浮気してしまったこと

 新しい職場は新宿区でもガラの悪いところでして、そんな場所で警備員やってるといろいろありました。

 いろいろありすぎて、半年過ぎた辺りで考えます。「やっぱりいきなり殴る蹴るはマズイよなあ」と。

 いや、仕事で殴る蹴るをしたわけじゃないのですが、やはりこちらの精神的余裕は「殴る蹴るしたらこっちの方が強いよ」というのが元になってるわけでして、でも実際やるとクビになるし、会社や警察から怒られるし、いや会社より警察より女房に怒られるのが一番コワイ。


 というわけで、合気道とか柔道を学ぶ必要性を感じたわけです。

 ですが、空手を始めた時もそうでしたが、学ぶ事の必要性とか実用性よりも学ぶ対象への憧れの方が私には重要でして、自分が好きなマンガに合気道や合気柔術、ブラジリアン柔術はあったかな? とまず考えます。

 合気道なら間違いなく安彦良和の「虹色のトロツキー」。満洲を舞台にしたマンガで、日蒙混血の青年ウムボルトの師匠として植芝盛平が登場します。実にカッコイイんだこれが! なおこの作品での空手は悪役の特高警察官の使う技として出てきます。

 合気柔術なら、これも安彦良和の「王道の狗」。蝦夷地の刑務所を脱獄した主人公(秩父事件関係者)が、武田惣角と出会い大東流合気柔術の手ほどきを受けます。この作品は日清戦争前後の時代を扱っていて、氷川清話の頃の勝海舟が登場します。この勝海舟がまた素晴らしいんだ! 素晴らしすぎて朝日新聞が「週刊マンガ日本史」を刊行した時、勝海舟の号を安彦良和に依頼したほどです。あ、大東流合気柔術なら「拳児」にも佐川幸義をモデルにしたキャラクターが登場してました。

 ですが、好きなマンガに合気道や合気柔術が出るにも関わらず、私は柔道を選択しました。

 いやー、村枝賢一の「RED」というマンガがありましてね、そこに田原坂で自決し損ねてアメリカまで逃げてしまった肥後藩の藩士、伊藤伊衛郎というキャラクターがいまして、これが実に泣かせるおとこでしてねえ。ラスト近くで居合を得意とする幼馴染と対決する時に、盲目に近くなり狭間筒はざまつつ(火縄銃)の狙いがつけられなくなった伊衛郎が、銃でも刀でも勝ち目がないと判断して、柔術の構えで一言「来い」と言う場面がもう、しびれるほどカッコイイんだ!

 え? 柔道じゃなくて柔術だろって? 肥後ん男はそぎゃん細かかこと気にせん!(私は父方が熊本、母方は福岡です)


 さて、柔道の道場をいろいろ検索しましたら、凄いのを見つけました。家から自転車で15分ほどのところに柔道パラリンピックの金メダリストが道場開いてます。これは行かねばならん。でも怖いから最初は見学で。


 というわけで、浮気してしまいました。

 市原先生にバレたらどうしよう、と、内心ビクビクしながら浮気を続けます。

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