【10話】8歳になりました(1)
ヴラー開拓村の村長宅、アマイモン家には今日も訓練の音が響き渡る。
ある者は巨大なバスターソードの素振り一つで轟音を響かせ、それに釣られるように真剣を持った者達が自らに課した訓練を行う。
またそれには劣るが、小さな体躯の者達も手に木剣を持ち、お互いに刃と刃を打ち据え訓練に参加していた。
「おいルー! 今日こそお前に勝つ! 勝負しろ」
「いいよ、僕もちょうど準備運動が終わったところだ」
小さな体躯の者達の中でもひと際大きな木剣を持つ褐色肌の少年と、その傍でずっと腕立て伏せを繰り返していた銀髪の少年が言葉を交わす。
どうやら彼らは、これから試合をするらしい。
「あーもう、いつまで経ってもディーは子供ねー。ルーくんを見習いなさいよ、あんたよりずっと冷静よー」
「うっ、うるさいぞサーニャ!
「はぁー。これは今日も駄目ねぇ……。まあ治療はしてあげるから、コテンパンにやられてきなさいー」
サーニャと呼ばれた少女は二人がお互いに向かい合うと、魔力を高め始めた。
言葉から察するに、どうやら彼女は回復魔法の使い手らしい。
そして褐色肌の少年は大型の木剣、銀髪の青年は中型の木剣を二本持ち、二人の少年はお互いに武器を構え、ニヤリと笑い合う。
「準備はいいか……。なんて、お前には愚問だったな」
「ああ、いつでも来てくれて構わないよ」
「それじゃ、行くぜっ!!」
──勝負が始まった。
──☆☆☆──
どうも、ルーケイド・アマイモン、8歳です。
そうです、ついに8歳になりました。
この5年間で変わった事というと、主に俺の体が幼児から少年になるにつれ、体格が良くなった所が大きいと思う。
何をするにも、どう行動するにもやっぱり体格というのは重要で、いくらチート種族とはいえ3歳児では色々と問題のあった行動も、8歳ともなると許される事が多くなってくる。
少年基準で見てガッシリとした体格というよりは、ほどほどに肉付きのいい、細く締まった体という方がしっくりくるかな。
それは親友であるディーの方にも言える事だけどね。
5歳の時から始めた剣術の訓練と魔法の訓練、俺はそのどちらにも参加していて、剣術では二刀流を使う事が多い。
もちろん前世で言うところの厨二病が発症したとかそういう理由ではない、単純に俺の
俺の
その特性を生かし、二本持った剣そのものに【身体強化】を施し、【念力】であらかじめ決められた動きを設定し、自動制御する事によって、普通では考えられない、器用で緻密な操作が可能になったのだ。
だからこそ、二刀流が現実味を帯びてくる。
【感知】で相手の重心移動や動きを読み取り、先読みし、【念力】で相手に合わせた、決められた型を発動する感じ。
もちろん普通に剣を振り回して戦ったりもするけどね。
ただこれがクセもので、型として設定し訓練されている【念力】の動きは異常なスピードと技のキレがあるんだけど、文字通り決まった動きしかできない。
だから何度も戦ってる相手には当然こちらがどう動くかも分かるし、隙になることもしばしばといった感じだ。
一長一短っていうやつだね。
でも、扱いの難しい二刀流に関して、俺以上に適正のある奴はまだ見た事がないので、そこそこ強いんだろう。
で、次は魔法だけど、魔法の訓練の方は少し難航している。
もちろんベルニーニ母さんから受け継いだ魔力量と、ずっと鍛えて来た魔量制御のレベルはダントツで高いんだけど、詠唱がどうにもよくわからないんだ。
詠唱というか、発音。
詠唱は綺麗に、正確に発音しないと魔法言語として成り立たないらしいのだが、俺には間違った発音と正しい発音の聞き分けができない。
つまり、音楽の才能がなかったりする。
で、行き詰った俺が出した結論が、魔法陣だ。
ただこっちは詠唱に比べて魔法発動までのプロセスが面倒くさくて、かなり長い。
幸い、魔力を絵具として見立てて、空中に魔法陣を描くっていう技術の会得には適正があったんだけど、戦闘中に絵なんか描く暇がないってのが正直なところ。
これは本来、魔道具なんかを開発する技術者が会得する技術なので、戦闘向きではないのだ。
発動した時の威力は同じくらいだし、魔法陣の方が魔力のロスも少ない事から、使いこなせれば良い武器にはなるんだけどね。
その使いこなすっていう道のりが長いだけで。
まあ、魔法に関しては目下修行中という訳だ。
ちなみに魔法には火水土風の4属性に、光闇無の3属性を加えた7属性がある。
それぞれに、戦闘用としてある程度決まった型であるボール系や、ランス系、ウォール系など難易度順に戦える幅が広がっていく訳だけど、厳密にそれしかできないという訳でもない。
ただ、魔法の開発はそれ相応に労力がいるし、戦闘用として最適化されたものを使うのが近道というのは間違いない。
なぜなら同じボール系でも、超天才が考えた作り立てのファイアーボールの魔方式より、長年研究し無駄をなくした凡才のファイアーボールの方が強いからだ。
ようするに、そういう事である。
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