#56 DJアルマの助言



 俺とミルクはソラの去っていった森の深部へヨロシク号を走らせる。ソラの移動手段は自転車だけのはず、つまりそう遠くへは行けない。

 それに関してはこちらに分がある。

 しかし、こんな王都から離れた森の中に、拠点になるような場所があるのか? 探せ、探すんだ……フリルを助けないと。


 俺はアクセルベタ踏みで森を走り抜ける。悪路で跳ねるヨロシク号のエンジン音は唸りを上げている。頼むぞ、持ち堪えてくれよ。

 俺の気持ちに応えるように、再び唸りを上げたヨロシク号は更に速度を上げた。


 お前も気持ちは同じって事か……!


「シロさまシロさまっ! かなり深い場所まで来ましたが……ソラが見当たりませんよ?」


「あぁ、いったい何処まで……自転車だってのに。ソラの奴のステータスは不明だし、何か厄介な固有スキルを持ってそうだな。」


「確かに、あの速さは尋常じゃなかったです。まるで全部見えているかのような……」


「というか……いや、まだ確信のない事は言わない方がいいか……」



 暫く走り抜け、ヨロシク号が再び跳ねたその時、あの声がスピーカーから鳴り響く。

 そう、



『呼ばれて飛び出る女神っ! 金色のアルマっていったら私のことよっ!』



 ……え?


「お、お前はっ!? 俺達をこの世界に飛ばした胡散臭い女神、えっと、アレマ? だっけ?」


『てめぇ、今のわざとだろ! ……っと、いけないいけない。……アルマよ! そんな事より、ちょっと大変な事になって来たみたいだよ?』


 スピーカー越しに話しかけてくる女神の声は落ち着きのない様子。大変な事、だと?


『君達プレイヤーが好き放題し過ぎて、ねぇ……、じゃなくて、主神様がお怒りなんだよ! 今、こうして連絡を取っている事もバレたら怒られるんだから、手短かに話すよ!』


『まず、プレイヤーの目的はあくまで魔王の撃破、その目的を果たそうとしない者はペナルティを受ける。君は迷っている、そうだよね? でも、今の魔王はあのミアレア=ザンダリオンなんだということ、肝に銘じておきなよ?

 そして何より、青だね。……大事な妖精達に対する冒涜、そしてゴッドゲームのルールに反する思想、……あの男を止めてほしいんだよ。でないと、主神様が自ら降臨してしまうから……そうなってしまったらプレイヤーは全員、消されてしまう!

 ……送り出した身として……それは避けたいから……わざわざ君に繋いだんだ。』


「お前……」


 そうか、コイツも責任みたいなものを感じて……主神様ってのが何かは知らないが、色々と大事になりそうだな……


「ソラの居場所は……わかるか?」


『今調べるよ……ちょ、……と……っ……』


 ……ノイズが凄い……聞こえない……


『……っ……』


 くそっ……時間切れってか?


『…………ひ、……が、…………し……』


「シロさまっ!」

「あぁ、東だ! 行くぞミルク!」



 ミルクはタブレットで東の方角を調べ、指をさす。俺は急ハンドルで右に旋回して、森の更に奥、深部へと足を踏み入れた。

 道幅は徐々に狭くなり、遂にヨロシク号では通れないくらいになる。俺達は徒歩で更に奥へ向かう。


 あのヘンテコ女神が言い残した、東、というヒントだけを頼りに、道無き道をひたすら進んだ。

 そんな俺達の目の前に、咆哮をあげながら立ちはだかるもの、


「シロさま……こ、これは……」


「デカいな……全く。」


「……データ出ました! ……碧毒龍ヘルプラント、推定LV150、吐き出す液体に触れると毒を受けてしまいます!」


「毒か。……あいにく俺に状態異常は無意味だ。すぐに治せるからな! ……俺は今、虫の居所が悪いんだよ……退かないなら、容赦はしない! 魔神撃破時のEXPでレベルは100になった。負ける気はしない!」


 俺はネクタイを緩め邪魔な前髪をかきあげた。そしてメニューを常時解放にして、大天使の翼を展開、……ビジネスバッグから漆黒の愛刀、アダマスブレードを取り出し鞘を抜く。白く輝く刀身は、目の前の獲物を両断出来る程の長さに伸び、白く光りを放つ。


「そこを……退けぇぇっ!!!!」



 

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