第2話入学試験
【王立ラース魔道学園】王都の中心に位置するこの学園はその名の通り魔法師を育成する機関である。
国が運営しているこの学園は他の学園に比べて高い予算があるため環境整備が高いレベルで整っている、当然入学を目指す者も多く試験の倍率は十倍を超えることすらあるらしい。
今日は学園の入学試験日、受験者は室内運動場に集まっていた。
運動場の形は正方形、その広さは一辺三百メートルとかなり広い。
驚くべきはこの広さの運動場を埋め尽くす受験者の人数だ。
合格者数は毎年変化するため知らないが、この数なら倍率は十倍なんてものじゃないだろう。
リーンリーン
運動場に響く大きなベルの音、それがなった瞬間受験者全員が一人の男に目を向けた。
「これより一次試験を開始する!!どれだけ知識や技術があろうが魔力量が少なければ何の役にもたたん!!よって試験内容は魔力量測定とする。名を呼ばれた者から順にこの中に入れ」
男がそう言い放つと五つの魔法陣が地面に現れ、そこから黒い箱が出てきた。
試験は五人ずつ順調に進みついに俺の番になった
「次!ユウ・カンザキ・ウォルター」
「はい!!」
箱の中に入ると足元から緑色の光の膜が発生しているのが見えた。
扉を閉めた瞬間その膜ははゆっくりと上昇を始めた、身体を内側から撫でられるような奇妙な感覚に襲われ一瞬脱力して倒れそうになったが壁(正しくは箱の側面だが)に手をついてなんとか耐える。
膜が頭を過ぎると正面から手のひらサイズの封筒が出てきた。
どこにそんなものを保管していたのか疑問だが今はそんなことはどうだっていい。
恐らくこれが測定結果なのだろう。
今すぐ開けて確認したいところだが他の受験者が開けずに持っているという事はまだ開けるべきでは無いということだ。
しばらくすると全員の測定が完了したらしく、男は箱を出した時と同じく魔法陣の中に入れた。
「全員封筒を開けろ!そして中の紙が白か黒だった者は不合格だ立ち去るがいい!」
俺の封筒に入っていた紙の色は緑、一次試験は通過出来たらしい。
数値表記ではなく色分けの所を見るとこの色はランクを表しているようだ。
そして緑は最高ランクなのだろう。
俺には確信があった。
それは単に俺が自信過剰な訳では無い、確かな根拠がある。
◆◇◆◇◆◇◆◇
六年前のある夏の日、俺は母を喜ばせるために商人から買えば銀貨五枚は下らない高級食材である正式名称も覚えていないキノコを探しに森に入った。
数分後崖の窪みに目的のキノコを見つけた俺はなんとかそれを取ろうと一本の枝を手に取った。キノコの傘に引っ掛けられる、先の別れた形の物だ。
落ちないようにツタを手に巻き付けてキノコをつつく。
長さが微妙に足りず上手く傘に掛からない。
ミシッ
いつもなら直ぐにその場を離れるのだが、完全にキノコを獲ることに集中していた俺は地面が上げている悲鳴に気づけなかった。
そして数秒後崖が崩れ転落した。
崖の下では一人の青年が大きな狼と対峙している。
「危ない!!」
それは青年に対して放ったのか自分のことを言っていたのか、それすらも曖昧だったが俺の声に反応した青年は後ろに飛び退き落石から逃れた。狼も反射的に岩を避けはしたもののワンテンポ遅れて落下していた俺に気づかず下敷きになった。
気絶していたらしくそれ以降の記憶はほとんど残って居ない。
ただ一つ覚えているのは青年が僕の傷を治してくれたことだ。
そしてその時から俺は俺ではなくなった。
正確には戻ったと言うべきだろうか?ユウ・カンザキ・ウォルターは前世の記憶を、神崎雪羽(かんざきゆう)の記憶を得たのだ。
自我の安定が済んでいない幼少の頃に思い出せたのが幸いし、現世と前世、その両方の記憶が混同することは無かった。
何よりも名前が同じだったのが大きい、体は現世のものだが、記憶している時間は前世の方が圧倒的に長いのだから名前が違えば呼ばれても反応できないなんて事もあったかも知れない。
前世の記憶の定着と現状認識には数日を要したが特に大きな問題も起こらず、俺は転生者となった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
選ばれし者ーとまでは言わないが試験で落ちるほど能力が低いわけは無いだろう。
前世では知識こそ最強の武器だと思い本ばかり読んでいたため運動はしていなかったが現世では毎日欠かさず続けている。
身体能力の面でも平均は取れるはずだ。
「残った者は封筒の内側を確認しそこに書かれた場所へ移動しろ」
指示の通り封筒の中を覗くと第二武道館と書かれていた。
グループ別にすることで試験を円滑に進めるのが目的なのだろう。
だがこの場にいる者は学園内の構造を知らない、移動など出来るはずもなかった。
「次の試験は十五分後だ。間に合わなかった者は即時失格、急ぐことを勧める。」
---次の試験・・・ねぇ---
二次試験ではなく次の試験、つまり二次試験はもう既に始まってるって訳か。
試験内容はさしずめ行動力か捜索力ってとこだろう。
それにしてもなんて運任せな試験だ。
とてもトップクラスの学園とは思えない。
とにかく今は第二武道館の場所を探すことに集中しよう。
ここが室内運動場だから運動を目的とする場所は近くにあるはずだ。
運動場を出ると足元に魔法陣が展開された。
どうやら転移魔法を使われたらしい。
移動先は教室だ。
魔法による時間稼ぎがあるのは予想外だった。
スライド式のドアを開けて再び武道館を探しに行こうとしたが、鍵がかかっていて開かなかった。
窓の鍵も固定されていて動かすことは出来ないし強化魔法を使われているのか、本気で殴っても割れなかった。
教室内にあるのは机と一枚の紙だけだ。
紙には『以下の問いに正確した時ドアの鍵は開く』と書かれていた。
「問題どこだよ!!」
思わず叫んでしまったのも仕方ないだろう。
問題を解けと書いてある紙に問題が書かれていないなんて状況を黙って飲み込める人などいると思うか?否、居るはずがない。
日常生活でイタズラをされるならまだスルーも可能だろう、しかし今は試験中でこの教室を脱出し目的地へたどり着かなければならないのだ。
反応するなという方が酷というものだ。
『あーマイクテスマイクテスーあ〜↓あ〜↑』
その声は机の中から聞こえていた。
問題は放送形式のようだ。
紙に問題が書かれていなかったのはこれが原因らしい。
『えー全受験者の皆様、これよりいくつかの問を出題します、正解数に応じて目的地との距離が変更されますので頑張ってください、全問正解すれば目的地に直接転移されますが逆に全問不正解の場合は即時不合格として学園の正門まで転移されますのでご注意を。それでは第二試験!!スタートです!』
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