第46話

売り場に敷布団を敷いて、横になる。ウェルミンは結局エルと寝ることにしたようだ。武器に囲まれて寝る──奇妙だが、なんかすごくいい気分だ。冒険者の性というやつだろうか。


その時だった。店の入口がカンカンとノックされた。


布団から起き上がるが、店員でもない俺が出ていいものか、と迷った挙句、ウェルミンを起こすことにした。


カウンター奥のウェルミンの部屋に向かい、誰か来たぞと呼びかける。


「こんな時間に一体誰が……」


ウェルミンがエルを抱えて、寝ぼけまなこで扉の鍵を開け、扉を開ける。


「どちら様ですかぁ……?」


俺も後ろから誰が来たのか覗く。しかし、夜ということもあって、暗くて顔はよく見えない。


「宮薙潤だ。近いうちに決闘があるから、剣の状態を見て欲しい」


「……もう閉店済みなんですけど……レンさん、電気点けてくれませんか?」


はいはいと返事をして奥の扉の横にある電気のスイッチを捻る。すると、天井のライトに光が点く。そして、来店者の正体が分かる。といっても、俺は誰か知らないが。


黒いロングコートには、胸元に王国の紋章が付いており、長い黒髪と名前が"転生者"だと告げている。"宮薙潤"、どっかで聞いた気が……


「まあ、剣の状態見るくらいならいいですよ。あなたには色々とお礼もありますし……私に出来ることと言えば、武器の作製と修理くらいですし……では、貸してください。寝起きなので、少し雑い感じになりますけど、そこはこんな時間に来たあなたのせいですよ……」


「ああっ!」


誰か思い出し、大声をあげる。


「どうしたんですか、大声上げて」


急に大声を出した俺に驚いたウェルミンと宮薙潤が視線を向ける。そんな中、エルは未だにウェルミンの腕の中でぐっすりだ。案外大物になるかもしれない。


「宮薙潤って、確か央都騎士団前衛隊隊長の……」


「そうだが。お前は、反逆者のレンだな」


反逆者。俺の立ち位置は現在そうなっているらしい。


「反逆者……?」


「後で聞けばいい。少し早いが、お前に教えてやろう」


正直、ろくなことじゃない気がする。例えば、俺の死刑とかレイラ達に何かがあるとか──


「──三日後、俺とお前で決闘がある。"プロテクション"を使った、正式な決闘だ。お前は強制参加らしいぞ」


まだまともだった。しかし、俺はあんなことをしたのだ。もしかしたら、裏で何かがあるかもしれない。


「……分かった。負けないぜ」


「こっちこそ、負けることはあってはならないからな。央都騎士団前衛隊隊長として、お前は俺が潰す」


俺と宮薙潤との間で交わされる会話についていけないのか、ウェルミンが俺と宮薙潤の顔を交互に見やる。


「兄さんっ!」


その時、店の外からウェルミンとは別の、女性の声が聞こえた。


「ミナか。どうした」


「どうしたじゃないよ……ウェルさん、こんな夜遅くにすみません。うちのバカ兄には、しっかり言い聞かせますので……」


「い、いえ……」


「えーと、あなたは……」


「反逆者だ」


 おい、その言い方はないだろ。間違ってはないが。


「その言い方はないよ、兄さん。てことは、レンさんですね。初めまして。央都騎士団後衛魔術師隊隊長、宮薙潤の妹、宮薙美奈です」


「どうも……」


 軽く会釈をして答える。どうやら俺のことは知っているようだし、自己紹介の必要はないだろう。


「あと、レイラちゃんの担当してます。ミフィアちゃんには兄さんが付いてますよ」


「……そうですか。あいつら、ちゃんとやってます?」


 仮入団してまだ二日しか経っていないが、なんとなく聞いてみた。


「ちゃんと……といえば、ちゃんとしてはいます。ただ……どこか上の空、といった感じです。集中してるようで、し切れていない、そんな感じです。部屋割りは一応同じにしてはいるし、私もお話聞いてるんですけど……」


 どうやら、何かがあいつらを集中させれていないらしい。なんだろうか。見当がつかない。


「お話聞いてると、あなたのことばっかり話すんですよ。あ、エル君のこともたまにありますけど。ブラックバックを倒したんだ、とか、“庶民の英雄”の息子なんだ、とか、いろんな魔物の倒し方知ってるんだ、とか、レベルが上がらないんだ、とか」


「そ、そうですか……」


「恐らく、寂しいんでしょうね」


 寂しい……? 何が……あれか、エルがいないからか。あいつら、なんだかんだでエルのこと、よく抱きしめてたしな。


「そっか……エルがいなくて……」


「あなた、鈍感って言われたことありませんか?」


「ついさっきウェルに全く同じ質問されましたが」


 そこまで鈍感だろうか。エルがいなくて寂しい、というのは、結構自信があるのだが。


「まあいいです……兄さん、今日は帰るよ」


「で、でもまだ剣を……」


「決闘はまだ三日後なんだから、そんなに焦らなくても大丈夫でしょ」


「でも、剣を振り慣れとかないと……」


「兄さんはそんなことしなくても強いんだから、気にしなくていいの」


 妹に言いやられる兄の図。笑える状況なのだが、どうも笑えそうになかった。


「レンさん、反逆者とか兄さんが言ってごめんなさいね。王様に魔法撃っちゃったらしいけど、兄さんも最初はそんな感じだったから、気にしないでくださいね。ウェルさんも、本当にすみません。明日の朝、また寄りますので、その時に剣見てやってください」


 俺とウェルミンがそろって「はぁ……」と返事を返すと、二人は“テレポート”を使って姿を消した。


「……魔法、撃ったんですか?」


 ウェルミンが聞いてくる。


「は、はい……」


「ばかですねぇ……」


 ぐうの音も出ないや。


「少し目が覚めてしまいました……お話でもしませんか?」


「んー……まあいいか」


 眠ったままのエルを抱えて、ウェルミンが店に入る。敷布団に体育座りしたウェルミンの横に、俺も胡坐をかいて座る。


「せっかくですので、昔ばなしでもしませんか? 私たちの、親の話でも」


 俺の親の話……


「いいけど、急にどうしたんだ?」


「いえ。私とあなた、少し境遇が似てる気がしたんです。私、数年前に王様からの依頼を断ったことがあって……一時期、反逆者と呼ばれていた時期がありましたから」


 似た境遇、というのは、そういうことなのだろうか。何かほかにあるような……それこそ、親について何かあるような。


「……分かった。じゃあ、俺の親から話すよ」

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