職場でのこと

 職場篇に戻ります。


 職場で会う市原先生は、サラリーマンのフリをしている反社会的勢力の人という趣きがありまして、黙っていてもなかなか緊張感があります。

 職場の食堂でたまたま会ったりした時など、テーブルまで挨拶あいさつに行くべきか否かちょっと判断に迷ったりしました。でも視線だけで「オウ! 頑張ってるか?」「押忍!」と無言のやり取りをするくらいで済む事も多く、一応は一般社会のルール内の対応で問題ありませんでした。

 私の表現が大袈裟だなあと思う人は、大型の肉食獣と狭い部屋に一緒にいる場合を想定してください。想像できました? 緊張感ありますよね?

 では続きます。


 ある時、職場のビルのエントランスでNTTの制服姿の市原先生と出会って、いつものように気合い入れた挨拶を交わした時、市原先生の視線が私の頭の先から足元までスキャンしたのを確認しました。何気なく行った動作とは思いますが、でもあれは間違いなく「身長と体格から割り出される戦闘能力」を瞬間的に測定したのだと思います。日頃から、目の前の相手がどれだけなまけているか、きたえているか、間合いをとるべきか否かを瞬時に判断している職業的習性なのでしょう。ドラゴンボールのスカウターの機能が天然で備わっていると思われます。

 まあ、着てる服とか身につけている物とかで一般人も多少は相手を無意識のうちにランク付けしてるわけで、それに比べりゃ生き物としてよりプリミティブで健全かなあ、とか考えているうちに、とんでもないことに気づいて目を疑う!

 え? 市原先生俺より背低いの?!

 エントランスの壁面のタイルを目印にして彼我の身長差を再確認。

 目の錯覚ではない事はわかったが、しかしにわかには信じがたいことだった。

 だって何年も何年も拳が届く距離で先生の顔を見ていたのに、この時まで全く気づかなかったんだから! 常に自分より物理的に巨大な存在だと思い込んでいた。


 これはアレだ。「北斗の拳」で闘気を放出すると巨大化して見えるあの現象だ。闘気は実在したのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る