配属初日のこと
クリスマスも過ぎて仕事納めを目前に控えた日に、フリーペーパーから選んだ2件に連絡を入れ、両方とも年明けすぐに面接となりました。
時に2008年。核兵器以上の威力を持つ超磁力兵器が使用され、人類が危機に
面接を受けたのは、1つは都内の警備会社、もう1つは誰もが知ってる大手印刷会社の埼玉県内の工場。こちらは警備でなくフォトショップの作業員。両方とも面接時には
さて、どちらを選ぶか悩みます。
結論から言いますと、警備会社を選びました。
大手印刷会社の方は、そこで働いていると大威張りで自慢できるくらいのビッグネームでしたが、採用されてもバイト扱いでしたから。頑張れば数年後に正社員採用されて市ヶ谷で勤務の可能性もあるという話でしたが、確実ではありません。反対に警備会社の方は3年後には確実に正社員になれるという事でしたので、とにかく10年先までの安定を選択しました。これ以上女房に負担かけられません。父親としての責任もあります。
で、もう後がないぞと意気込んで研修を受けてみると、警備業界について知らない事が意外に多く、結構面白かったです。
研修も終わり、かなりやる気に満ち溢れた状態で、決まった先は、新宿区某所にあるNTTのビルでした。
配属初日、受け取ったばかりの制服を着て、右も左もわからない環境を汗だくで動き回る。とにかく言われたことを全部必死になってノートにとる。
なんたって初めての職種で初めての職場だ。覚える事が多くて大変。それにもうすぐ40歳になる身だから、後がないので必死で食らいつくのであります。
夕方になり、正面入口前で立哨するように先輩警備員からの指示が出ます。退社する社員たちに挨拶するためです。
定位置で立哨して、社員が通るたびに「お疲れ様でした」と声を出す。すぐ後ろには先輩警備員が立ち、こちらの動作をチェックしている。気が抜けない。
しかし定時で帰る社員さん多いなあ……さすがNTTだなあ……なんて思いながら、建物から出て行く社員さんたちに向けて「お疲れ様でした」の挨拶を幾度も繰り返す。目の前を何人ものNTTの社員が通り過ぎていって……あれ?
今通り過ぎた人物の横顔に見覚えが……。
いや、いくらなんでもそれは無いだろう。
走って追いかけて今通り過ぎた社員さんを確認したい衝動を、背後の先輩警備員の存在を思い出してグッと堪え、目だけで追った。あの背格好、なにより左後頭部の白髪のかたまり!
ストレスによる円形脱毛症の
市原先生だ!
いや待てちょっと待て。
こんな事あるのか? 都内にNTTのビルがどれだけあるか解ってるのか?
数あるNTTのビルの中から、知り合いが勤務しているビルを引き当てる確率はどれくらいなんだ? しかもこっちの配属先がNTTじゃない可能性だってあったんだぞ。更に配属初日に出くわすなんて。
どちらにせよ、確認しなきゃ。
休憩時間にガラケーを使い、友人「Y」にメールを送った。
「今日道場に行ったら、市原先生に、16時半ごろ●●通り沿いのNTTを出たか、確認してもらえませんか?」
昨年末の苦境の時にもこちらに仕事を与えてくれた「Y」は、私の現状全てを把握している。これだけで状況を理解してくれる。
その日の夜、「Y」から一言だけ
「当たりでした」
と返信が来ました。
マジかよ!
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