柔道を始めたこと その3

 柔道篇、これで最後になります。


 道場ではこちらが思ってもみなかった事で周りに驚かれることがありました。

 その最たるものが、私の脚を皆が痛がる点です。

 一度乱取り稽古の時に、刈りにきた相手の足をブロックしたら、相手が痛がってうずくまってしまった事がありました。マンガ「帯をギュッとね!」には空手経験者の柔道選手の「下手くそな出足払い」一発で対戦者の足首が負傷、試合続行不可能というシーンがありましたがまさにそれ。でもこちらが蹴りを出したわけじゃありません。

 どうやら我々の手脚は、我々が思ってる以上に空手の稽古で硬くなってるようです。

 かつて組手の時に痛くて痛くて当てるのも受けるのも嫌だった玉越さんの手脚と同じ状態に、自分もなっていたのが驚きです。


 また、別の乱取りの時に、相手の体重の移動から「右脚を刈られる!」と思い、咄嗟に足を上げて避けたのですが、相手はまさか避けられるとは思わなかったらしく、声に出して驚いてました。(このすぐ後にひっくり返されましたが)

 自分でもよく避けれたなと思うのですが、考えるに我々は空手の稽古で股関節の可動域が広くなってるのではないかと思うのです。それと、片脚になっても体幹がさほどブレなくなっているのかと。


 逆に、「君、力あるからできるよ」と言われて試したベンチプレスが上がらなくて恥かいた事も。勧めてくれた人もなんで上がらないんだろうと不思議がっていた。

 やってみた事がなかったから、コツが分からなかったのかなと思ったけど、ひょっとしたら、型稽古を中心とした空手の基本動作が、脚、腰、腕の連携した動きを作っていたのではないか。だから上半身だけでは力はそれほどでもないが、乱取りでは全身で効率の良い力の出し方ができていたのではないか。そんな気もしました。


 それと、牛窪道場だからこその話もあります。

 大外刈りがダメならすぐに小外刈り、それを連続して相手にすきをつくる。なんてのを学んで試してみるわけですが、言うはやすし行うはかたしで、なかなか上手くいかず盲滅法めくらめっぽう(という表現をあえて使います)に足を出してしまう。

 そうしたら相手をしてくれていた方から

「目が見えてるんだから、ちゃんと狙って足を出すように」

 と言われてしまい、

「すいませーん」と身の縮む思いになりました。

 相手をしてくれたのは、2010広州アジアパラ金メダリストの高橋秀克さんです。ここの道場にはもう1人、同大会で金メダルを獲得された加藤裕司さんもおりまして、金メダリストの牛窪先生の道場で学んで金メダル獲る人が出てくるんだから凄い道場です。だから指導を受けようとあちこちからいろんな方がきまして、田んぼの中の道場とは思えない状況です。

 また、視覚障害関連でもいろいろ学ぶことがありました。白杖のルールとか盲導犬は他人からエサをもらわないとか。目が見えていても何も見ていなかったんだなと反省しきり。

 鍼灸しんきゅうの学校で、ツボの位置や名称が最近になって変わったという話も聞きました。日本や台湾、韓国や中国で、ツボの位置が微妙に違うとか。で、近年は中国の影響でWHOのツボの規定が中国寄りになって、鍼灸の先生の知識と教科書の記述にズレが出ているとか。どこも大変です。


 さて、年末のある日、牛窪道場の忘年会がありました。

 待ち合わせの時間に30分早く着いたら、白杖持ったお婆さんがウロウロしている。この状況で何もしなかったらいかんよなと、お婆さんに声をかけました。駅前のショッピングビルに行きたいとのこと。「では私が案内しますので、私の肘をつかんでください」と言いました。案内者の肘を掴ませるのはセオリー通りなのですが……


 このお婆さん、腕組んできた。

 必要以上にくっついてくる。


 自制心フルパワーでショッピングビルまで誘導して、お客様案内係のお姉さんに押し付けて、忘年会の待ち合わせ場所まで走って行きました。

 世の中いろんな人がいますわ。

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