#57 固有スキル



 俺の目の前で真っ二つに両断されたデカブツが断末魔をあげて周囲に毒を撒き散らす。俺はフォトンわ数発放ち、その肉塊を全て蒸発させた。


「さっすがシロさま!」


「はぁ、はぁ……くそ、かなり時間食ってしまった……行くぞ、ミルク!」


 俺は回復薬でHP、MPを回復して、碧毒龍の屍を跨ぎ先へ進んだ。暫く走ると、小さな山小屋を見つけた。……あそこか?

 しかし考えるまでもなく俺は山小屋へ突撃していた。……何故なら、聞きたくもない声が、いや、悲鳴が俺の耳に飛び込んで来たからだ!


 扉を蹴破り内部に突入した俺は、吐き気をもよおした。……人の身体が、……からだのいちぶが、転がっている。……腕、……脚? ……っ……


「き、さ……まぁ……っ……」


 心拍数が上がる。目の前の光景が、何故かボヤけてくる。それくらい頭に血がのぼっているのか? そんな事はどうでもいいっ! ……コイツは……コイツだけは許さんっ……


「…………ぱ。……パ……?」


 小さな身体を震わせながら、俺を見つめる虚ろな瞳に光はない。ただ、掠れた声にならない声で、俺に助けてと、懇願する……フリルの姿……


「……はぁ、もう会いたくはないって言ったのに。……僕の楽しみを邪魔しないで下さいよ?」


 殺してやる。コイツだけは殺してやる。

 フリルを……!


「貴様フリルから離れろぉっ!」


 俺の放ったフォトンはソラのすぐ横を通り過ぎては後方の壁をぶち破った。

 ソラは狂気に満ちた顔で俺を睨みつけ、そして笑い、俺を無視して……持っていた鉈でフリルの胴体を裂いた。裂いて、突いて、何度も、それを繰り返し……最期に断末魔をあげたフリルの首を、


 ——————た。


「ゔぇ……ひ、どい……」


 ミルクが目を逸らす。


「大丈夫ですよ、先輩。……ほら、フリルちゃんは不死身だから、いくら殺してもこの通り、元に戻ってしまうんですから……

 面白いですよね、こんな玩具、現実世界にはありませんよ! ……次はどうやって殺そうかな? くははっ……そうだ、窒息とか面白そうだなぁ、確か近くに川があったし、そこで死ぬまで頭を踏み付けてみるのも良さそうだ!」


 すぐに光を放ち再生したフリルは、ソラを見て声を震わせた。


「ひぃっ……も、もう殺さないでっ! 痛いの嫌です、怖いの嫌、苦しいのも嫌……助けてパパ! ……フリル死にたくないよ! ……こわいよ!」


「騒ぐなガキ!」


「きゃぁっ!」


 ソラはフリルの身体を蹴り上げ床に叩きつけた。跳ねる小さな身体に追い打ちをかけるように壁に向かって蹴り飛ばしケタケタを狂気に満ちた笑い声をあげた。

 俺の身体は自然に動いていた。アダマスブレードを振り回し、ソラを斬らんと猛攻を仕掛ける。しかし、その全てをことごとくかわすソラは俺のあけた壁の穴から外へ飛び出した。


 距離を置いたソラの肩にはお団子妖精のラテの姿が見えた。


「ラテ! ……今すぐソラさんを止めてくださいっ! こんな事……間違ってますっ!」


「……ミルク……」


「ココアは……何とか一命は取り留めました、でも、もう二度と飛べない身体になったんですよ! チーノだって……もう……いない……」


「……あ……」


 ソラは肩のラテを摘み黙らせると、メニュー画面を開こうと手を出した。

 俺はその隙を狙って、フォトンを放った。白い粒子砲は完全にソラを捉えた、……捉えた筈。


「残念、ハズレです。」


 あり得ない、今のは当たるはずだ。当たらない訳がない。コイツ、どうなってるんだ?


 ……っ!? しまった! ……考え事なんてしてる場合じゃなかった!?


 ソラの放った反撃が俺の肩を貫き、後方の木々をも貫いていった。思わずアダマスブレードを地面に落とした俺は痛みのあまり声をあげた。


「はい、もう一発いきますよ? どん。」


「ゔぁぁぁっ!!」


 次々と俺の身体を貫く水色の粒子砲。膝をやられた……駄目だ立てない……くそっ……視界が……薄れてくる……

 だが、負ける訳にはいかないっ!


「くっそぉぉっフォトン!!」


 また……かわされた……!? いや、違う……そうか、


 ……かわしてるんじゃない、


 こちらの攻撃が、逸れているんだ……!



「やっと気付いたみたいですね? ……でも、もうお終いですから、さようなら。どん。」



 そこで、俺の意識は途絶え、




 次に目が覚めた時、俺の目の前にいたのは……



 アダマスブレードを振り上げた、ソラの姿だった。



「先輩のジョブアビリティは優秀ですよね。一度生き返る事が出来るんですから。でも、知ってればなんて事ないんですよね、これ。」


「くっそ……」


「シロさまっ! 避けて下さいっ! シロさまぁっ!」



 駄目だ……ダメージがあり過ぎて、避けられない……ミア……フリル……



 俺はまた……最初から最後まで、何一つ、誰一人、守れずに、こんな狂人まがいな奴に殺されて終わるのか?


 最期に、お前に会いたかった。


 伝えたかった。……好きだって……


 ……ミア……!



 …………



 ……俺は……負けたくねぇっ!!

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