【5話】アマイモン家の日常2
散歩から帰ってきた。
「たーだーいーまー」
「おかえり、ルーが遅くまで散歩だなんて珍しいね。あっ! もしかして彼女でもできたかい?」
「違うよ兄さん、考え事してたんだ」
「……フフ、やはり恋の病か。しかし我が弟の事だ、応援しよう。相手はどの娘だい?」
だめだ、グレイグ兄さんが全くトンチンカンな方向に暴走してしまった。
たまにあるんだけど、こうなった兄さんは手に負えない、普段純粋な分だけ、真っすぐすぎるのだ。
こうと決めたら一直線で、良い意味でも悪い意味でも思い込みが強い。
適当にはぐらかすしかないだろう。
「まあ、その話はまたこんどね」
「そうか、やはりこういう事は自分の力で思いを告げる、か。それもまたルーの選択だろう。影ながら応援しているよ」
「そのときはよろしく頼むよ」
そのときが何時なのかはさておき。
「それで、父さんと母さんはどこかな? ビッグニュースがあるんだ」
「何、やっぱり言うのかいっ!? 父さんと母さんには言えて僕には言えないのかいルーッ!? 兄さんは、……兄さんは悲しいよっ!」
「あ、うん。とりあえず全員そろってから話すかな」
埒があかないので、とりあえずみんなを呼んでみる事にした。
ウルベルト父さんは結構忙しいので、まあ母さんと兄さんにだけお披露目できたら嬉しいかなって思ってる。
魔物退治とかに定期的に出かける事もあるし、家に居ても書類仕事があるからね。
そしてドタドタと兄さんが呼びにいくのと同時に、俺はリビングへと赴いた。
すると、二階の方で父さんの怒声ような大声が聞こえて来た。
「何ィ!? ルーケイドに好きな娘が出来ただと!? 私の可愛い息子を誑かすとは、どこの家の娘だグレイグ!!」
「落ち着いてください父さん、それはルーに聞いてみないと分かりません。冷静にならねば恥をかくのは弟です!」
「ぐっ、わかった……」
いや、何も分かってないような。
というか何を言っているんだ兄さん、そして何で激昂するんだ父さん、過保護すぎる。
普通は娘に変な虫がついた時に言うセリフだろそれは。
そんな思いに頭を悩ませていると、まず母さんがすっ飛んできた。
すっ飛んできた母さんは能面のような表情のない顔でスッと向かいの椅子に座ると、光の灯ってない瞳でジっとこちらをみつめる。
……怖いよベルニーニ母さん。
さらにしばらくすると、ドシン、ドシン、という地響きを建てながら父さんと兄さんが降りて来た。
まるで戦場に行くかのような気配を漂わせている。
……なぜこうなった。
ウルベルト父さんが母さんの隣に座り、兄さんが俺の隣に座る。
父さんと母さん対、兄さんと俺の構図だ。
全員が揃うと同時に、父さんと母さんが同時に口を開く。
「「──話しなさい」」
「ひっ……」
こ、怖わい、怖すぎる。
これで実は魔法を覚えましたっていったらどうなるんだろうね。
……まあ、言うしかないんだけど。
あと、兄さんも両親をそんな目で睨まないで、あくまでも俺の味方であり、弟の選んだ娘にケチなどつけさせないとでも言いたげな表情だ。
戦争が始まるぞこれは。
俺は喉がカラカラになりながら、声が震えつつも言葉を絞りだした。
「じ、実は──、あ、新しい魔法を習得しました。……それを父さんと母さん、兄さんに見せようと思って、あ、うん」
────ザワッ!!
俺の発言に父さんはビクリと肩を震わせ、能面のような表情の母さんは目を見開き、兄さんは勢いよく立ち上がった。
いったい何が起こっているんだ。
「「「────素晴らしい!!」」」
「……はっ?」
「素晴らしいぞ我が息子、ルーケイド、いや、我が息子よ! それに父さんは信じていたぞ、お前に好きな娘などまだ時期尚早だとなっ! はっはっはっは!」
「凄いわルーケイド! そして母さんも信じていたわ、私の可愛い息子が誑かされたなんて嘘だってね!」
「凄いじゃないかルー! 兄さんは、兄さんは誇らしいよっ!! ……うぉおおぉおっ!!」
さっきまでの地獄絵図は一転し、盛大な祝い事のような雰囲気になりはじめた。
それに父さん我が息子二回言ってるし、動揺しすぎだって……。
まだ新しい魔法を見せてもないんだけど。
しかもその魔法、水滴動かすレベルの魔法ですよ。
しょぼいよ。
「それで、どんな魔法なのかしら? まだ魔力適正も調査してないし、魔法陣も詠唱も教えてないわよね?」
「ふむ、それは私も気になるな。ルーケイドはベルの血を濃く受け継いでいる以上、適正がある事は揺ぎ無いだろうが、独学となるとな」
ベルとはベルニーニ母さんの愛称である。
まあ、あの魔法は今の段階だと水滴がないと始まらないので、とりあえず水を用意しよう。
「物を動かす魔法だよ。とりあえず適当なものとして、水滴がいいかなって思うんだけど……」
そう言うや否や、兄が訓練でも見せた事のないスピードで外へ飛び出し、水溜め場から少量の水を運んできた。
コップには水が半分ほど注がれている。
「……これだね?」
「……それだよ」
「でかしたぞグレイグ」
「フッ、当然だよ父さん」
水滴にでかしたも何もあるんだろうか。
疑問は尽きない。
「それじゃ、今から少量の水を動かします。覚えたててで魔力制御が甘いので、少し時間がかかるかもしれないけど……」
とりあえず説明はしたので、ぐむむっと周りについた水滴に魔力を集め出す。
それを見て、最初に反応したのは母さんだった。
「……確かに外部へ魔力を放出できているわ。それも3歳でなんて、末恐ろしい才能ね」
「ベル、お前が言うならばそうなのだろう。それで、属性はなんだ?」
「まだ分からないわ。……今のところ無属性のようにも見えるけど、魔法の構築は見当たらない」
……母さんは属性の感知までできるのか、すごいや。
それから数秒後、魔力の充電が終わった水滴が徐々に動き出し、他の水滴と合体しながらウネウネとコップの周りを彷徨い始めた。
うわぁ、こうしてみるとなんか気持ち悪い動きだ。
完全に物法則に逆らっている、主に重力とかそういうのに。
「なっ、なんだこれはっ!? 水魔法かっ!?」
「えっ、ウソッ!? いえ、水属性の魔力は感知できないっ! それに魔法の構築も……。まさか、
「
えっと、ユニークスキルってなんですかね。
なにそれ、なんか凄いやつなのかな?
いや、わからないけど。
魔法講義受けた時に魔法を使った特殊能力を持つ存在もいるって聞いたことあるけど、それかな?
いや、ないない。
だってこれ【身体強化】だし……。
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