第29話
ホーセス村に来て、遂に三週間以上が経った。村の復興は俺の想像していたよりも進み、あれから子供が四人産まれ、作物も失敗することはなく、順調に成長している。
建物も少しずつ建て直していき、元々石造りだったものを、もっと頑丈なレンガ造りに変える。
「行くのか?」
「ああ。エルも十分飛べるようになったし、俺もだいぶ慣れてきた。馬車も引けるし、上に乗せるのも問題なくなってきたからな。村もだいぶ更生できたし、俺らの役目も、ここまでかなって思う」
「私も、ここまでできたら十分。それに、もしマレル村から私たちを探している人が来てたら、流石にずっと滞在はできないから」
まあ、半月以上ここに留まっておいて来なかったのだから、おそらく来ていないのだろうが。しかし、もし準備に手間がかかっていたのだとしたら、来るのかもしれない。だから、そろそろ行った方がいいのは確かだろう。
「そうか……寂しくなるの……たまには寄ってもいいんじゃぞ。わしらは、いつでも待っておるからの」
「ああ。もしこっちに来ることがあれば、その時に寄るよ」
エルは今、小さい状態のままだ。馬車は北門前に置いており、俺達は今そこで会話をしている。いるのは、いつもの三人だ。
「それじゃあ、後のことは任せた。俺達は旅を続けるよ」
二週間前から、俺もレイラも敬語はやめた。ホウロウさんがやめてほしいと言ってきたのだ。なので、俺達はその言う通りにした。そしてそれ以来、俺らは敬語を使っていない。
「そういえば、お主ら食料はどのくらいあるんじゃ?」
「えーと……いつも通り食べれば、一週間ってとこかな」
「ふむ、一週間か……なら、先に“リララ村”に行った方がよさそうじゃの」
「先に……?」
「うむ」
ホウロウさんが一拍空けて、説明を始める。
「このホーセス村を出た先の道、分かれ道があるんじゃ。右に進めば“スレーブ村”、左に進めば“リララ村”へとつながるらしい」
らしいと言うあたり、実際のことは知らないのだろう。それもそのはずで、ホウロウさんは元々リューレン村の出身で、この村で足止めを喰らったのだから。その知識は、おそらくリューレン村で仕入れたもの、もしくはこの村で襲われた他の冒険者や旅人、もしくは先代のホウロウさんだろう。
「でも、央都には“スレーブ村”の方が近いよね?」
レイラが質問をする。
「確かに、央都に向かうなら“スレーブ”の方が近いじゃろうな。じゃが、ここからの距離では、圧倒的に“リララ”が近いんじゃ。受け売りじゃが、馬車だと“リララ”までは一週間弱、“スレーブ”まではその二倍以上かかるらしいからの。故にわしは“リララ”に先に行くべきじゃと思う」
「分かった。そうさせてもらうよ。分かれ道を左、だよな?」
「うむ。ついでに言っておくが、“リララ”は音楽が盛んじゃ。様々な音色で、心を癒されるがよいわ」
「音楽? 私そこまで聞いたことないんだよね。領主の招集会でなら、何度か聞いたことあるけど……」
「お前が何度かなら、俺はゼロだよ……分かった。色々、ありがとうございます。多分、春までには央都に着くと思うから、何かあったら手紙でも送ってくれ。速攻駆け付けるから」
「うむ。頼りにしておるぞ。“リララ”でなら食料も買えるじゃろうから、安心せい」
「ああ、ありがと」
そろそろ日が頂上——南中する頃だ。いい加減行かないと、夕方までに距離を稼ぐことができない。
「じゃあ、そろそろ行くよ。本当に、ありがとうございました。また会おうな」
「またね、ホウロウさん」
「うむ。達者にするんじゃぞ」
そして、俺達はエルの引く馬車に乗った。俺が業者台に乗り手綱をなびかせると、エルは北門を潜り抜けた。翼を折りたたまないと通れないくらい、結構狭いらしい。
俺の位置から後ろは見えないが、レイラが扉の窓から手を振っているのが見えたから、ホウロウさんも振っているらしい。俺も振りたいとこだが、どうせ見えないのでやめておく。
「さて、わしもやらねばならんことを始めるとするかの」
俺らに、そのホウロウさんの声は届いてこなかった。
♢
それから三週間後——つまり、俺らは“リララ村”で過ごし、更にその先へと進んだということだ。
“リララ村”へは五日で着き、それから二日ほどかけて音楽を聴いて回り、食料を買いそろえた。特に何もなく済んだので、ここでは記さない。ただ、間違いなく楽しかった。
それから更に一週間経ち、もう少しで“スレーブ村”にも着きそうだ。
「“スレーブ村”か。どんなところなんだろうな」
「奴隷商が盛んらしいよ。あと、私服とか。だから戦闘服とかは期待できないかな」
「……どこ情報?」
「“リララ”で聞いた」
「いつの間に」
「レンがお肉屋さんの人とうだうだ話してた時」
あの時か……あの肉屋のおっさん、結構話の合う人だったから、つい長話をしてしまったんだよな……
「でも、情報があるのは助かるな。サンキュ」
「はいはい。これからは自分で集めてね」
「ぜ、善処します……」
どうやら、俺がこれからも情報集めは任せっきりでも大丈夫かな、と思っていたことが分かったらしい。恐ろしい直観だ……
「どうする? 奴隷商、寄ってみる?」
「んー……奴隷という言葉に惹かれはするものの、奴隷商の人って、なんか道化っぽそうなイメージがなぁ……」
「そうかな? 意外と優しい人かもよ」
「どうだか……まあ、寄るに関しちゃ何も問題はないしな。気になるから行ってみよう」
「うん。あ、あと」
どうやらまだ何かあるらしい。
「なんだ?」
「エルのことなんだけどさ」
この前“リララ村”に入った際、案の定のごとく、エルはすごく目立った。それも当然だ。人生で一度見かけられたらラッキーだと言われるクリスタルドラゴンが、馬車を引いているのだから。
「まあ、大丈夫だろ。そもそも、エルが引かなきゃ、俺らじゃ運べねーぞ」
「それもそうだね……」
どうやら、レイラは目立ちたくないらしい。しかし、エルに関しては仕方ない。だって、馬車引けるの現状こいつだけだし。だから、多少は我慢してもらわねばならんのだ。
「まあどうせ、村に入ったらほとんどこいつ、ちび状態なんだから、気にすんな」
「それもそうだね」
少しだけ明るさを取り戻した。しかし、結局俺らの顔は覚えられるのだから、目立つことは間違いないだろうが。
「お、見えてきたな」
俺の視線の先、二百メートルほどのところに、ほぼ平面に見える、城壁が見えてきた。“ホーセス村”や“リララ村”とは比較にならないほどでかい。
「こりゃ、……何度か迷子になりそうだな」
「そうだね。主にレンが」
「主にお前だろ」
そして、俺らは言い合いをしながら、“スレーブ村”へと進んで行った。
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