【4話】念力の習得
3歳のある日、いつものように日課の筋トレを終えた俺はヴラー村を散歩する事にした。
村長の子供とはいえ、ここはまだまだ小さな開拓村。
村人の人数が200人いってない程度であるが故に、全員が顔見知りなのだ。
この村にいる限り危ない事などなにもないからこそ、出歩ける。
でもって、この散歩には目的がある、魔法の研究だ。
地球になかった魔法という概念に、俺はかなり興味を引かれていた。
ちなみに、いままで教えてもらっていた【身体強化】というのは基本中の基本であり、魔力制御さえできれば、肉体を制御するような感覚で誰でもできるし、優れた戦士とかなら無意識にやっていたりするレベルである。
まだまだ魔法とは言えない領域なのだ。
他国にはこれすらできない者も多くいるようだけど、まあ、当然ウルベルト父さんもグレイグ兄さんもできる。
だって戦士の基本だもの。
さて、問題はここからだ。
魔法を使うにはさらにここから、
これがクセものなのだ。
自分の外に魔力を放出できるか否か、それで魔法使いになれるかどうかの命運が分かれるといってもいい。
俺が研究したいのもそこだ。
こればっかりは母さんの手助けでも練習する方法がなく、センスが問われるらしい。
自分なりに影で自主練とかもしてみたのだが、ウンともスンとも言わず、無理だった。
ではどうすれば良いのかと自分なりに考えたあげく、出した結論が……。
「ま、体内の魔力が外に出ないなら、とりあえず魔力を含んだ体の一部を体外に放出しよう」
という発想だった。
もちろん内蔵とかを飛び出す訳じゃない、そんな事したら死ぬ。
では何を放出するかというと、それは血液だ。
魔力循環中の血液を放出し、意図的にその血液に魔力を流し続けたまま体外で動かすことで、魔力が体外で作用するという認識を確かめることにしたのだ。
だが、この作戦には大きな欠陥がある。
そう、家の誰もが3歳の俺がケガをする事を認めてくれないだろうと言う事だ。
まあ、そりゃそうだ。
と言う訳で、隠れてやるために外に出る事にしたという訳である。
「ふんふんふ~ん。完璧な作戦だ」
そして適当に家から離れ、民家の影になっている空き地までやってきた俺は、さっそく作業に取り掛かることにした。
さっそく手ごろな尖った小石を自分の親指にあて、チクッとな。
……すると、小さな傷から血液がつぷっと膨らみながら出て来た。
ちょっと手加減しすぎたかもしれないが、まあ痛いのは嫌だからこれで練習しよう。
「さて、では実験。魔力操作を切らずに流れ出た血液、そして細胞に、魔力の繋がりを意識させたまま制御すると……」
結果、血液がちょっとだけ震えた。
震えたが、あまりにも微々たる変化だ、風のせいともいえなくもない。
せっかくなので、どの程度震わせる事ができるのか、魔力の注入量を増やして実験を持続する事にする。
それからしばらく魔力制御を意識しながら魔力を注いでいると、変化がおきた。
なんと注いだ魔力が一定ラインを超えたあたりで、血液の操作が驚くほど簡単になったのである。
意識すると上下左右に血液のつぶが移動した。
……どういう事だろうか?
おそらくだが、血液に魔力を高密度で注いだ事により、血液のつぶ自体に【身体強化】が掛かったのだと思われる。
【身体強化】とは魔力で自分の動きを強化する事ができる魔法、つまり魔法で大きさや質量のない疑似筋肉を作り出している訳だ。
と、考えると【身体強化】の本質は、地球の概念で言うサイコキネシスや念力のようなものだと言えなくもない。
つまり物体操作能力だ。
今回もその例に当てはまり、血液がまだ体と繋がっていた段階で魔力を注ぐ事ができたおかげで、体から血液が離れても魔力の流れが繋がったままあり、自由自在に動かせるようになったのだと推測する。
と言う訳で、これで魔力を体外で意識する壁は乗り越えた。
いつも以上に魔力を消費した気がしなくもないので、体から離れた物体に【身体強化】をかけるには、まだまだ制御力が足りないということだろう。
魔力的なロスがある。
ここまでやって気づいたのだが、なぜこれほど簡単な事を他の人間種ができないのだろうと考えた。
まあ魔法陣とか詠唱魔法とかいうのはまだ原理が分からないので何とも言えないけど、外部への身体強化、……この際【念力】と呼ぶ事にするが、これができない理由は三つほどあるのではないかと考えた。
一つめに、まず魔力量が足りない。
これはこの国の魔法使いのレベルが高い中でもさらにトップクラスの母やその血を受け継いだ俺だからできたのではないかと言う事。
あんな小粒な血を動かすのにだってかなりの魔力が消費されたし、魔力が多い俺ですらこうなのだ。
他の子供に真似できるとは思えないし、大人でも魔法の訓練を受けたものでなければ厳しいだろう。
二つめに、【念力】という概念がない。
俺は地球の知識とかでよく魔法のフィックションを見ているし、「もしかしたら念力っぽくなる」っていう発想がそもそもあったけど、その概念がない相手では最初からやろうとは思わないだろう。
よしんば自分の魔力が大量に含まれた血があったとしても、それは出た血液と自分の中の血液が繋がっていていなければ魔力を注入することはできない。
もしできるなら、それは既に外部への魔力操作を可能としている、その段階を既に踏み越えた認識をもっている者だけだ。
三つめに、体質。
俺は確かに血液操作に成功したが、果たして他の人種でも全く同じ事ができるだろうか。
血液がない人種だっているし、レイス系だとか。
俺がたまたま血液に対して親和性の高い種族だっただけかもしれない、という仮説が成り立つ。
この辺は後で母さんに聞いてみようと思う。
「さて、とりあえず実験は終わりだ。帰ったらみんなを驚かせてあげよう」
【念力】という概念をマスターした事により、既に豆粒ほどの物体なら転がすことぐらいならできるようになった。
最初は難易度低めで、水滴操作とかやってみたら驚くかもしれないな。
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