白帯の日々のこと その4

 9級の審査に受かったと言っても、帯は依然白いまま。

 それと同じで、ちょっと市原先生から褒められたくらいで、人の中身はそうそう変わるわけじゃないのです。


 相変わらず不器用で覚えも悪い私は、やかましく指導されておりました。ありがたい事でございます、ええ。


 はっきり覚えているのが、鉄騎初段てっきしょだんをはじめて教わった時の事。

 鉄騎の型は足を交差させ、真横に移動するのですが、私の動作を見た市原先生は突然烈火のごとく怒り、道場の隅に移動するやいなや、立てかけてあった竹刀をつかんでこっちにドスドスと歩いてくる!

 ぶっ叩かれる! そう思った瞬間、市原先生は竹刀を道場の床の上に、床板の線に沿うように叩きつけ、竹刀に自身のつま先をつけるようにして立ち

「いいか! お前の動きは、交差した足のつま先の位置が前後にズレてるんだ! だから終わっても元の位置に戻らない! 交差した足のつま先は、こう左右同じ位置にくるんだ! 最初から最後まで同じ線だぞ! 分かったか!」

 そう言って、横にした竹刀を踏む事なく、ピタリ一直線の動きで鉄騎初段の動きを実行されました。

 もうね、あまりの衝撃で一発で覚えましたよ。ありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る