職場でのこと その4
警備の仕事を始めてから、いろいろなことが起きました。
柔道始めた途端になんとローンが組めて家を買えて引っ越しが決まったり、自衛消防の資格試験に合格したり、夫婦でiPhone3GSを買ったり、東日本大震災が起きたり、2人目が産まれたり。
で、その後に正社員試験に受かりました。
普通順序が逆ですよね。正社員になってから結婚とか出産とか住宅購入とか。
ホントこれまで人生見切り発車ばかりです。誰のお手本にならない事ばかりやってます。
さて、2008年の1月に警備の仕事を始めてからずっと、新宿区某所のビル勤務が続いていましたが、ついに転勤する時がやってきました。8年間も同じビルの警備を続けてきました。建物にも街にも愛着はありますが、辞令ですから仕方ありません。
2016年11月30日、最後の泊まり勤務の日です。夜勤が明けたら8年間世話になった職場から完全撤収しなくてはならないので、通常業務をしながら私物をまとめる作業も行ってました。
夜19時近くだったでしょうか。友人「Y」からiPhoneにLINEのメッセージが飛んできました。
「市原先生がそっちに電話します」
驚く間も無くiPhoneの着信が響きます。
慌てて通話モードにしてiPhoneを耳にあてると、馴染みのある声がスピーカーから響きます。声聞くだけで身体が勝手に気をつけの姿勢になってしまう。
iPhoneの向こうの吠え声を聞くと、どうやら「Y」が市原先生に、うっかり例年通りにお歳暮を送ってしまったらしい事が解る。毎年送っていたお中元お歳暮を、市原先生は「もう送ってくるな」と断ったのだが、にも関わらずお歳暮が送られてきたので「Y」に電話してひとしきり怒鳴った挙句、「そういえばアイツどうしてる」「押忍、まだ同じ場所で勤務してます」となって、矛先がこちらに向いたらしい。
お金払って怒鳴られるとは「Y」も災難だなあ、と思っても絶対言えない。
で、市原先生のこちらへの用件はというと、古いパソコンを処分するにはどうすればいいのか教えろ、と言う内容でした。
パソコンは粗大ゴミ扱いは出来ないので、専門の回収業者か信用できるパソコン販売店に下取りに出すのが一番簡単かもしれないですよと伝えました。
パソコンの処分の仕方を警備員がNTT職員(定年迎えて契約社員)に教えるというのは、考えてみるとおかしな構図ですが、その時は緊張から全く気づきませんでした。それより私には先生に伝えるべきことがありました。
「実は今日、ここの職場、最後なんです、転勤します」「そうか、次はどこなんだ?」
私は転勤先のビル名を告げます。先生はそのビルをよくご存知で「いっぱい(警備員が)立ってるあそこか。あそこは大変だぞ」と。
まあ、自分で言うのもアレですが、ワタクシこのビルでは仕事のできる警備員でしたので、大丈夫ですよと軽く返事しました。
市原先生の元気そうな声を久しぶりに聞き、緊張しつつも安心して、通話を終えてから二重の意味で
その時ようやく、この職場の初日と最終日に市原先生と関係を結んだ事に気付きました。驚きのあまり一人笑ってしまいます。
配属初日に市原先生とここで出会い、最終日にここで声を聞く。どうしたって運命的なものを感じてしまいます。
そして、この通話が、市原先生との最後の会話になりました。
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