#58 裁きの閃光



 ……まさか、自分の得物で最期を迎える事になるとはな……もう、身体も動かない……回復する為の動作すら……

 コイツはそれを踏まえて、先に全身を撃ち動きを封じたってことか。



「先輩、さようなら。……アンタの存在、正直言ってウザかったんですよ。」



 ソラはアダマスブレードを振り下ろした。俺の目の前まで白刃が迫る。……迫った……


 しかしその白刃は、俺を両断する事なくその動きを止め、元の形になって地面を跳ねた。ソラの手から離れた、漆黒の短剣が地面を跳ねたのが視認出来た。何が起きた……?


「……なっ……この、光、は?」


 俺の目の前にはソラがいる。しかし、それ以前に、俺とソラの間に、妖精が立ちはだかる。ミルクとラテの二人の妖精が、眩い光を放ちソラの動きを止めたように見える。


「ミルク!?」


「……」


 呼びかけてみるが、反応はない。それならと、俺が立ち上がろうとした瞬間だった。見えない衝撃波が俺の身体を後方へ吹き飛ばす。

 無防備に後頭部を強打した俺の意識が一瞬飛んだ。ぼやける視界で前を見据えてみる……


 まさか、あの二人から?


 どうやらソラは回避したようだが、妖精とソラの間にはかなりの距離があいてしまった。


 そこに更なる光が上空から降り注ぐと光の中に人影が見えた。やがてその光が消え、その姿が露わになる。


「あ、あんたは……」



「……全く……人間共よ、あまりにも醜いぞ? ……そのような輩には、ゴッドゲームから退場してもらわんといかんのじゃ。」



 真っ黒なワンピースに身を包んだ幼女……

 金色に輝く長い髪……

 間違いない、森で木に引っかかっていた、あの金髪幼女だ。ど、どういう事なんだ?

 おいおい、まさか……


「何を驚いておるのじゃ? ……白よ。おう、そうじゃ……あの時は助かったのじゃ。しかし、今のお前達には、少しばかりお仕置きが必要なのじゃよ。特にこの青……妖精達を何じゃと思っておる。

 そのような輩は、その妖精の力によって消されると良いのじゃ。」



 ミルクとラテは手を繋ぎ、それぞれ片手をあげる。すると、地響きが起き二人の頭上に特大のエネルギーが集まっていく。


「儂ら神は、こちら側で力を行使する事は出来ないが、ガイド妖精の力を借りればお前達ごとき、一瞬で消し去る事が出来るんじゃ。……見ておれ。」



 二人の振りかざした光弾はソラに向かって放たれた。ソラは構える。


「無駄ですよ、僕の固有スキル、絶対回避の力があれば、どんな攻撃も当たりませんから! ……神だかなんだか知らないけどさ、僕に力を与えた事を後悔するんだな!」


「……お前は馬鹿か。……今、妖精の力は儂の支配下にあるのじゃ。つまり、お前はただの人じゃ。……かわせるものならかわしてみせい。」




「……え……」




 光弾はソラに有無を言わせず直撃する。



「そ、そん……ぬぁっ……ぐえぁっ……!?」



 そして森を破壊しながら遥か彼方へ消えた。



 一瞬だった。地面は抉られたように砕け、後方の見通しは良くなった。……そしてそこにはソラの姿はなかった。……今の一撃で、消されたのか。


 すると、二人の妖精達が地面にフラフラと落ち、うな垂れてしまった。


「ミルク!? ……ラテ!」



「安心せい、眠っておるだけじゃ。……して、お前はどうする? ……このままお前がゴッドゲームのクリアを拒むなら、儂はお前も消さねばならんが。好みの殿方を消してしまうのは心苦しいが、仕方あるまいよ。また、次の候補を妹に選ばせんといかんな。」


「……ぐっ……俺は……」


「まぁ良い。この村で一晩考えるが良いのじゃ。明日、いい返事を待っておるのじゃ。……ラテは儂が回収しておく。ミルクはお前の手元に置いてやれ。……お前がどうするべきか、もはや戦えん他のプレイヤーの事も踏まえて考えるのじゃな。

 時間はないぞ? 人間の軍が既に魔界へ向けて北上しておるからな。」


 神を名乗る金髪ロリはその後いくつかの言葉を残し、俺の前から姿を消した。


 ……ミルク一人をその場に残して。




 俺はミルクを拾い上げ胸ポケットに入れ、山小屋で気絶しているフリルにメガヒールを施す。自らにも回復を施し、小屋のベッドに腰をおろした。ミルクをそっと枕に寝かせて、フリルに布団をかける。


 ……ゴッドゲームをクリア出来るのは、もう、俺しかいない。第一皇子率いる王国の軍勢は既に北上を開始した。あの金髪ロリの神が言うには、今のミアに対して人間の軍勢なんて、恐るるに足らないと言ってた。今のミアは魔王として完全に覚醒している。降りかかる火の粉は払うと、ミアは言った。


 神はもう一つ、気になる事を言っていた。

 今の精神状態でミアが闘う事になると、間違いなく彼女は暴走する、と。心に禍根を残したまま、器を超えた力を行使すれば、自然と精神が飲み込まれ、力に支配されてしまうと。


 もはや、俺に選択肢はないのかも知れない。ミアを止める……つまり、倒す以外に、道はないのかもしれない。でなければ、彼女は世界を壊してしまう。差し伸べるべき手を差し伸べられなかった俺の不甲斐なさのせいで、ミアは魔王に……世界を滅ぼす災厄になろうとしているんだ。


 ミアは俺に、行かないでくれと言って欲しかったんだ。今ならわかる……助けを求めていた。

 出会った時と同じように、形は違えど彼女は……俺に助けを求めていた。俺は何度もその手を握った。何度も握って、……最後にその手を、はなしてしまったんだ。






 翌日、金髪ロリは宣言通り俺達の前に姿を見せた。肩にはラテの姿。……答えによっては、俺をこの場で消すつもりなのだろうな。

 見た目と違って、何とも恐ろしいやつ。


「心は決まったか? 白のプレイヤー。」


「あぁ、覚悟は決めた。俺は……ミアを……いや、魔王ミアレア=ザンダリオンを倒す。」


「ほう?」


「シロさまっ……!?」


 ミルクは俺の服を掴み声を荒げる。俺はそんなミルクを優しく撫でると、目の前の神に言った。


「条件がある。」


「……? ……神に条件じゃと? ……お前、面白い奴じゃな。……聞いてやっても良いぞ?」


「ゴッドゲームクリアの報酬、何でも願いを叶えられるってやつ……それを先に決めておいてもいいか?」


「勝てるかもわからぬのに、気の早い奴じゃな。どれ、願いは何じゃ? 言うだけ言うてみろ。」




「俺の願いは…………」




 森の草木が風に揺れて、カサカサと音を立てる。俺の願いを聞いた神は不敵な笑みを浮かべると、やれやれといった表情で言った。


「誠、人間とは欲深い生き物じゃな。……何もかもを欲しがる。……良かろう、お前にはアポーの実を採ろうとして引っかかってしまった時、助けてもらった恩もある。その条件、のもう。

 儂はお前には期待しておるからの。……先も言ったが、我々神が直接手を下す事は出来ぬ、それをお前達に力を与え代行してもらっておる。

 ゴッドゲームはただの遊びではないのじゃ。お前達の住む世界とその他の世界の均衡を保つ為、力をつけ過ぎた魔王という存在を消さねばならん。魔王と呼ばれる存在はお前達の世界にも存在するかも知れんし、しないかも知れん。

 この世界の魔王、ルシュガルは偉く賢明な魔王じゃった。いずれ儂ら神が手を下す事も嗅ぎつけるくらいの切れ者じゃ。奴は、死ぬ間際、娘に魔王の称号の種を植え付けた。自らは一魔族に成り下がっての。」



「俺は、助けられるものは全て助ける。……傲慢でもなんでもいい。それが、俺の願いだ。」



「うむ、なら、足掻いて見せよ。そして見事ゴッドゲームをクリアすることじゃな。

 儂はいつでもお前を見ておるからな。


 白のプレイヤー、シロ。そしてミルク。」





 金髪ロリは光の粒になり溶けるように姿を消してしまった。


 俺はこれから、ミアに会いに行く。魔王ミアレアを倒しに行く。全力で、彼女を止める!


 それがミアにとって、いや、俺にとって……




 そうだ。何より、俺の願いだ……!

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