C・W・ニコルさんのこと その5

 さて、ニコルさんとの黒姫合宿は、生まれて初めて野生の(という表現でいいのか疑問ですが)ホタルが光って飛んでいるのを見たり、2日目の自由時間には池のほとりでスケッチしたり、夜は部屋で酒盛りしてそのまま雑魚寝して、夢の中でも稽古していた村上先生が本部の道場生の尻を寝ぼけて蹴っ飛ばしたり、3泊4日の合宿を2泊3日で切り上げるのが私だけだと思ったら金澤館長と伸明先生もそうで、「一緒に帰りましょう」と館長のお誘いを受けて、前館長と現館長が交代で運転する車の後部座席にペーパードライバーが座り続けるという得難くも情け無い体験をしたり、月曜日に出社したら金曜の台風直撃で会社は地下に浸水して大変だったらしく、日焼けして出社した私は大顰蹙だいひんしゅくだったりと、まあいろいろありましたが、この辺で「黒姫合宿篇」を終わらせます。


 というわけで、そろそろ肝心なことを書きます。

 市原先生は、黒姫合宿に参加したのかどうか。

 答えは「否」です。


 総本部で黒姫合宿に参加した先生は、館長と村上先生と伸明先生の3名です。市原先生は参加しませんでした。

 本業がNTT職員の市原先生は、仕事が忙しくて参加できなかったのかなと思ってました。

 ですが、どうも違っていたようです。

 黒姫合宿にも参加していた友人の「Y」が言うには、市原先生は個人的にニコルさんをよく思っていなかったらしいのです。

 その理由は、完全にニコルさんのプライベートに属することなのでここでは書きません。まあ、その内容は別に非道徳的な事ではないし、世間一般にもよくある話ですが、まあ市原先生の気性では「認められん」となるのかなあと。事の善悪とは違う、いわゆる「共演NG俳優」に近いと思います。

 とにかくここから言えるのは、やはり市原先生は日本空手協会時代からニコルさんを知っていたと考えるべきでしょう。

 さて、もしこの文章を読んでいる人で、ニコルさんの「私のニッポン武者修行」を読んでる方がいたら、作中に出てくる「脳足りん」、極右思想の持主で外国人嫌いの某大学空手部員、あの作中唯一の悪役登場人物が若い頃の市原先生ではないかと思う人がいるかもしれませんのでハッキリ言います。それは誤解です。


 そりゃ、市原先生は総本部で外国人に指導する時に、他の先生方と違って一切英語を使わなかったですよ。海外への指導もそうそう行かなかったです。でも熱心な外国人の道場生には親身になって教えていましたし、腹一杯になるまで食事をおごってました。逆にいい加減な道場生は日本人だろうが容赦ようしゃなく雷落としてました。

 それになりより、出身校です。

 市原先生が、「俺は大学出てないから国際松濤館の役員になれないんだよなあ」と私に言ったことがあります。市原先生は国士舘を出ていたと聞いていたので、ビックリしてそう質問したら……

「国士舘高校だよ!」

「……押忍」

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