第18話

 翌朝、俺達は旅の必需品と、次の村の情報収集のため、リューレン村を散策していた。


 食料は大量に売ってある。あまり大量には買わないが、できる限り多めに買うつもりだ。重量が軽くなる分、少しでも多く持っておいた方が、身のためになるはずだ。


「次の村って、なんていうんだ?」


「えーと、確か……」


 レイラが唇に人差し指を当てて考える。どうやら、考え事をするときの癖らしい。しかし、レイラが答えることはなかった。何故なら、


「“ホーセス村”じゃよ」


 聞き覚えのある、しゃがれた声が聞こえたからだ。


「あ、あの時のお爺ちゃん」


 そう。俺らに話しかけてきたのは、この村に来た際、初めて話した人物である、俺の父さんのことを知っていた、ついでに宿も教えてもらった老人だ。


「“ホーセス村”……どんな村なんですか?」


「さあな。最近は他の奴らからも全然話を聞かんからの……ただ言えることは、普通の村ではないぞ」


「普通の村じゃない? どういうことだよそれ。何か問題があるなら、避けて通りたいんだけど」


「それは無理じゃな。あの村は結構でかいからの。迂回するにも、それなりに時間がかかるぞ。普通の村じゃない、というのは……簡単に言うと、ほぼ廃村、ということじゃ」


「廃村って……」


「つまり、村人がほとんどいないってこと?」


「そうじゃ。恐らく今は、二百人もいいところじゃろうな」


 レイラの問いに老人が答える。しかし、二百人か……


「商売とか、どうなんだ?」


「売ってるのは馬と馬車だけじゃよ」


「……食いもんは?」


「売っとらん」


「……どうやって生活してんだよ」


「恐らくじゃが、今にも餓死しておる奴が、それなりにおるじゃろうな。頼るなら、ホウロウという馬売りを頼るがいい。あいつは、あの村の中でもまともな方じゃ」


「まともなって……」


 まるで他はまともじゃない、みたいな言い方をする。


「それに、おぬしらも旅をするなら、馬車の一つくらい買っておけばどうじゃ? 二日前の魔獣騒ぎで、それなりに稼いだのじゃろう?」


「いや、まあ、……確かに、それもありかもな」


「うん。歩くのは疲れるし、時間もかかるもんね。それに、馬車だったらもっと荷物乗せれるし、やろうと思えば、商売だって出来るもんね」


「俺は接客苦手だから、お前に任せるよ、その時は……それで、問題ってのはそれだけか? そんな村だと、もっと他にもありそうなもんだけど……」


「そうじゃな……これは、忠告じゃ」


 俺とレイラの顔が引き締まる。忠告と聞いて、やはり聞き逃すわけにはいかない。


「村人に気を付けよ。もしもの時は、馬車商人のだれかを頼るんじゃ。わしの言ったホウロウでも構わんがな」


「分かった。そうするよ。面倒事は出来るだけ避けたいしな」


「そういう割には、魔獣騒ぎの時、自分から挑んでいったそうじゃが」


「あ、あれは例外だろっ!」


「それよりお爺さん。馬車はいいんだけど、地竜はないの?」


「どうじゃろうな……最初言った通り、最近あの村の噂は聞かん。既になくなっておる可能性すらある。じゃが、少なくとも馬車商人共は旅人や冒険者の仲間じゃ。あの村は完全に隔離されておるからの」


 “完全な隔離”。なんとも聞きなれないものだ。この世界は魔王の存在のせいで、結構協力的な感じがあるのだが、やはりそういう隔離などは、どこかで行われているものらしい。


「ありがとうございます。着いたら、ホウロウさんに会ってみます。あと、せっかくなんで、馬車も見てみるつもりです」


「そうじゃ。追加なんじゃが、食料はなるべく多く買っておけ。“ホーセス村”では食料を手に入れれる見込みはないぞ」


「分かりました」


 俺らは、老人に礼を言ってから、食料を買うことにした。



「馬車かぁ……乗ったことある?」


「何度かはあるよ。村の徘徊の時とか、昔乗った」


「ああ、そういや乗ってたな……学園からたまに見えてたわ」


「地竜だったら嬉しいんだけどなぁ……」


「地竜ってあれだろ? 馬車の竜版。その場合竜車っていうんだっけ」


「そうだよ。他にも移動用の魔物はそれなりにいるんだけど、主には馬か地竜だね」


「他の移動用魔物、か……」


 頭の中で学園で習った移動用魔物の姿を思い浮かべる。一般的なのは馬や地竜だろう。しかし、他にも蛇のようなやつや、鳥のようなやつ。央都の騎士団には、ユニコーンやペガサスを使う者もいるらしい。


「……一番速いのって、なんだっけ?」


「んー……ユニコーンかペガサスじゃないかな? 流石に、高望みだと思うけどさ」


レイラは諦めの表情を見せる。俺も正直、ユニコーンやペガサスは無理だと思っている。


「まあ、馬でいいか……移動手段があればいいんだからな」


「そうだね。とりあえずあのお爺ちゃんの言う通り、ホウロウさんを訪ねよ。そしたら、なんとかなると思うし。……あ、これ美味しそう」


いきなり食い物に目移りした。やっぱり子供だ、と思う場面は、こうところにもある。


「じゃあ、明日か明後日にはここを出よう。そんで、何日か歩けば、ホーセス村にも着くはずだ」


「うんっ! ……あ、これ五つください」


レイラが買い物を始めたので、俺もそれに付き合うことにした。二時間ほど付き合ったが、残高はまだ余裕で百三十万はある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る