第17話
どれくらい寝ていただろうか。体はまだダルいが、痛みは残っていない。寝過ぎたせいだろうか。瞼が重い。しかし、起きないわけにはいかない。なので、無理矢理目を開ける。
背中は柔らかくも硬くもない、ベッドの感触。おかしい。俺は村の北門の近くで倒れていたはず。なのに、何故……?
目を開けると、眩い光が瞳を刺激した。急な明るさの変化に、一度目を細める。少し慣れてきたところで、目を開けて、上半身を起こす。左側には他の感触があった。視線を向ける。
「レイ、ラ……」
滑らかな金髪をシーツの上に広げて、ローブを着たまま寝る、レイラがいた。寝息を立てている。腕の状態も、問題はなさそうだ。
窓から外を見る。どうやら、ここは俺らが泊まっている"寝床屋"なのだろう。外は明るく、煤の付いた壁が見えた。向かいの建物だろう。
ベッドから降りて、立ち上がる。一瞬クラっと立ちくらみがするが、すぐに治まる。壁に俺の黒剣とレイラのロッドが置かれていた。どうやら、貸してくれたプラコール村製の剣は、持ち主に返されたらしい。
「……終わったのか、魔物の襲来は──」
窓から外を見回すが、目に焼き付いているあの真っ赤な光景は、残っていない。
布の擦れる音がしたので、ベッドに目を落とす。どうやら、レイラが目覚めたらしい。
「ふあぁ〜ぁ……」
欠伸をひとつ。そして、起きている俺に気付いて、
「おはよう、レン」
と、笑顔で言ってくる。
「よく寝れた?」
「多分……俺ら、なんでここに?」
「村の人に運んでもらったの。レン、終わったらすぐに寝ちゃったんだもん。それじゃない剣は、持ってた人が持って帰ったよ。お礼はいらないって」
そういう訳にはいかない、と思ったが、当の本人が言うのだから、その言葉に甘えさせてもらおう。
「……まだ腕がヒリヒリするなぁ……」
「大丈夫か?」
レイラはローブを上げて、腕を摩っている。見た感じでは、特に違和感はないのだが、やはり本人からすると、多少痛みは残るらしい。
「回復してもらったけど……やっぱり、"バーニングネオ"はきついなぁ……」
苦笑いしながら言う。
「そういや、ブラックバックのやつ、"バーニングネオ"耐えてたよな? そんなに強いのか?」
「ううん。多分、私の中の魔力が足りてないせい。あと、レベルもそこまで高くなかったから……あ、五十レベになってる」
どうやら、レイラはブラックバック及びにホワイトコングの群れの討伐で、一気に上昇したらしい。俺は──まあ、見ての通り一のままだ。ため息を吐く他あるまい。
「やっぱ、ダメだった?」
「ああ。ダメだった」
レベルのことを聞かれたので、正直に答える。
その時、扉が優しく叩かれた。この落ち着きようが、更に安心感を与えてくれる。
「起きられましたか?」
「はい。どうぞ入ってください」
勿論、この宿のカウンターにいた、青年だ。
「ギルドの方で報酬が用意されているそうなので、どうぞお伺い下さい。それと、今回はありがとうございました。あなた方のおかげで、村と村民を守ることが出来ました。少なからず死人が出てしまいましたが……気に病むことはありません。あなたたちは、それ以上に命を救ったのですから」
そうか。そういえば、結構死人、出てたな。俺の見た感じだと……二十人は超えてたか。
「……葬儀とか、やるんですか?」
「はい。今日の午後、執り行う予定です」
「そうですか……俺らも参加します。あと、報酬の件、ありがとうございます。今からいってきます」
「はい。道中、気を付けてください」
♢
俺らは宿を発った。そして、青年に聞いたギルドへと向かう。
リューレン村のギルドは、マレル村のそれよりも、かなり大きい。パッと見、二倍近くはあるだろうか。
ギルドの中に入ると、その雰囲気はさほど変わらなかった。簡単な居酒屋のような感じで、実際に冒険者が食事をしている。俺らが入口で立ち止まっていると、
「もしかして、レンさんとレイラさんですか?」
受付嬢がカウンターから話しかけてきた。俺が「そうです」と答えると、
「ちょうどよかったです。先程、報酬金の準備が出来たところだったので。少しお待ちください」
そう言って、彼女は奥に消えた。二分ほど待つと、手に麻製の袋を持って、姿を見せた。チャラチャラと音がするので、袋の中は金が入っているのだろう。でも、俺らが倒したのはブラックバックとホワイトコング数体だ。さほど高くはないだろう。
「お待たせしました。報酬金の、百五十万コンです」
「「ひゃっ……」」
俺とレイラは、言葉に詰まった。そして、数秒経ってから、ギルド内に
「「百五十万────!?」」
という、完全にシンクロした俺とレイラの声が響き渡った。
「な、なんでそんなに、た、高いんで……?」
俺は理由を聞いてみる。
「それは勿論、あなた達がいなければ、この村の民はもっと沢山死んでいたかもしれませんから。あなた方の機転のおかげで、多くの命が救われました。それに、倒したのはレベル百に達するブラックバックと、八十代のホワイトコング五体ですから。ブラックバックが一体百万、ホワイトコングが一体十万として、報酬金を用意致しました」
予想外だった。だって、たまたま行ったら戦うことになっちゃっただけなのに、こんなに高額を貰ってしまったんだから。百五十万もあれば、しばらく遊んで暮らすことも出来る。
「れ、レイラ……どうする?」
「ど、どうするって……そりゃ、持ってるしかないよ。そのうち使うかもしれないし……」
「そ、そうだよな……」
麻袋の中を覗く。そこには、金貨一枚と銀貨五枚が入っていた。間違いなく、百五十万コンだ。
「なあなあ、奢ってくれよにいちゃぁん」
昼間っから酔っ払った冒険者がつるんでくる。
「い、嫌ですよ……俺達の旅の費用にしないといけないんですから……あなたもそれなりには稼いだんじゃないですか?」
組まれた肩を払い除けて、そう告げると、その冒険者は不服そうな顔をして、
「稼げてなんかねぇよ。俺なんか二万コンだぞ? つか、絶対お前らが一番稼いでるからなぁ……」
マジか。旅の冒険者が──しかもレベル一の剣士と、元レベル三十くらいの魔法使いが──元からいた村の冒険者や、手練の奴らよりも稼いでしまったのか。これはなんというか……
「……早いとこ出ていこう。これ以上いたら、なんか危険な気がする」
「……同感」
ということで、俺達はまず、ギルドから出た。扉を閉めて、ポーチに麻袋をしまう。
「よしっ。とりあえず旅の費用は入った。次は次の村の情報集めと、食材とか道具の買い物だな。これだけあれば、多少高くても買えるしな」
「そうだね。美味しいものいっぱい食べちゃおうっ!」
「いや、あまり大量には買わないぞ……?」
そうして、俺らは一旦宿に戻った。その後、午後三時から葬儀が行われ、死んで行った村人達に、冥福を祈った。
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