第4話入学
心地よい風が頬を撫でる。
暖かい日の光が窓をくぐり部屋を照らす。
ここは学園の男子寮だ。
本来は二人部屋なのだが、男子生徒が奇数だったため運良く一人部屋を確保出来た。
寮はマンションのような構造で一階あたり五つの部屋がありそれが三〇階まである。
一年の男子生徒は一七五人だから八八部屋が使用されていることになる。
一五〇部屋ある事を考慮すれば二人部屋はほんの少しでいいはずだがな。
八時を過ぎたのを見て部屋を出る。
寮にはエスカレーターが無いため階段を使うしかない。
一九階から降りるのは面倒にも程がある。
入学式は九時からでまだ時間に余裕があるはずなのだが、既にかなりの人数が会場になっている第一体育館に向かっていた。
寮は全て学園の敷地内にあるため体育館までは大した距離ではない。
大した距離ではないはずなのだがなかなか足が進まない。
---緊張か・・・---
前世の俺は学校でいじめを受けていたのだから緊張するのも当然と言えるだろう。
本来なら二、三分程で着く距離だが一〇分もかかってしまった。
中に入ると左からAクラス、Bクラスと順に計五つの立て札があり、札の後ろには各クラス六〇個の椅子が三列に分けて置かれていた。
自分のクラスは合格通知の時に知らされるため分かっている。
俺はCクラスの椅子に腰を下ろした。
まだ半分ほどしか集まっていないため前から一二列目の右側だ。
前に詰めて座るように指示されているからどうしようもないのだが俺は運が悪かったようだ。
学校で初めに関わる相手は余程の事が無い限り悪くない関係を築ける。
そして学校で最初に関わりをもつ機会は寮を除けば入学式とその直後にあるホームルームだ。
お互いに面識のない状態で発生するコミュニケーションの相手は必ず席の近いクラスメイトと決まっている。
そこで上手く会話を弾ませられるかによってその後の学園生活は大きく変動する。
俺は会話をするのが苦手なのであって嫌いな訳では無い。
多くの情報を有する魔法という技術を学ぶ学園において情報共有を円滑に行える相手の存在は不可欠だ。
友達作りというものは時間が進むほど難しくなっていく。既に出来上がったコミニティに入るのは至難の業と言えるだろう。
そして友達を作る上で最も簡単なのが今なのだ。
つまり何が言いたいかというと・・・。
---隣の二人が既に仲良いなんて聞いてない!!---
である。
最も友達が作りやすいタイミングということは裏を返せばほんの一瞬でも出遅れればそれで終わるということでもある。
三人一組のグループで自分以外の二人が友達どうしという状況は完全な孤立を表している。
この状況から脱出するには人数が多い方、つまり二人のどちらかが一人の俺に話しかける必要がある。
当然だ、仲のいい二人の会話に初対面の相手が割り込んでくるなど迷惑極まりない。
それをやった上で仲良くなるというのだから陽キャのコミュ力の高さは羨ましい限りだ。
これがまだ男子生徒だったなら多少ウザがられたとしてもその場しのぎ程度は出来ただろう。
だが相手が女子生徒となると話は別だ。
その場しのぎすら出来る自信は無い。
まだ可能性があるとすれば俺より後に来る奴に声をかけるか式中は諦めてホームルームで頑張るかの二択だ。
よしホームルームにしよう。
後ろに座った三人をみて即決した。
今度は男子生徒だったが楽しそうに会話しながら入ってきた。
無理だろ・・・。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二〇分程で入学式は終わり、教室へ向かった。
教室は驚くほど広く、いかにも高そうな机が五つずつ並べられていた。
階段状の床のおかげでどの席からも教卓がよく見えるようになっていた。
本物は見たことがないがドラマや映画でよく目にする大学によく似ている。
これが三学年五クラス分あるというから恐ろしい。
この学園の敷地面積は一体どれほど広いのか。
全体を回ったことの無い俺には想像も出来ない。
「机にお前らの名前が書かれた箱が置いてあるから自分のを見つけたらその席に座れ。」
その指示の通り全員が自分の席を探した。
「黒板に席順くらい書いとけ」と言いたくなったがやめた。悪目立ちするのはデメリットしかないからだ。
俺の席は前から三番目の左端だった。
「全員箱を開けろ。一番上にバッチがあるはずだ、まずはそれについて説明する」
手のひらより少し小さいバッチを手に取る。
話を要約するとバッチは校章の他にいくつかの役割があるらしい。
一つ目が色による学年とクラス、総合評価(ランク)の識別だ。
バッチの背景が学年を、ユニコーンの身体がクラスを、ユニコーンの角が総合評価(ランク)を表している。
総合評価(ランク)の色はS.A.B.C.D.E.Fの順に緑.紫.青.赤.黄.白.黒だ。
二つ目がポイントの記録。
総合評価(ランク)は授業などで発生するポイントで変動し、それを記録することが出来る。
ポイントの数値によって色も変化するようになっている。
初期評価は入学試験の時に測定したステータスが元になっているそうだ。
三つ目が寮の鍵。
寮の扉にバッチがピッタリとハマる窪みがあり、そこに当てることで施錠出来る。
仕組みは不明。
終わり。
俺のバッチのユニコーンの角は黒い。
それは俺の総合評価(ランク)がFである事を示している。
入学そうそう挫折しそうになるとは思わなかった。
全ての説明が終わったところで一つ重要なことを思い出した。
人間関係の事だ。
後々足でまといになる可能性が高いFランクと友達になろうなんていう人が居るか。
俺が逆の立場なら間違いなく関わろうとしないだろう。
まさか入学初日で二度も挫折しそうになるとは・・・。
-魔道具と罠で成り上がる- @xHARUTOx
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