【13話】港町オリュン


 リューズ王国の港町オリュン。

海に面した土地以外の全てが高い城壁に囲われており、外敵から身を守るためというよりは、まるでこの港町に来た存在を逃がさないかのような雰囲気のある、王国屈指の大都市だ。


 しかしその城壁に使われている技術には謎が多く、リューズ王国では見かけない技術体系を使った珍しい作りになっている。

それはオリュン内にある民家も同じで、基本的に家を頑丈な石材で作り、無理やり強度を保っているリューズ王国とは違い、木材などを工夫して作ったか、またはその技術を端々に応用して作ったような一風変わった建物が立ち並ぶ。


 そんな大都市ではあるが、変わっているのは何も建物だけではない。

そこに住まう人々、種族もまたこの王国──いや、この大陸ではあまり見かけないような者達が数多く存在している。

最も多いのがヒトと呼ばれる、何の特徴も持たない人型の種族。

次いで獣の特徴を持った獣人と呼ばれる種族に、闇妖精ダークエルフとよばれる種族と似た、しかしそれよりも肌の白い種族、森妖精エルフと呼ばれる種族がいる。

そして一番少ないのが、土妖精ドワーフと呼ばれる、ガッシリとした体躯の背が低い種族だ。


 だが、一見多種多様な種族が仲良く暮らしているように見えるこの都市だが、実はそんな事はない。

なぜなら、ヒト族も獣人族も森妖精エルフ族も土妖精ドワーフ族も、全て等しく、この都市では人権を持たないからである。

いや、この都市だけではなく、この大陸では全て──。



──☆☆☆──


 はい、着きました。

着きましたよ、街に。

この街の名前も知らないけど、とにかくデカい城壁があるからきっと大都市なんだろう。

そんな予想がつく。


 だけど今肝心なのはそこじゃない、馬車酔いが果てしなくキツいって事だ。

もうだめ、吐きそう、うっぷ……。


「ほら、いつまでも寝てないで起きろルーケイド。街についたぞ」

「はい、いま起きます。……うっぷ」


 父さんの手を取って馬車を降りるも、少し揺らされただけで臨界点を超えそうだ。

幸い、ディーとサーニャが馬車での観光に飽きて寝ているので威厳は損なっていないが、今のこの姿を見られたら笑われてしまいそうだ。

だからこそ、ここはあえて突っ張って行こうと思う。


「ほら、ディーもサーニャもいつまで寝てるんだよ。もう街についたよ」

「……んお? もう着いたか。……ふあぁ」

「むにゃ。ルーくんおはよぅー」

「フッ、お寝坊さん達め」


 さきほど俺が言われたセリフをそのまんま使った。

父さんが白い目でこちらを見ているが、気にしないもんね。

こういうのは見栄が大切なのだ、見栄が。


 そしてしばらく城門の前で待っていると、先に父さんが手続きを済ましていたのか、門の中から何らかの確認を終えた若い兵士と、なにやらベテランっぽい兵士がすっとんで来た。

ずいぶん汗をかいているようだけど、何かあったんだろうか。


「アマイモン卿、先ほどは部下が失礼致しましたっ! 知らずとはいえ、国の四天王である御身の身分を疑うなど、あってはならぬ事を……。おい、お前も謝れっ!」

「す、すみませんでしたっ!」

「いや、いい。既に私は騎士ではなく、ただのヴラー村の村長だ。そのように畏まる必要はないだろう」

「──しかし」

「いいと言っている」

「はっ!」


 兵士さんが二人して、ビシィっという感じに敬礼を取った。

うん、今のでだいたい流れが読めた。

どうやらヴラー村の村長として来た父があまりにも田舎っぽい恰好をしているから、同じ姓を語る時に本人かどうか疑われてしまったのだろう。

例え証拠があったとしても、人間はこうだと思い込んだら譲らないからね。


 だからこそ、今と昔ではギャップがありすぎて気づかなかったに違いない。

受付をしたのも経験の浅い若い兵士だったから、余計にね。


 従士の方達も笑って見ているし、きっと他の街とかでもよくある事なんだろう。

名前が売れるっていうのも大変だね。

彼らの横を通り過ぎる時なんて、足が震えてたよ。


 ちなみに街の中は結構な大都市で、パッと見た感じでもヴラー村とは雲泥の差だなっていうのがすぐ分かった。

まず民家の作り方が全く違うし、あの村と比べてかなり高度な技術が使われている事が容易に分かる。

なんというか、機能美に優れているのだ。

扉にしても、窓にしても、屋根にしても、全てに計算を感じる。

文明度が一気に上がった気分だ。

……うちの村って、やっぱ田舎なんだなぁとつくづく思う。

 

「ふわぁー、すごいねルーくん。人がいっぱいー」

「う、うぉお……、す、すげぇ」


 サーニャとディーの二人も口をあんぐりと開けて放心しているようだ。


「はっはっは! 三人共ここに来るのが初めてだから期待していたが、やはり驚くか。実はな、この都市の建物の殆どは、他大陸から連れて来た生き物の技術を以て作られている。奴らは身体能力も魔力も脆弱な下等種族だが、技術力という面では不思議な事に優秀でな、船で連れて来た使えそうなやつを奴隷として買い取り、ここで働かせているのだ」


 なるほど、そんな種族がいるのか。

でも能力の低さを技術で補うなんて、まるで前世での人間みたいな種族なんだなぁ。

ちょっと親近感沸くかも。


 まあ姿形が人間とは限らないけどね。

父さんの言い方的にそういう感じはしないし。


「……ふむ、そうだな。せっかくだし社会見学と行くか。宿の確保と食料調達は従士達に任せて、私達は奴隷商の所へと行こう」


 おぉ、さっそく気になっている謎生物が見れるらしい。

でも奴隷商って人間以外も扱ってるんだね、知らなかった。

もしかしたら魔物とかも売ってるのかな?

楽しみだ。


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