40年ぶりに判明したこと

 今回は少し脱線します。

 警備の仕事をしてから、長年の疑問が1つ解決した事を書きます。

 私が20歳まで虚弱体質だったのには理由がありました。

 私は生まれてすぐに新生児黄疸しんせいじおうだんになり全身輸血したのだそうです。繰り返し母から聞かされました。そのためか、とにかく病弱で、医者からは「この子は20歳まで生きられないかもしれない」とまで言われたそうです。そのため「あたしゃホントせる思いだったよ」のセリフも母から繰り返し聞かされましたが、母が私より体重が下になるのは私が30過ぎてからでした。

 それはともかく、自分が子供を持つ身になって気づきますが、新生児黄疸は全身輸血するような大病ではないのです。どうせあの母のことだから、病名を間違って覚えてたんだろなとは思ったのですが、じゃあ本当の病名は何だったんだろうなと疑問がわきます。調べるといっても、誰にけばいいのやら……。

 あ、私が産まれた病院、まだ存在してるぞ! しかも職場に近い!

 思い立ったが吉日、その時は夜勤明けの朝でしたが、その後用事は特に無かったのですぐに病院に向かいました。

 新宿区内にある総合病院。大学卒業まで通院や入院で何度も何度もお世話になった場所です。親の扶養ふようを抜けてからはじめて、20年ぶりにやってきました。

 しかし40年前のカルテですから無くて当然。ダメ元で受付にて要件を伝えます。自分の本当の病名が知りたいというこちらの事情と、私の生年月日と母の名前も告げました。

 ロビーで待たされること20分ほど。名前を呼ばれて診察室に向かう。なんと40年前のカルテが見つかったらしい。

 診察室では、神妙な表情をした医師が1枚の変色した紙を手にしている。え? 俺の病気そんなに悪かったの?

 医師は看護師(当時は看護婦で問題なかったなあ)に、手にしていた紙を渡し、コピーするように伝えた。

 医師は私に椅子に座るようにうながしてから、念のために私の母親の名前を訊いてきた。通常は患者本人の名前を確認するわけだが今回は特殊。

 医師は一旦外した眼鏡をかけ直しながら、慎重に口を開いた。

「そうですねえ、どこから説明したものか……どこまでご存知ですか?」

 え? 俺ひょっとして不治の病?

 この時体調のモニターをしていたら、心拍数がね上がったのが間違いなく確認できたと思う。

 しどろもどろになりながら、自分が生後すぐに全身輸血したらしいこと、その原因は新生児黄疸だと親から聞いていたこと、新生児黄疸で全身輸血は有り得ないと気づいたこと、本来の理由を知らないと女房子供がいる現在不安であり病気ならとるべき今後の予防策を知る必要があること、これらをなんとか伝えた。

 看護師が持ってきたコピーを医師が受け取る。医師は中身を確認してこちらにコピーを手渡す。

 おそらくはボールペンで書いたらしい専門用語を含めた状況説明のメモがあった。慶応病院に緊急搬送される新生児とその母体についての内容。慶応病院への報告も兼ねた説明書のようだ。医師からの説明を聞きながら、読み取れる内容を咀嚼そしゃくしていったのだが……。


「え! 母ちゃんRhマイナスなの!」


 40歳の男とは思えない頓狂とんきょうな叫び声を上げてしまった。

 だってだって、大学卒業して家を出るまで毎日顔合わせていた母親だが、こんなこと聞いた事ないぞ! Rhマイナスなんてブラックジャックで散々読んだネタだが、まさか身近にいたとは!


 医師の説明によると、母親がRhマイナスで赤ん坊がプラスの時にRh不適合の反応が発生するそうで、黄疸はその結果なのだそうだ。

 自分と母親の事なのに、初めて知る事実。

「慶応病院でも初めての事例だったそうですね」

 ショックで脳がしびれたままの私に、医師は言った。

 そういえば、「緊急輸血だったから看護婦さんたちからも血をもらったんだよ」と母親は言ってたな。慶応病院の若い看護婦さんの血が自分の身体に流れていると考えると、少し愉快な気分になる。

「古い資料は廃棄が決定していて、来週月曜には業者が引き取りにくる予定でしたから、ギリギリ間に合いましたね」

 これまた驚いた! 夜勤明けに突如思いついた事を即座に実行しただけだったが、この日は水曜か木曜だったので本当にギリギリだったわけだ。


 私は医師や看護師さんたちに何度も礼を言って退出した。

 病院の建物を出て、あらためて周りを見る。出た病院のすぐ目の前に慶応病院がある。一度も行った事が無いと思っていたが、まさかこんな形でお世話になっていたとは。


 ここは信濃町。国際松濤館総本部があった四谷の隣。私が生まれてからずっと世話になってきた病院は東京電力病院。この翌年の東日本大震災の後、閉鎖が決定されました。

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