【11話】8歳になりました(2)
この5年間に関して、とりあえず俺の近況はこんな感じだけど、他にも色々と周りでは変化が起きている。
まず最初に、グレイグ兄さんが2年前に成人した。
でもって、超強くなった、頭おかしいくらいに。
15歳になったグレイグ兄さんだが、いまのその実力は父さんと10回戦って1回は一本とれるとかいう、超人の領域に片足突っ込んだ存在と化している。
戦闘スタイルは父さんと同じなんだけど、爆発力が全く違うのだ。
今は父さんが経験と知識、安定した身体能力で勝ち越しているが、それもあと何年もつか分からない。
兄さんと父さんの大きな違いはその魔力量。
そう、母さんの血である。
血の繋がった親子なんだし、同じ身体能力の素質をもつ兄さんと父さんだが、母さんの血が入っている分魔力量の多い兄さんが実は有利。
魔力での強化の練度に圧倒的な開きがあれば別だけど、どこでどういう修行をしたのか、兄さんは魔力を一気に消費して【身体強化】の強度を数段あげる強引な技術を会得していた。
であるならば、総合量の多い兄さんが一瞬だけ爆発的に強くなり、相手の不意をつくことも不可能ではない。
そういった意味で、10回に1回は勝ちを拾えるような戦いが可能になったのだ。
あの二人の戦いを間近でみたら本当にビックリするね、あれ。
もはや人間の動きじゃないよ、勝てる気がしないよ。
で、次にサーニャ。
サーニャは詠唱に長けた純粋な魔法使いで、俺の超えられなかった音楽という壁をいとも簡単に飛び越してしまった。
くやしい。
彼女は主に闇属性を中心とした回復魔法が得意で、適正のある属性も闇と水だけだったから、おそらくこの二つの魔法を極めていく事になると思う。
闇の回復魔法ってなんだよって思ったけど、光属性で回復する種族と闇属性で回復する種族がいるとのこと。
また、3歳の頃からの習性であるマーキング行為だが、あれは最近はなりを潜め、人前ではやらなくなってきたようである。
そう、人前では。
気の許した相手、例えばディーとか俺の前だと、普通に魔力吸ってくる。
そろそろ美少女っていう感じに見えるお年頃なので、俺の精神衛生的にもやめてもらいたいのだが、やめるは気配ない。
無念である。
で、最後にディー。
ディーは強い、純粋なパワーではあのウルベルト父さんとベルニーニ母さんの血を引いている俺よりも、強い。
戦闘において、器用と力に割り振った
にも関わらず、同じ【身体強化】を発動した俺にパワーで競り勝つんだから、こいつ種族違うんじゃないのかと思った事も一度や二度ではない。
【身体強化】の練度も、魔力量も俺が上、でもパワーで勝てない。
そんな奴である。
その上そこそこ器用なもんだから、手に負えないのだ。
まあ、魔法は全く使えないみたいだけどね。
なんでも、彼が4歳の頃に誓った
頑張れとしか言えない。
もし親友の妄想が本当に現実味を帯びて来たら、俺はある意味本気でこいつを尊敬するかもしれない。
とまあ、そんな感じで毎日模擬戦やら訓練やら試行錯誤していた訳だけど、実際にディーと戦闘して負けた事は一度もない。
まあそりゃあこっちには
「だあああああっ! また負けたぁっ! くそ、完敗だっ!」
「お疲れディー、今日はいつもより気合入ってたね。あと、最後のは惜しかったんじゃないかな? ギリギリで躱したから勝てたけど」
「いや
どこか嬉しそうに、ディーは今回も負けを認めた。
というか、魔法に関してはまだ動きが遅すぎて実戦投入できないだけだし、そもそも木剣での訓練に攻撃魔法を使う馬鹿はいない。
あぶないだろ。
「また明日勝負しろよ」
「まかせろ。まあ、そのための訓練だからね」
「はいはーい! それじゃ、私の回復魔法をかけるよー」
このディーとの稽古は訓練中一回という制約がある。
以前、お互いに負けたくなくて歯止めが効かず、もはや訓練じゃなくて喧嘩みたいになって取っ組み合いになったからだ。
なので一本取ったらその日は終わりっていう、俺達の不可侵条約みたいなのができた。
あの時はまだ技術も未熟で、一本取るというのが曖昧な形だったからそうなっただけなんだけど、数年経ったいまでもその条約は破られていない。
どちらかが一本取ったら終わり、それがその日の結果だ。
ちなみに、当たり前だが俺もディーも父さんどころかグレイグ兄さんには勝てない。
8歳と15歳の壁は大きいのである。
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