうしてしばらく膠着状態が続き、しかたなく俺がお姉さんの背中をさすさすしていると、中々部屋から出てこない事から何かを察したかのように、奴隷商の小太りさんが入室してきた。


 ていうかこの人、入ってくるタイミング狙ってたな。

俺の【感知】で近くにいるのバレバレだったぞ、仮にもここの主人ならもっと早く駆けつけて来い。


 だが悔しい事に、タイミング的には確かにベストだ。


「こ、これはこれは、アマイモン様っ! この者が何か粗相を致しましたでしょうか」

「それについてだが──」

「いいえ? このお姉さんは粗相など何もしていませんよ。ちょっとした勘違いと言う奴ですね」


 父さんよりも先に俺がそう言うと、少しだけ場に残っていた怒気が完全に抜けきり、小太りさんの目が一瞬だけ鋭くなった。


「いやはや、成程そうでしたか。ご子息様のご配慮、大変痛み入ります。ですが勘違いとはいえ、アマイモン様に対してこのような態度を取る者をこのままにはしておけませんな。あとで再教育すると致しましょう」

「……はぁ。分かった、もういい。今回は我が息子の慈悲に免じて、許す事にしよう」


 いや、どう考えてもお姉さんは被害者でしょ。

なんで俺が慈悲をかけた事になってるんだ。


 すると、父さんが先ほど言いかけた言葉の続きを発した。


「先ほどの続きだが、……いいかルーケイド、これは人間ではない。こいつらはヒト族と呼ばれる、他大陸の下等種族だ。姿形は私達と似ているが、我々魔族とは全く違う生き物なんだぞ。性格は残忍で非情、同族の仲間ですら金になるなら売りさばくような奴らだ」

「……ん?」


 ……ん?


「ええ、ええ。全く、その通りでございます。ですがこれも商売ゆえ、何卒大目に見ていただけると幸いでございます。こちらも魔王様との正式な契約に基づき、お取引をさせていただいているのですよ」

「……強欲なヒト族共めが」


 ……ん?

……あれ?


「あの、父さん」

「なんだルーケイド。……やはりお前もこの者達を見て、腹が煮えくり返る想いか?」

「いや、僕たちって魔族なの?」

「何を当たり前の事を言っている。誇り高き魔族、つまりは人間に決まっているだろう」

「…………」


 ────エ、エェェエエエッ!!?

俺、魔族かよっ!?

魔族だったのっ!?

というか、それじゃあ他大陸から連れて来た奴隷って、要するに普通の人間って事じゃん!


 そりゃあ他大陸から侵攻があったって言うから、ちょっと仲が悪いのかなーって思ってたけどさ、そんなレベルじゃないよこれ!

種族規模で戦争しちゃってるじゃん!


 せっかく向こうの大陸に行ったら、秘密裏にソウ・サガワさんに会うって決めてたのに、これだと向こうに行った時点で討伐対象じゃん!

なんてこった!


「どうした息子よ、汗が凄いぞ」

「い、いいい、いやっ!? なんでもないですよ!? そ、それより今日はちょっと体調が悪いかなーって……、とりあえず、宿に行きませんか父さん!」

「うむ? まあ、社会見学も一定の成果を見せたようだしな、お前が良いというなら今日はここまでにしよう。……戻るぞ、ディー、サーニャ」


 父さんがそう言うと、まだ何のことかよく分かっていない二人を連れて宿に向かう事に。

出ていく道中、小太りさんがずっとペコペコと謝っていたが、あんた悪くないからね。


 というかこれは由々しき事態だ、ディーとサーニャが他大陸の人間を下等種族とか思う前に、俺がマインドコントロール、……じゃなかった、正しい認識を教えねば。

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