#52 赤のプレイヤー



 何故、こんな事になったんだろうな。

 俺はただ、ミアを守りたいだけなのに。

 人魔不可侵協定も、魔王亡き今は形骸でしかない。第一皇子、彼は魔族と事を構えるつもりだ。


 あの短銃、……白に金色の装飾があしらわれた短銃から放たれるあの光の筋の威力は計り知れないものがある。弱っていたとはいえ、魔界の四魔人将の三人を一撃で屠ったのだから。

 それも、

 ミアの目の前で、ゴミのように。


「……パパ?」


 あの後、王都の南部に位置する小さな村で身を隠している。あの時、俺は正気を保てずに第一皇子に刃を向けた。それをミルクが止めてくれなかったら、今頃、アイツを殺していただろう。


「……シロ……さま?」


 これからどうすればいいのか。

 軍は恐らく近いうちに北へ進軍するだろう。人間達、いや、現王と第一皇子は知っていたのかも知れない。第二皇子ルーファスに成り代わり、魔族が叛旗を翻すことを、敢えて泳がせて先に手を打たせた、もし……もし、そうだとすれば……

 やっぱり、人間ってのは……醜い生き物だ。


「シロさまっ!」「パパ!」


「お、悪い。考え事をしていた。」


 ミルクとフリルは安心したような表情を浮かべてくれた。心配してくれているんだろう。

 情けない男だな、俺は。悩む必要なんてない筈なんだ。俺はミアを守りたい。


 例えこの国を敵に回しても、同じプレイヤーと衝突する事になっても、その気持ちは変わらない。

 何か方法がある筈だ。ミアを救って、それから俺も、元の世界に帰る。こんなふざけたゲームは、もうお終いにしないと。


「ミルク、フリル、俺について来てくれるか?」


 二人は首を縦に振り笑顔を見せる。


「これから他のプレイヤーの捜索をしたい。まずは赤のプレイヤー、ユウヒちゃんを見つけて、今の俺達の状況を話してみようと思う。」


「もし、もしも赤のプレイヤーが協力してくれそうになかったら……?」


「その時は……俺がユウヒちゃんを止める。例えゲームオーバーにしてでも、だ。」


 迷いはない。俺は……


 ミアに伝えないといけない。ミアはずっと……そうしてくれていた。


 ミアを止めないと、

 人間の進軍を止めないと、

 ミアが、魔王として人間を殺してしまう前に、

 人間達が魔界を滅ぼす前に、


 俺が全部、解決してやる。





 その時、部屋のドアが激しく開いた。そのガタンという音で、ふと我に返った俺の視界に入ったのは、


「はぁっはぁ……た、すけて、くだ……さ……」


 突然部屋に転がり込んで来たのは、ゆるふわツインテールに立派な防具、そして不気味な人形を抱いた少女だった。

 少女は肩で息をしてその場にヘタリ込むと、俺を見上げる。……赤のプレイヤー、ユウヒだ。


「君は……ユウヒちゃん?」


「はい……ゔっ……」


「シロさま! 怪我をしているようです!」


 確かに、膝を見事に擦りむいている。とりあえず回復してあげるか。

 俺がメガヒールを施すと、ユウヒの膝の傷は簡単に治った。大した傷ではなかったようだ。


「あ、ありがとう……ございます。」


「いや、構わないよ。それより、どうしたんだ? ……血相変えて。」


 俺の問いかけに、不気味な人形を抱きしめたユウヒが答える。


「黒のプレイヤーに……突然襲われて……とりは殺されて、なんとかデカラビアさんとココアと、三人で逃げて来て……そしたら偶然、貴方を見かけたから……」


 黒のプレイヤー? ……ネロ? 

 しかしネロは……


 何処かで生きているのか?

 そしてまた、プレイヤー狩りを再開した?


 すると突然、ミルクが声を上げる。


「ココア!? そ、その羽……どうしたんですかっ!?」


「……」


 ミルクの問いかけに全く反応を見せないユウヒのガイド妖精、ココアは俯きただ震えている。

 その背中の羽は片方が引き千切られたかのように、欠けていた。そう、羽を一枚、失っている。


「ココアの羽は……黒のプレイヤーにもがれてしまった……」


 ユウヒはそう言って俯く。俺は力無くうな垂れたココアを両手でそっと抱え、メガヒールを発動した。小さな身体は震え、恐怖からか焦点も合わない様子だ。……混乱しているんだろう。

 可哀想に……これで少しは楽になれるはず。





 

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