【12話】初めてのおでかけ
毎日のように訓練をしつつ、たまに新しく生まれた子供達に勉強を教えたり、なんやかんやしながら過ごしていると、父さんが俺を
どうも狩りに連れて行くだけの力量が備わったと認められたらしい。
嬉しい事だ、ディーやサーニャもそのレベルに達しているとかなんとか。
ただ、ここでひとつ問題が発生する。
パトロールに連れて行こうにも、俺達には専用の装備がないのだ。
いままで木剣でずっと訓練してきたし、素振りでは鉄剣を振ってきたことがあるとはいえ、それはあくまでも練習用の鉄剣だ。
刃も潰してあるし、本物ではない。
という訳で、どこかで武器を買い足さなければという事になった。
まあもちろん予備の武器は備蓄として存在する訳だし、ヴラー村へ訪れる行商人に適当な武器を見繕ってもらえばいいのだが、今回はちょっと事情が違う。
ウルベルト父さんの予想に反し、俺達三人の成長が早すぎたのだ。
才能と努力の塊であるグレイグ兄さんですら、狩りに同行できたのは10歳頃だったのに対し、今度は8歳とか9歳だ。
普通は13歳で成人し、武器を持って父さんたちに加わるというのに、こんな子供の体躯に合わせた武器など行商人が用意している訳がない。
備蓄にしても同様である。
という訳で、成人するまで使い続けるであろう専用装備を、街へと買い出しに行こうという話になったのだった。
ヴラー村にも鍛冶屋がいるにはいるが、農具や家具を専門に扱っているだけで、せいぜいやれて武器の整備くらいだったりする。
なので今回は父さんと最低限の従者数名を引き連れ、あとは村の防衛のために全員残して出発することになった。
父さんが居なくなるのがちょっと心配な気もしたけど、そういえばグレイグ兄さんがいたなと思い返し、無用な心配だという事に気が付いた。
既に兄さんは村の戦士ナンバー2の実力者であり、チート四天王の父さんに1割程度ではあるが勝利するだけの力を持っているのだ。
それこそ、そこら辺にいる魔物や野盗に負ける道理はない、相手にもならないだろう。
「では、行ってきます兄さん、母さん」
「うん、気を付け行っておいでルー。まあ、父さんがいるのだから危険なんてないと思うけどね」
「行ってらっしゃいルーケイド。ああ、でも寂しいわ。二週間も離ればなれなんて……」
うん、兄さんも母さんも過保護でなによりだ、いつも通りで安心する。
街までの道中、基本は馬車で向かうのだが、予定にある二週間のうちのほとんどが滞在期間で、移動なんて一日くらいだと思われる。
これは街が近いとかそういう理由ではなく、馬が速すぎるのだ。
この世界の馬を地球の馬と比べてはいけない。
頭に角は生えてるわ、足が8本あるわで、もう魔物なのか馬なのかよくわからない生物が移動手段。
体力ならびに速度が高いのはもちろんの事、下級の魔物ならそのまま轢き殺す戦闘力という感じで、もう戦車なんじゃないかと思ってる。
──という訳で、出発だ。
──☆☆☆──
「うぉおおおスゲーぞルー! またゴブリンが轢き殺された! ははは、ばっかでー!」
「はぁー。馬鹿はディーも一緒じゃないー、その台詞何回目よー。ルーくんなんてずっと静かにしてるのにー」
「……うっぷ」
現在、ものすごい速度で馬車が進行中。
そしてその速度のせいで馬車が大きく揺れ、俺の馬車酔いも進行中。
しかも外では街道に出て来たゴブリンがミンチになっているため、余計に吐きそう。
一言もしゃべる余裕がない。
「いや、これ体調崩してるだけじゃないか?」
「分かってないわねー。ルーくんに限ってそんな事ある訳ないじゃないー。だってルーくんなのよー?」
「うーん。そうかぁ?」
「そうなのよー」
「まあ、サーニャが言うならそうなのかもな」
いや、体調崩してるだけです。
父さんも苦笑いしてるよ。
というか彼女の謎の信頼はなんなのだろうか、8歳児の体力を妄信しすぎでは。
むしろディーとサーニャが平然としているのが信じられない、慣れすぎだろ。
どうなってるんだいったい。
だけどここで吐いたらめちゃくちゃカッコ悪いし、意地でも我慢する事にする。
早く慣れろ、俺。
ちなみに街で買う武器は体格の問題もあってオーダーメイドとなるために、一から作り上げる事になる。
この歳で装備を調達するのはかなり例外でもあるので、ディーとサーニャの資金はウチが持つことになるが、それでもあまり使い捨てになるような装備は買わないとの事だ。
命を預ける物でもあるので、しっかりしたものを揃えるらしい。
俺とディーの場合は剣、サーニャの場合は魔法の発動媒体と防具になる。
もちろんウチが出した装備分は狩りなどで返してもらう事になるのだが、なんとも太っ腹な父だ。
まあ、元上位の騎士ってこともあって、蓄えはそれなりにあるんだろうけどね。
余談だが、兄さんは成人祝いで父さんのソードコレクションから、魔剣を一振り譲ってもらっている。
なんでも自動修復持ちの大剣だとかなんとか。
うらやましい。
それから地獄の馬車酔いに堪えること数時間、ようやく街へと辿り着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます