第3話入学試験②

『第一問・一次試験で使用した魔道具の数は?』


舐めてんのかこの試験・・・。


「五つ」


回答方法が提示されていないためとりあえず声に出してみることにした。

反応は無い、これで大丈夫なんだろうか。

二問目以降は国王陛下の名前や冒険者のことなど一般常識問題だった。


運任せにしか思えない試験に落とす気の無いとしか考えられない試験、何がしたいんだ。


全問題を回答すると足元に魔法陣が展開され、ゆっくり落下するような感覚と共に視界が切り替わる。

俺は困惑した。

全問正解したはずなのに転移した場所は第二武道館ではなく、二次試験会場に飛ばされた時にいた場所だったからだ。


『残り一分です』


スピーカーからアナウンスが聞こえた。

他の受験者も俺と同じ状況らしく、困惑の声が上がっていた。


こうしている間にも時間は進んでいる。

どう足掻いてもたどり着くことは出来ない。

場所も分からない・・・いやたとえ場所が分かっていたとしても一分足らずでは何も出来ない。


『二次試験終了!!』


無慈悲に流れるアナウンス。

それと同時に視界が切り替わった。


「二次試験合格おめでとう、それじゃ三次試験を始めようか」


笑顔でそう言う若い男、三次試験の試験官か。


俺はまた困惑した。

目的地には行かなかった、いや行けなかったはずだ、だが俺は確かに武道館と思われる広い場所に居て合格したと言われた。


「ん?あーそうか君は最初からここに居たもんね、分からないか」


状況を読み込めていないのを悟ったのか、試験官は話し始めた。


「二次試験は状況認識力と対応力、一般常識を見る試験だった。先に説明した通り全問正解した人は目的地に転送させたけど他の生徒は正答率に関係なく目的地入口に転送させた。そして転移と同時に幻惑魔法をかけて動きを封じた、幻惑魔法といっても低レベルのものだから冷静に周りを見れば見抜けるし、魔法の存在を認識した時点で解けるから対抗魔法の知識も必要無いよ。だからこの試験は一般常識も知らず、更に低レベルな魔法も見抜けない間抜けだけが落ちる試験ってわけだ。君は全問正解したから合格したけど一問でも間違えていたら脱落してたわけだね。」


試験官は楽しそうに笑っていた。


幻惑魔法・・・だから一度目の転移では落下するような感覚が無かったのか。

二度目は幻惑魔法で視覚だけ元の場所を映し、体を目的地に転送させたから感覚があった。

こんな簡単な事に気づかないとは・・・。


「まぁどっちにしろ君たちは全員合格だ。それは変わらないよ。」


「常識を知らない・・・ねぇ」


試験官に向かって赤い髪の少年が声を上げた。


「何か質問かな?」


「常識問題ってのがおかしいって言ってんだよ、確かに国王陛下の名前とかは誰でも知ってることだ。だけどな計算とか地図の見方、各国の特徴とかは小等学園か中等学園に通ってないと習うことがない。この学園は魔法の適正があれば無条件で受験ができる、でも小等学園と中等学園は高い授業料が必要で入学しているのはほとんどが貴族や商人の子供だ。平民の俺達が通える場所じゃない。そこに入って始めて習うものが一般常識だって?笑わせんなよ、現に全問正解したのはコイツだけじゃねぇかよ。」


「それについては教員会議でも出たんだけどね、試験で出した問題のレベルなら大丈夫との結論に至ったんだ。各地域にある教会のシスターさんが小等学園ほどしっかりしたものでは無いけど授業をしてくれるように国から予算が出ているからね。学園に通わないと習わないレベルのものは入学後の定期試験でしか出すことは無いよ。」


少年の言い分は一瞬にして砕けた。

確かに教育無しで解ける問題なんてやるだけ無駄だろうし今更この試験がそんなに甘いものだとは考えていない。


少年が文句を言ったのは多分サボっていたからだろう。俺も何度かシスターさんに声をかけられたが一度だけ行って止めた記憶がある。

俺が止めたのは前世の記憶のおかげで計算も地図も最初から読めたからなのだが、面倒臭いと言って抜け出す子供も居た。きっとそっちのタイプだったのだ。

そんなもの知らないと言い出せば地元のシスターに問題があると見るべきだが、そうならないところを見ると覚えがあったようだ。


試験官の口振りからして試験官もこの試験のやり方には納得していなかったのだろう。


「もういいかな?三次試験始めるからこれに着替えてね、更衣室はあそこにあるから」


渡されたのは薄いローブだった。これなら羽織るだけでいいので更衣室は必要ないと思ったのだが、他の受験者は疑問に思ってないようで直ぐに更衣室に向かった。

さすがに自分だけその場でというのは違う気がしたから更衣室に行くことにした。


更衣室に入ると、皆服を脱ぎ出した。

着替えるのだから脱ぐのは当たり前だが、薄いローブを着るのに他の服を脱いでいては寒いだろう。

結論の出なかった俺は結局上から羽織るだけになった。


「全員着替えたね?それじゃ試験内容を説明するね、そのローブには全員違う魔法が付与されている。このホワイトボードに書かれた魔法名の中から自分のローブに付与された魔法を当てなさい。制限時間は十五分、はい始め」


開始の合図と同時に全員がローブに魔力を流した。

何か変わった様子は無い。

目に見える変化では無いという事だ。

ということは周りの受験生の様子を見て消去法で見つけるしかない。

この場にいるのは俺を含めて二十人、ホワイトボードに書かれた魔法名は二十五個。

駄目だ、周りを見るだけでは間に合わない。


もう一度ローブに魔力を流した、今度はゆっくり魔力の動きを認識するイメージを持って全体を包み込んだ。

すると魔法陣が脳に浮かんだ。

魔法陣学を知っていればその場で陣形を分析して答えを出すことも出来たのだが、それは入学後に習うことで今の俺が知るはずもない。


変化の分かりやすかった受験者は自身のローブに付与された魔法の魔法名に印をつけていく。

既に十人が印をつけていた。

残りの選択肢は十五個、まだ出来ていないのは十人。


残った選択肢の中で変化が目に見えないものは〈認識阻害〉〈防寒〉〈五感強化〉の三つだ。

五感強化は感覚で分かるとしても他の二つは分からない。


試してみるか。


俺はポケットからハンカチを取り出し、ローブと同じ魔法陣を組んだ。そして魔力を流して近くの受験者に向けて投げる。

これに気づけば発動したのは〈防寒〉で、気づかなければ発動したのは〈認識阻害〉だ。

二択で悩んだ時は同じ条件で片方だけ否定される行動を取ればいい。

ハンカチが当たった受験者に反応は無い。

これは〈認識阻害〉が上手く働いている証拠だ。


ハンカチを回収してローブに魔力を流すのを止め、印を付けた。


「はい終わり。合格者は十二人か、思ったより残ったね。四次試験会場に移動しようか。不合格者はここで待機、合格者は着いてきて。」


「着替えなくていいんですか?」


「あぁすまない忘れるところだった。着替えてから着いてきてくれ、ローブは畳まなくてもいいからそこにある袋に入れてね」


素早く着替えを済ませて試験官の後ろを歩く。

三次試験までに結構な人数が脱落しているはずだ。だがまだ試験は終わっていないらしい。

一体どれだけ切られるのだろうか。


十分ほど歩いたところで試験官が立ち止まった。

そこは一次試験の会場になっていた室内運動場だ。

次は一体どんな試験が待っているのだろうか・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る