#50 魔力暴走


 辺り一面、雪景色とはこの事か。


 ラピスラズリへ足を踏み入れた俺とミルク、フリルは魔女のいた場所で一人空を見上げるフールを見つけた。身を隠し、息を潜める。

 周囲は完全に騎士が包囲、魔人将の三人も突撃の準備を終えたようだ。


 作戦は単純、一気に火力で押し通す。ガラントの作戦はある意味的を射ている。魔神フールは強かった。生半可な攻撃では倒しきれない。

 それなら全火力を一気に叩き込み、有無を言わせず勝負を決める以外ないだろうから。

 魔人ヴィネもその作戦に首を縦に振る。


 総力戦だ。



 突撃まで後十秒。



 ……三、二、一、



 ガラントは全軍に突撃指示を出し、自らも槍を構えた。


「全軍! 目標は魔神! とつげきぃーー!」


 騎士達は一斉にフールへの突撃を開始した。ヴィネ達も空から攻撃を仕掛ける。

 俺達の役目は、全軍の攻撃で弱ったフールにトドメの一撃を撃ち込む事だ。俺は敢えて自らのHPを10%以下にして待機している。


 そう、邪龍を倒したあのスキルだ。


 インペリアル=レイ


 この一撃に賭ける!



 魔神フールの強さは言うまでもなく凄まじかった。ガラント率いる第三騎士団をもってしても決定打を与えられず手をこまねいてる。

 フールの周囲には漆黒の影が取り巻くように渦巻いていて、不用意に接近するだけで強烈なダメージを負ってしまうみたいだ。


 ミルクは空中から相手のHPの確認をしながら弱点がないか探りを入れてくれている。そんなミルクはフリルの背中から声をあげる。


「だ、駄目ですっ! 全然ダメージが通っていないようですっ!」


 くそ……こんな時にプレイヤーの協力があったら……ソラの奴、今どこにいるんだ? 居ない人間を頼っても仕方ないか……しかし、このままこちらの体力が尽きるのを待つだけなのは……


 そんな時、魔人将のヴィネが龍に乗り凄いスピードで強烈な一撃を撃ち込む! 一瞬、フールが怯んだかに見えた。


「フール! お前のしている事はルシュガル様への叛逆でもあるのだぞ!?」


 フールは呼びかけに微動だにせず、自らの背中から伸ばした魔手でヴィネに攻撃を仕掛ける。ヴィネはそれを器用にかわしながらフールの展開していたバリアのような壁を破壊した。


「全軍、撤退!」


 フールから軍が離れていく。どうやら俺の出番のようだ。フールは体勢を崩し地面に膝を落とした。そしてケタケタを高笑いを上げ自らの身体の中心に魔力を溜め込むような動きを見せる。


 俺は手を上げ、雪の降る空に巨大な魔法陣を召喚する。そしてフールと同じように力を溜める。正直、まだ一度しか使った事がないだけあり、内心びびってる俺がいた。

 やがて空の雲が晴れるとそこには邪龍を倒した時と同じように豪華な魔法陣が展開された。


「……これで……インペリアル=レイ!!」





 一瞬、光の筋が降る。と、同時に強烈な大爆発が起き、そこにいた全員が後方へ吹き飛ばされてしまった。俺も見事に吹き飛び地面を転がった。


 しかし、

 視界の悪い状況で悲劇が起きる。全方位に伸びた魔手がガラントの騎士団の半数を一撃で貫き喰らった。一撃で果てた肉体を回収するように、砂埃の中へ引きずり込んでいく。


 やがて視界が晴れ、異形と化したフールが姿を現した。身体から生えた無数の腕、吸収した人々の顔が浮かび上がる肉体、紅蓮に燃える背中の七枚の翼。声にならない、雄叫びをあげるフールを真っ赤なオーラが包み込み激しく渦巻いている。


「シロさまシロさまっ! た、大変ですっ!? 暴走状態です! 推定LVは測定不能ですっ!」


 強化されただと……暴走……やっかいだ。しかしこうなったら直接行くしかない! ここで負けたらミアを守るどころの話じゃなくなってしまう!

 くそ、ネロでいいから手をかしてくれれば……いや、そうじゃない……


 俺が守るって決めたんだ……俺が……


 俺はミアの事が……


「ミルク、ガラントさんに伝えろ! 俺と魔人将達で前衛をやる! 後方から回復と援護を頼むと!」


「わ、わかりました! フリル、お願いします!」

「はーい、急降下しますよーー!」



 大天使の翼、リジェネレーション……そしてアダマスブレード、俺にはこれしかない。だけど、


「頼むぜアダマスブレード……よし、うおおぉぉっ! 伸びろぉぉぉっ!!」


 瞬時に伸びたブレードは魔手に弾かれる。しかし俺様そのまま奴の元へ突撃した。全方位から伸びる魔手をかいくぐりながら! 前へ、前へ!


「フォトン!」


 駄目だ……相手に着弾した瞬間に蒸発してしまう。飛び道具は恐らくダメージが通らないとみた。なら、アダマスブレードで斬る。


「フール! この一撃に全ての力を込めてやる! お前には悪いが、これで終わりだ!」


 とか格好付けたのはいいけど……自信なんかあるわけもない。だがしかし、やるしかない!


 俺はイメージする。アダマスブレードの刀身は見る見るうちに巨大化、異形の魔神と化したフールをも両断出来る程の巨大なブレードと化した。


 俺はそれを、渾身の力を込めて、振り下ろした。

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