第10話 幕間―短剣の姫様

むかぁし むかし

短剣の家が その名でよばれるようになる前の おはなし

とおいとおい 海の向こうから ひとりのひめさまが この村においでなさった

いつも ひとふりの短剣を もっていたので

みなは 「短剣のひめさま」 と そのお方をよんだ

短剣のひめさまは うつくしく かしこかったので 

むかえた長者は たいそう よろこんだそうな


短剣のひめさまは ふしぎなお方だった

短剣のひめさまは 日がのぼる前から がけの上にたって

ひがないちにち 海を見つづける

そうすると

その日はきまって あみが重みでやぶれるほど たくさんの魚が とれるのだった

そうして 長者の家は ますます さかえに さかえたそうな


ところが ある日 だれかが こういった


「ひめさまが海を見るのは 海のむこうの 好いた男を見ているのでは?」


これをきいた長者は いかりくるい 

ひめさまを 倉にとじこめ 海を見ることを きんじたそうな


かわいそうな ひめさま

ほどなくして はかなくなってしまった


むらびとはみな ないて かなしんだが

しっとぶかい長者は ひめさまを 海へかえさず

海からとおい おやまに ひめさまのはかを作り うめてしまった


すると たちまち そらはくもり

海のそこから なきさけぶこえが とどろいた


「なんというむごいしうちを してくれたのだ

 これよりさき なんじらのあみは やぶれ すなどる日は こないだろう!」


その日より 海神さまの おいかりを かった 短剣の家は 

あみをはっても さかなはとれず

海にもぐっても かいはひろえず

みるみるまに おちぶれてしまったそうな


今でも お山に ひとつだけ おはかがあるだろう

あれは 短剣のひめさまの おはかだ

こいしい人と ひきさかれ うみを見ることも きんじられた

かしこく うつくしく かなしいひめさまの おはかだ


だから みつけたら けっして いたずらしちゃあ いけないよ



(いかづちの者の村に伝わる昔話より)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る