なんと『魔王の娘』がなかまになりたそうにこちらをみている。〜約束、プロポーズは『異世界』で！〜

＃55 神に背く者

「お前……」

　何故コイツが赤の妖精を撃った？　……くそ、今はそれどころじゃない、撃たれたココアに回復を！

　ガイド妖精にＨＰの概念はない。効いているかもわからないが、このまま死なせる訳にはいかない。するとユウヒが悲鳴じみた声を上げる。

「……ソラ！？　な、なんでこんな事するの？　……い、一緒にゴッドゲームをクリアしようって、それでまずは白を倒そうって……」

「あー、それ、嘘。……僕の目的はプレイヤーを倒す事でも、ゴッドゲームをクリアする事でもないんだからさ。」

　ソラ……青のソラ！？

「そ、そんな……ソラは……私の事を……ゴッドゲームをクリアしたら、元の世界で会って、付き合おうって言って……くれた……よ？」

「あ、それも、嘘、……嘘だ。僕は女に興味ないんだよ。……そもそも、この世界から帰る気はないんだからさ。……こんな面白い世界、滅多に来れるものじゃないし、それに……こんな面白い玩具だって存在するんだからなぁ！」

　ソラの後ろに、拘束されて身動きの取れないフリルの姿が見えた。フリルは抵抗しているようだが、どうやら何かしらの力で拘束を解けないようだ。

「無駄だよ、フリルちゃん？　……その首輪、幻獣の力を無力化する力があるんだからさ。そこの防具マニアの女が持ってたんだ。ちょっと好きだとか言ったら、ひょいひょい何でも貢いでくれるんだから、女って簡単だよな。」

　ソラは不敵な笑みを浮かべてユウヒを見下した。そうか、つまりコイツがユウヒの気持ちを弄んで、俺達を倒す為に利用したのか……

「許さない……この作戦の為……カモフラージュとか言って、ココアの羽まで……もいで……」

「上手く騙せただろ？　それにお前も賛同してたじゃん。自分でもげないからって人にやらせておいて、その言い草はないぞ？　あ……その人、お節介で世話焼きだからさ、弱ったユウヒちゃんを仕向ければ油断すると思って。」

　なんだ、コイツは……俺の知ってるソラじゃない。いや、まさか元からコイツは……

　そうか……奴隷市場でフリルを捜していたのは……最初から不死身のフリルを玩具にする為だった？　……だとしたら、この男、

　とんでもないクズだぞ……！？

「お前……っ」

「怖い顔しないで下さいよ、先輩。……今はそこの死にかけの妖精の手当てで動けないでしょ？　無理しないでくださいよ。ヒールを解いたら、死ぬよ、その妖精ちゃん。」

「くっ……このっ……！」

　ユウヒがメニュー画面を開こうと動作するが、ウィンドウが表示されない。何故だ？

「な、なんで開かないの！　……くっ、デカラビア！　お願……い……？」

　そう言った瞬間、デカラビアは形を維持出来ず、ユウヒの腕の中で消えた。これはいったい、どうなっているんだ？　……まさか……妖精……？

「ミルク！　説明しろ！」

「あ、あの……ガイド妖精の機能が停止、もしくは停止寸前の状態では……プレイヤーの全ての機能も停止、ＬＶは初期、メニューはおろか、スキルの発動すらできません。でもでも、基本的に妖精を直接攻撃するのはルール違反ですからっ……」

　なんだよ、それ……

　ソラの肩に乗るお団子頭の妖精は、目を背けている。仲間が死にかけているってのに、

　それでも、主人には逆らえないのがガイド妖精って事かよ。

「残念でした。悪いけどゴッドゲームは終わらせないよ？　だってさ、こんな楽しい世界、帰るのが勿体ないだろ？　今回は見逃してあげるよ、どうせ、もう闘えないし、それに、シロ先輩は今の魔王を倒すなんて出来ませんしね。それじゃ、もう二度と会わない事を祈りますよ。お互いの為。」

「ま、待て！　ソラ！」

「パパぁっ！　たすけ、て……！」

「フリル！　くそっ……フリルをどうするつもりだ！　ソラ！」

　ソラは振り返り、狂気に満ちた表情で言った。

「決まってるじゃないですか～？　ストレス発散の道具に使うんですよ。」

　俺はすかさずフォトンを放った。しかし、

「無駄ですよ。僕に攻撃を当てようなんて。」

「速い！？」

　その後、去っていくソラに何度もフォトンを放ったが、そのどれもが当たらず、まんまと奴を逃してしまった。妙だ……あれだけ撃って当たらないなんて、どれだけの素早さなんだ。

　意味が……分からない……

　何にせよ、ソラを追ってフリルを助けないと。こんな時に……今は人魔戦争が勃発するかも知れないって状況なのに。

「シロさま……」

「フリルを助けに行く。……ユウヒちゃん、色々聞きたい事はあるが、今はここの宿で眠ってな。せめて、元の世界に帰れるように、俺も考えてみるからさ。」

　何とか一命を取り留めたココアを抱いて、ユウヒは小さく頷いた。

　ソラ、許せないな。こんな女の子の恋心を弄んだ上、フリルを玩具にしようなんて……俺は……

「今はあんな馬鹿に付き合ってる時間も余裕もない……すぐにヨロシク号で追いかけるぞ！」

「はいっ！」

　ミア……どうか早まらないでくれ……ミアが人を殺める姿なんて、俺は見たくない。

　させたくない……

　ソラを止めたらすぐに王国軍を止めないと。そして……そしてどうする……？

　結局俺は、まだ迷っているのか。

「シロさま！」

「すまん、行こう！」

　俺達はヨロシク号に乗り込みソラの去って行った方角へと、車を走らせた。